第10話 敵の大将を探す。
正門が開いているフィレノーラ要塞に一人で突入した。
俺はこの世界のことを何も知らない。
聖女が過労した理由も、軍人がまだいるはずなのに突撃し……死んでいったあの女性たちを駆り立てた何かも。
俺は何も知らない。
ガルシア帝国の皇帝———イルロンド・カイマインドという俺が転生した先がなんであるのかすら、わかっていない。
だから、知りたいと思った。
知らねばと思った。
この世界が何なのか?
神聖アルトナ公国とは何なのか?
神とは何なのか?
暗い要塞の通路を歩く。
「誰もいない……」
戦時中だというのに、先ほどまで女たちが戦っていたと言うのに、中はもぬけの殻のようにがらんとしていた。
「聖女の言葉では、全員で500人……さっきの女たちは300人だったから、200人はこもっているはずなんだけど……」
広い要塞内部でまだすれ違う人間はいない。
普通に考えて、敵であるガルシア帝国軍がすぐそこまで迫っているので、最大限の警戒をして兵を配置しているはずなのに……。
「どうして誰とも出会わないんだ?」
まぁ、もっとも出会ったら困るが。
一応シュバルツに借りて一本の鉄の剣だけは借りてきたが、皇帝が一人で敵陣のど真ん中に突っ込むのは無謀すぎる。
チートスキル【魔眼】があるからシュバルツは渋々俺が突入するのを認めざるを得なかったが、普通は許さない。
護衛も一人もつけずに中に入るだなんて……。
「イルロンド様。どこに向かっているでありんすか?」
「うわあああッッッ!」
急に話しかけられて飛び上がる。
「き、君は……シヴァ⁉」
「はい、我でありんす」
ビシッと何だか可愛らしく敬礼をする鬼の頭領シヴァ・キシン。
「待ってるように言っただろ⁉」
「万が一のことがあるでありんすから、やはり護衛に……それに、イルロンド様のお調子も悪いご様子で御座いますので。今まででしたら、この要塞、ゴブリン部隊に突撃させて虐殺と略奪の限りを尽くさせていましたのに」
残念そうに肩をすくめるが、そんなことをさせてたまるか。
「そんな奴だったの? 俺」
「そんな奴でしたよ。あなた様は」
「そっか……じゃあ、これからは虐殺と略奪は禁止ね」
「なぜ⁉」
「当たり前だろう! そんなことは……理由は長くなるし、今は上手く話せないから言えないけど、虐殺も略奪も肯定できる理由は絶対にない。相手を傷つけてこっちが満足するだけなんて、必ず恨みが返ってくる行為だ。無駄に復讐の理由を作られる。だから、絶対ダメだ」
「えぇ~……でもぉ~……」
「でもじゃない! ……それよりもシヴァ、敵の大将がいる場所に行きたいんだけど、どうやったらいけると思う?」
俺は天井を指さし、情けないと内心思いつつもシヴァに尋ねる。
シヴァはきょとんとした顔で、上を見る。
「敵の大将……でありんすか?」
「そう……多分侯爵貴族の将軍とか、そういう偉そうな人だと思うんだけど……」
そういう人なら、建物の一番高いところで周囲を見渡すことができる場所にいると思っていた。
そのために階段をずっと探していたが、見つからない。
「貴族……もいるでしょうが……おそらくここで一番偉いのは‶神〟ですよ」
「神⁉ 神様がわざわざこんな場所に来てるのか⁉ 敵の総大将が⁉」
じゃあ、見つけて倒したら―――帝国の勝利じゃん。
「総大将? いえ、神の一人だと思いますよ」
「神の一人?」
「ええ、今の公国を支配している神は全員で71
「な、71⁉ そんなにいるの⁉」
「ええ、当たり前でありんしょう?」
マジかよ……A〇Bみたい……いや、それより多いじゃない……48以上いるんだもん。
「神って何人もいるのな……」
「ええ、だから厄介なのでありんしょう?」
「———で、この要塞のトップが神ってことを教えてくれてありがとう。そいつが要る場所へ昇っていくための階段は何処にあるのかな?」
気を取り直して、周囲を見渡す。
燭台に火が灯っているレンガ造りの洞窟のような道がひたすら続いている。
薄暗いのもあって、全然道がわからない。
「そうでありんすねぇ……まぁ、我もそこまで人間の要塞に詳しいわけではないでありんすが、こういう危機的な状況で神がこもりそうな場所は大体わかるでありんすよ」
「本当か?」
シヴァは「ええ」と短く答え、足元を指さした。
「多分、神は此処にいるでありんす」
「下?」
そしてまた「ええ」と短く答え、
「———その神までの直通通路を———この剛力将軍、シヴァ・キシンがイルロンド様のために作ってあげるでありんすよ!」
拳を握りしめ————床に一気に叩きつけた。
「おい———⁉ 何を————⁉」
床が……割れた。
崩れる足元に飲まれ、俺はそのまま近く深くへと落ちていく。
「うわああああああああああああああああああああああああああ!」
情けない叫び声をあげる俺に対して、シヴァは極めて冷静だ。
冷静に———こう言う。
「虐殺が肯定できる理由はない———そんなことは、‶神〟の所業を見て言えるでありんすかねぇ……」
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