第6話 訓練3

 あれから日々は過ぎ去り、闘いが1週間前に迫っていた。


 その間、冬至は訓練場で毎日戦闘訓練を行っていたこともあり、戦闘技術をメキメキと向上させ、簡単には教官からの攻撃をもらわないようになっていた。


 それでも、冬至の身体はアザだらけで身体を動かすと節々が痛かった。


 しかも、目標としていた一撃を与えることは未だ叶わず、一度たりとも攻撃をかすらせることすらできていない状況であった。


「もうあと1週間ね。まだ能力が目覚めないところを見ると、これから残り1週間は再度能力発現を目指すことにするわ。」


「けどよ、以前言ってたとおり、もう覚醒水が切れていて、能力の発現をするための瞑想ができないんじゃないのか。」


「忘れたのかしら。瞑想以外にもう1つ、能力を発現する方法があるのを。」


(おいおいおい、、、まじかよ。)


 冬至は想像して、恐怖に顔を歪めた。


「想像通り、これから死を間近に感じるような訓練を行うわ。今までは素手で攻撃してたけど、これからは私も刀で攻撃を繰り出すわ。即死するような攻撃は控えるけど、攻撃を食らえばまず間違いなく重傷を負うようになるわ。」


「それだと、当日闘えないコンディションになるじゃないか!」


「そこは心配いらないわ。重傷を負った場合、以前にあんたの足を治した秘薬を使うわ。何度も言うけどもの凄く貴重な品だから、出血大サービスなのよ。私じゃないと持ってないものなんだからね。」


「それに切られることを経験することで、痛みにも強くなって、実戦に活きるわ。」


(いやいや、そんな切られること前提になると言われたら全然やる気でねえよ。)


 教官は何もない空間から自身の能力を行使し、刀を取り出した。


 その刀は片刃で、一般的な日本刀と同じく刃渡り70センチほどで刀身と柄が黒く、鍔は金色に輝いていた。


 教官はその刀を手に持ち、軽い口調で言った。


「それでは早速死合を始めようかしら。」


 教官が刀を片手に一直線に冬至に向かってきたので、冬至は迎撃する体勢を整えるため、中段に剣を構えた。


 教官は走りながら、右手に持っていた刀の鋒を突き出し、恐ろしく鋭い突きを放った。


 冬至はあまりの速さに回避することができず、なんとか剣の腹で受けたが、突きの勢いを殺しきれず、数メートル後方に吹き飛ばされた。


 後方にあった岩山に背中が当たりそうになる直前にギリギリで足を踏ん張り岩山への激突を堪えた。


(くそ、とんでもねえ威力だな。即死する攻撃は避けると言っておきながら、今の攻撃を食らったら間違いなく昇天するじゃねえか。)


(ただ、今俺の背後には岩山があることから、おそらく次の攻撃を避ければチャンスがくるはずだ。)


 一瞬思考している間に教官は冬至との間合いを詰めて、今度は刀を横薙ぎに振るった。


 その横薙ぎに振るわれた刀を斜め前方に飛び込んで躱し、その場を離脱した。


(おし、上手く躱せた。おそらく刀はあの岩山にめり込んで、抜けねえはずだから、今がチャンスだ。)


 少し余裕を持って振り向いたところ、すぐ先にあるはずの岩山が横に両断されており、岩山の上部がズレ落ちているところだった。


(まじかよ!!!)


 ほんの少し、両断された岩山に意識を持っていかれた冬至には僅かな隙ができていた。


 その一瞬の思考の空白のうちに教官が接近し、言った。


「気を抜いたわね。」


 そして、教官の袈裟斬りは冬至の胴体を容赦なく切り裂いた。


 冬至は激痛に顔を歪めなが剣を取り落とし、切られた腹からこぼれ落ちそうになる臓物を何とか手で抑えながら、仰向けに倒れた。


「ゴフッ。」


 冬至は仰向けになりながら、口から大量の血を吐いた。


 いつの間にか、刀の代わりに秘薬と呼んでいたあの奇妙な液体の入った瓶を片手に持った教官が近づいてきた。


「これが死ぬという感覚よ。」


 そう言いながら瓶に入っていた液体を冬至の胴体にかけた。


「っつ!!!」


 冬至は声にならない悲鳴をあげて徐々に意識が朦朧としていき、やがて力尽きたのか意識を失った。







 目が覚めると、またいつものように教官が腕を組んで佇んでいた。


「どうかしら。何か意識を失う前と変わったことはある??」


(相変わらず心配するといった態度1つ見せやがらねえな。)


「一応、身体の感覚を確かめてみてるが、特に変化はなさそうだな。」


「それじゃ仕方ないわね。少し休んでから再開よ。」


 冬至は分かっていながらも聞かずにはいられなかった。


「何を再開するんだよ!?」


「もちろん、さっきの死合の続きよ。」


(まじで、勘弁してくれよ、、、。)


 と冬至は心の中で弱音の嵐が吹き荒れながらも、闘いの前日まで地獄の日々を過ごすこととなった。



















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