第7話 闘いの前日
冬至はあれから地獄の日々を過ごした。
戦闘訓練は壮絶であり手足がちぎれ飛ぶのは当たり前で、一歩間違えれば死ぬというのが日常茶飯事であった。
死がつきまとうことによる危機感によるものなのか、冬至は日々己の実力が向上していくのを実感していた。
そして、闘いの前日を迎えた。
「いよいよ、明日ね。」
「ああ、ようやく訓練が終わるのか。永遠のように感じたぜ。」
冬至はほっとしたような顔で言った。
「よく訓練を耐え抜いたわ。結局能力は発現しなかったけど、剣の扱いは相当上達したから、相手次第では勝ち抜けるかもしれないわね。」
(そうは言ってくれるが、こちらはあんたに一度たりとも攻撃を当てることはできなかったけどな・・・)
「それで、今日はどうするんだ?流石に今日は戦闘訓練はしないだろう。」
「そうね。今日は最後の試練としてあんたが童貞を卒業する日にしようかしら。」
「おい、ちょっとまて、俺はもう童貞は卒業してるぞ!!」
冬至は少し動揺しながら言った。
「何焦っているのよ。あんたが考えているような童貞じゃないわ。人を殺したことがないという意味での童貞卒業よ。」
そう言って教官は能力を行使し、人が現れた。
現われた男は両手、両足を縄で縛られており、地面に横たわっていた。
その男は黒髪で髪が伸びきっており、髭も手入れがされた後が見えず、無精な印象を受けた。
「ちきしょう、何しやがるこの縄を解きやがれ!!」
と男は苛立ちながら言った。
「さあ、最後の試練よ。今からこの男を殺すのよ。」
「おいおいおい、、、いきなり過ぎるだろ。第一この男は殺される理由があるのかよ。」
「分かっているだけでも強盗3件、強姦3件、殺人5件を犯し、死刑を言い渡されている救いようのないクズよ。」
「今からこの男と殺し合ってもらう、どちらかが死ぬまで続けてもらうわ。と言ってもこの男は能力者ではないから、あんたがその気なら一瞬で片が付くわ。」
「まじかよ、、、。」
「どのみち遅かれ早かれ人と殺し合いをするのだから、今のうちに慣れておくことね。」
教官はそう言って、どこからか出した刀で男の縄を切った。
「おい、お前。お前がこの男を殺すことができたら、解放してあげるわ。」
「ほんとうか!殺しをして解放されるなんて最高じゃねえか!」
男は嬉々とした表情を浮かべた。
教官は男に向かって、剣を放り投げた。
その剣は冬至の持っている剣と同様に両刃で刃渡り80センチほどの剣であった。
「はっはっ。さっさと殺してやる。」
そう言って男は地面に落ちている剣を掴んで、早々に冬至へと斬りかかった。
(遅え。教官と比べるとハエでも止まるかと思うほどだ、、、)
冬至は余裕を持って男の剣を回避したが、自身は剣で攻撃するのをためらっていた。
男は冬至の攻撃する意志の無さを把握してか、防御も考えずにやたらめったらに剣を大振りで振るった。
しかし、冬至も慣れたもので大振りの剣など意に介さず、躱し続けた。
そこから幾ばくかの時間が過ぎたが、男の体力が続かなかったのか、息を切らして剣を地面に突き刺した。
「ハァハァハァ。」
そこで、教官が言った。
「あと5分ね。5分で決着がつかなければ私がその男の首を刎ねるわ。」
その言葉を聞き、男は必死の形相で再び剣を握り、冬至へと斬りかかった。
「ちくしょうーー!!死んでたまるか!!」
(くそ、どうする。確かに相手は自分が生き残るために遠慮なくこちらを殺しにきているが、こっちとしては実力の差があるので、どうとでもできる。しかし、本当に殺すのか。俺にできるのか。)
冬至は未だ胸の内で悶々としながら、相手の剣を躱し続けた。
「あと、1分よ。」
教官の声が聞こえてきた。
「このやろー!!さっさとくたばりやがれ!!」
もはや人とは思えぬ形相となり、男は冬至へと斬りかかった。
冬至は相手の男の生への執着という気迫に押され、尻込みをした。
その一瞬の尻込みが冬至から回避するという選択肢を奪い、相手の剣の動きがスロモーションとなり自身へ刃を向けて迫ってきた。
その瞬間冬至は、自身の人生の走馬灯が脳裏をよぎった。
(まだここで死ぬわけにはいかない。生き残ってもう一度俺の人生を取り戻してみせる。)
そうして、スロモーションとなった時の中で冬至は相手の剣を上手くいなして、相手の体勢を崩すことに成功し、男は隙だらけの状態となった。
そこへ間髪入れずに男の首へと剣を突き出し、剣が首を貫いた。
男は驚愕の表情を浮かべながら、首から大量の血を吹き出し、仰向けに倒れた。
倒れた男はピクピクと何度か身体を痙攣させたあと、やがて動きを止めた。
その瞬間何とも言えない嫌悪感が冬至の身体中を這い回り、その感覚に耐えられずに嘔吐した。
「オェッ。ゴホッゴホッ。くそっっ。」
「良くやったわ。これで私の基礎訓練課程は修了よ。」
冬至は教官の声が聞こえているものの、その内容が頭に入ってこず、ただぼんやりと自分が殺した男の死体を眺めていた。
放心状態の冬至に対して、教官は言った。
「今日はもう休んで明日に備えなさい。」
冬至からの返事は聞こえてこず、そのまま沈黙の時間が流れていった。
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