第11話 初戦3
数瞬の後に、視力が回復した龍一が言った。
「今のはやばかったぜ。保険をかけといてつくづく良かったぜ。」
「くそっ。」
苦しみながらも冬至は悪態をついた。
「お前は俺が4本のナイフを自在に操ると考えていたようだが、実際、俺は5本まで操れる。ただし、まだ能力の練度が不十分でな。4本を常時発現し、5本目は俺の周囲1メートル以内に入った際に俺が敵の攻撃に反応していない場合に自動的に攻撃を加えるように設定していたんだ。まさか、緊急時のために備えていた能力まで発動させられるとはな。無能力者のくせに大したもんだ。」
説明が続いている間も冬至の身体からは生命が流れ出るかのように血が吹き出している。
「まあ、切り札は最後まで取っておくもんなんだよ。さて、言い残すことはあるか。」
そう言いながら近づいてくる相手の足音は死神の足音に聞こえた。
(くそくそくそっっっ。まだ何もしていねえのに死んでたまるか。動け、動いてくれ。)
動けと願いながらも、冬至の身体は僅かに指先が動く程度だった。
相手は冬至の間近まで来て、ナイフを振り下ろそうと構える。
その瞬間、冬至の身体が光り白い靄のようなものが身体を包んだ。
今まで大量の血が流れていた傷が塞がり、身体が動かせるようになった。
相手もその現象に一時困惑して隙が出来たので、近くに転がっている剣を拾い、距離を取った。
(何だこれは、身体が燃えるような感覚だ。そして身体が軽い。まるで羽を得た気分だ。)
「畜生が!!こんな状況で能力に目覚めやがったのか。しぶとい野郎め。」
「どうした。びびってるのか。」
冬至は今まで感じたことない感覚に気分はハイになっていた。
「死に損ないが、とっとと地獄に送り返してやるよ!!」
4本の凶刃が冬至に迫るが、その全てを剣で弾き、目にも止まらぬ速さで相手との距離を詰める。
相手のオート防御機能が反応するがそれすらも、剣で弾く。
少しの時間を得たことで、相手も冬至を認識し、ナイフで防御を試みるが、そのナイフごと相手を袈裟斬りにする。
その一太刀は相手のナイフを両断し、身体を斬りつけた。
「くっっ。」
相手は苦痛に呻きながらも、何とか間合いを取り体勢を整えた。
「『防御の陣』」
5本のナイフが相手の身辺に漂い、攻撃を待ち構える体勢を取る。
間髪入れずに冬至は相手の間合いに飛び込む。
嵐のような斬撃を躱しながら、相手に攻撃を加えるが、相手は何とか予備のナイフ手に持ち攻撃をいなす。
「どうした。動きが遅くなったんじゃねえのか。」
「くそが、調子に乗りやがって!!」
冬至は攻撃の手を緩めることなく、相手に執拗に斬りかかる。
もはや、相手の攻撃は当たるような様子を見せず、徐々に相手を追い詰めていった。
相手は冬至の攻撃を上手く捌ききれずに手に持っていたナイフを受けたときの衝撃で手放した。
無防備な身体を晒した相手に逆袈裟斬りを放ち、相手の周囲に血飛沫が舞った。
身体を支えることができずに仰向けに倒れた相手の顔の横に剣を突き刺し、言った。
「俺の勝ちだ!!」
「そこまで!!」
審判が闘いを止める。
(冷静になって思ったんだが、審判もいたんだよな。だったら、止めるの遅くねえか。能力が覚醒しなければ、あと一歩で俺は殺されてたんだぞ・・・。)
「良くやったわね。まさか勝つとは思ってなかったわ。」
突然現れた教官が声をかけてきた。
「おいおい、そりゃねえだろう。普通は教え子の勝利を信じるもんだろ。」
呆れながら言った。
「俺はまだ負けてねえ!!てめえをぶっ殺してやる。」
後方から怒鳴り声が聞こえ振り返ってみると龍一は身体中が血まみれながら恐ろしい形相で睨み付けてきた。
「うるさい。」
その声が聞こえた瞬間に教官は龍一の背後に回り、首筋に手刀一閃で意識を刈り取った。
「往生際が悪いわね。」
意識を失った龍一には聞こえないであろうが、教官は呟いた。
「これはこれはいけませんね。直ぐに治療に入らなければ。」
どこからともなく見知らぬ声が聞こえてきた。
その男は黒いハットを被っており、黒のステッキを持ち髪が長く、目が髪に隠れていた。
「あんた誰よ。」
「これは失敬。龍一様のチューターを務めております。ただのピエロでございます。」
「へー。あんたがこの殺人狂をスカウトしたの。」
「はて。殺人狂ですか。龍一様は闘いに適した人材だと思い、スカウトしたまでです。」
「こいつは明らかに殺人を楽しんでいる快楽殺人者よ。こんな奴が能力を得ればどうなるかぐらい分かるはずよ。」
「そう思わせてしまったのなら申し訳ございません。以後、気をつけさせていただきます。」
「その慇懃無礼な態度も癪に障るわ。」
「それではこれ以上あなた様を怒らせてもいけませんので、我々は退散させていただきます。」
そう言うと、ステッキで地面を3回叩くと、龍一共に姿をくらました。
「教官、あのチューター変な奴じゃねえか。気配をまるで感じなかった。」
「そうねえ。油断ならない奴だわ。」
どさっ。
ここまで会話を続けていた冬至だったが、緊張の糸が切れたのか、突如目の前が真っ暗になり地面に倒れた。
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