第7話 五大魔将

 翌日になり、フィレノーラ要塞という公国の要所を攻める準備ができたというので軍議が始まった。

 ボンタロ野営地の指令本部にガルシア帝国の将軍たちが集められ、一つの地図を囲み———七人の人間・・たちが作戦を話し合う……わけではなかった。

 ガルシア帝国の公国侵略軍司令部は七人の〝人間〟で構成されている話ではなかった。


「では〝人類〟部隊は要塞の正面に陣を取り、〝亜人〟部隊の前列に位置し、先陣を切るということで———」


 髭面将軍シュバルツが、机に広げられた四角形のフィレノーラ要塞の図面の正面入り口前に凸の形をした白い模型を置く。


「〝亜人〟とは何たる言い草! 我々のことは魔界に属する者———〝魔族〟と呼べといつも言っているだろう! そして魔族の中で最も位の高い〝悪魔族〟が当然先陣を切らせてもらう!」


 背中にコウモリの翼を生やし、槍状の尻尾を生やした銀髪の青年がシュバルツの置いた白い模型をどかし、黒い模型を置く。


「フン! 何が位の高い〝悪魔族〟だ。元々神に仕える者だったのが堕天しただけであろう! 貴様らなんぞに先陣は任せられん! 要塞の壁を突破するのは容易なことではない、ここは巨人トロル有する我々〝鬼族〟に先陣を!」


 頭に角を生やした和服を着崩した赤い目の少女が、先ほどと同様に自分の赤い模型を前にあったものをどかして置く。


「いいや。ここは最も強い〝竜族〟が空から爆撃を仕掛けるべきであろう」


 湾曲した角を持ち、エメラルドの鱗が付いた翼を腰のあたりから生やした幼女が緑の模型を置いた。


「バカを言うな! ここは〝魔族〟の中で最速のオレっち率いる〝獣族〟がパーッといってバーンッって制圧するのが一番いいっしょッ!」


 土色の毛並みを持つ尻尾と長い爪と牙を見せつける細マッチョの青年が黄色い模型を置いた。


「落ち着いてください~将軍方々……我々の敵は神のはずです。ここで我々が先陣を争っていがみ合っても百害あって一利なしですよ~……ということで、ここは一番中立性のある私率いる〝妖精族〟が、間を取って先陣を切ると言うことで———」


 と、蝶の羽を持つ金髪巨乳の美女が青色の模型を置く。


「どこが間を取っているって言うんだ!」と鬼の角を生やした少女が反発し、ギャーギャーとまるで子供の喧嘩のような言い争いが始まってしまった。

 俺は、ついていけずにただ立ち尽くしてしまう。


 何なんだこいつらは———⁉


 昨日、戦闘で会った人間と雰囲気と全く違うやつらだった。

 そもそも―――シュバルツ以外人間じゃない。

 翼は生えているし角も生えている———見事に彼らが自称しているファンタジー世界の〝魔族〟そのものだった。


 ガルシア魔導帝国は———魔導機械が発展した人間だけで構成された帝国じゃないのか?


「———仕方がありません、イルロンド様。決めていただきたい。どの部隊が先陣を切るのかを」


 シュバルツが俺に振る。


「あの、その前に一個いい?」

「はい? なんでしょう?」

「ガルシア帝国って魔道具が発展した、軍事技術が発展した帝国で……人間の軍人だけがいる軍隊だと思ってたんだけど……違うの?」

「何をおっしゃっているんですかイルロンド様!」


 しまった。

 皇帝としてあまりにも無知を晒す発言だった。

 これはシュバルツからの心象をかなり損ねるかな……、


「我々の反対を押し切り、この〝亜人〟共を受け入れ人間と平等の権利を与えているのはイルロンド様ではありませんか……本来であれば、魔道具開発が進み人間だけで神を殺し、手柄を独り占めしたかったものを……!」


 ぐぬぬと拳を震わす。

 銀髪の悪魔からは「そうやって手柄を焦ったから、聖女に部隊の半数以上を減らされて、結局僕たち〝魔族〟に増援を頼むことになったんだろうが。やーいやーい」と挑発されている。


「そ、そうだったな……」


 俺は軽率な発言を反省するが……ガルシア帝国の状況がわからない。

 だが、また軽率な発言をして皇帝としての立場を弱くしたくはない。

 もしも皇帝としての威厳がなくなれば、聖女を保護し続けられなくなるかもしれない。

 どうしたものか……。

 俺は机の上に置いてある平原と森に囲まれたフィレノーラ要塞に目を落とす。

 平地にあり、頑丈そうな城壁を砦の前に置いているが、囲みやすくそこまで攻略に苦労しそうではない地形だ。

 そうだ。


「わかった。では将軍たちよ———この私、イルロンド・カイマインドに自分の有能さをアピールせよ!」


 俺はできるだけ偉そうに言った。

 アピール合戦をさせることで、ここにいる人間の情報を聞き出そうと言う算段だ。


「このイルロンド直々にが、最も攻略に適したものに先陣を切るという名誉を与えよう! ちゃんと自分の役職と名前と、部隊の特色を述べるのだぞ!」


 まるで面接官みたいなことを言っていると自分でも恥ずかしくなってしまう。


「ハッ! 左将軍シュバルツ・ゴッドバルド! 高度な魔道具を扱う人類軍を率い―――、」

「貴様はいい! 人間は先の戦いで活躍もしたし、消耗もした! 今回は後方で力を蓄えて置け!」


 我先にとアピールしてきたシュバルツを手で制すると、彼はしょぼーんと肩を落とした。


 そして———代わりにとばかりに銀髪の悪魔が前に出る。


「僕は暗魔あんま将軍———アスタロト・アビスレイン! 僕の率いる悪魔軍はインキュバスやサキュバスのように人を惑わす魅了魔法や暗黒の力を操る闇魔法が得意さ!」


 次に角の生えている鬼の少女が前に出て、


「ガッハッハ! 我は剛力ごうりき 将軍———シヴァ・キシン! 我が鬼人軍はゴブリンやオーガを始め知能は低いが、パワーはある! 数もいる! 数こそは力! 力! 力‼ 力‼‼ それが正義だ——————————————‼」


 その次に前に出たのは、竜の翼を持つ幼女だった。


「余は天竜てんりゅう 将軍———バハム・スライバーン。率いるは最強の竜族。火を吐き空を飛ぶワイバーン。猛毒を体に宿すヒュドラ。そういった強力な竜が何体もいる……それだけで余らの有用性を理解できよう?」


 今度は、土色の毛並みを持つ青年が前に出る。


「オレッちは疾風しっぷう将軍———フェンリル・バルジャン! 獣牙軍を率いる。オレッちたちの軍はなんせ速い! 銀狼族は一日で千里を超えて走るし、風のように駆け巡る。それに獅子王族は鋼鉄をも引き裂く爪と牙を持っている! 強いZE☆」


 最後にゆったりとやって来るのは蝶の羽を持つ巨乳美人。


わたくしは~……絢爛けんらん将軍———オベイロン・エルフィーナ~……妖精軍を率いておりまして~、ピクシーの持つ鱗粉は人間を眠らせることができますし、アラクネアは小さな虫を操作して作物を食らいつくす嫌がらせもできます~」


 それぞれが紹介アピールを終える。


 ―――さぁ、どの将軍に、どの種族に先陣を切らせるんですか?


 ずずいと、魔族たちが俺を急かしてくる。

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