第5話 訓練2
次の日、冬至は剣を手に取り、訓練場の中央で教官と向かい合っていた。
「今から戦闘訓練を始めるわ。ルールは特になしで私を殺す気で向かってきなさい。遠慮はいらないわ。」
「ちょっと待ってくれ、教官は何も武器を持ってないじゃないか。」
そうすると、教官は右手を自身の目の前に出してアピールした。
何の変哲もない右腕を出したその行為から、冬至は意図を察することができず、疑問を呈した。
「どういうことだ?」
「拳が武器だって言ってるのよ。あんた程度なら素手でもおつりがくるくらいよ。」
「なるほどな。エラく舐めてくれるじゃねえか。後悔しても知らねえぞ。」
そう言うと同時に、冬至は地面を勢いよく蹴り、教官のもとに飛び込み、右頭上から剣を振り下ろした。
教官はそれを半身になってあっさりと回避し、冬至の無防備になった脇腹へと右拳を繰り出した。
その拳が冬至の脇腹に直撃した瞬間、冬至の身体はその衝撃で後方に吹き飛び、近くにあった岩山に背中から激突し、大きな穴を穿った。
「ぐふっ。」
冬至は苦悶の声を漏らして、口から血反吐を撒いた。
「今ので分かったかしら、あんたと私とでは天と地ほどの差があるから、加減なんて考えないで殺す気で来なさい。一応、今のあなたでも大怪我しない程度の威力で攻撃してあげるから。」
(とんでもねえ威力じゃねえか。加減してあれなのか。一体、本気を出したらどうなるんだよ。)
「あと、あんたの攻撃は何の考えもなしの大ぶり過ぎて、カウンターを当てやすいわ。もう少し、隙を見せないように考えながら攻撃しなさい。でないと、実戦では直ぐに死ぬわよ。」
冬至は足をフラつかせながらも立ち上がり、再度、剣を構えた。
そして、一呼吸を置いた後、先ほどと同じように地面を蹴り加速し、教官に向かった。
冬至は教官の前まで来ると、先ほどと異なり脇を締めてコンパクトに剣を振り下ろした。
教官は身を捻って剣を回避し、今度は冬至の顔面へとボクシングのフックの要領で右拳を繰り出した。
冬至は拳が頬に触れた瞬間、緊急で首を捻り何とか直撃を回避し、即座に地面を蹴り一旦後方に待避した。
冬至は距離を取ってから、頬から出た血を服の袖で拭った。
「へー。あんた目が良いじゃない。正直今のを避けられると思ってもみなかったわ。それに体さばきも中々で、実戦で伸びるタイプね。」
(今のをもらってたら、意識が飛んでたな。あまり軽はずみに攻撃するのは得策じゃねえな。一旦相手の出方を待つか。)
そうすると、冬至は一旦相手の攻撃を待つように剣を構えて、攻撃に備えた。
「なるほど、迂闊には攻めないってことね。だったら、攻守交代ね。こちらから攻めさせてもらうわ。」
そう言うと、教官の身体が一瞬ぶれたのと同時にその場から姿を消し、瞬時に冬至の背後に回り込んだ。
冬至は一瞬教官を見失っていたが、背後から地面を踏みしめる音が聞こえて、振り返った。
そこには冬至の頭上から右拳を振り下ろそうとする教官がいたので、スウェーバックで回避し、そのまま勢いを利用してバク転することで後方に移動した。
追い打ちをかけるように、教官が真っ直ぐに突っ込んできて、今度は左拳でストレートを叩き込んできた。
冬至はその左拳を何とか剣の腹で受けたが、体勢が不十分だったため、空中に身体を投げ出された。
しかし、冬至は猫の様に空中で体勢を整えると、足から地面に着地した。
油断なく冬至が剣を構えて前を見据えると、今度は冬至の側面に移動した教官から顔面に蹴りが放たれた。
冬至は大きく後方に退くことで回避し、その直後地面の反発力を利用し、カウンターで剣を突き出した。
その突きは意表を突いたものに思えたが、教官は難なく横に躱し、一旦距離を取った。
「ふう。」
息つく暇のない攻防だったため、冬至は一旦呼吸を整えることに専念した。
そうしている間に、今度は教官が大きく足を上げてから地面を踏み砕き、目の前に砂塵を発生させて、その砂塵の中に姿をくらませた。
冬至は、自身の近くの地面にある影が増えているのを認識し、頭上を見上げるとそこには踵落としの体勢に入った教官がいたので、慌てて横っ跳びでその場を離れた。
直ぐさま立ち上がろうとした冬至だったが、立ち上がった瞬間に首筋に手刀を叩き込まれて、意識を失った。
目が覚めると、仰向けに倒れていた冬至は身体を起こして、目の前で腕を組んでいた教官を見た。
「反応は上々。攻撃も鋭い。初めてにしては問題なく合格点よ。ただし、回避の際に大袈裟に回避行動を取るのはいただけないわ。相手の次の攻撃も予測して、最小限の回避に努めないと攻防を繰り返している内に最終的に追い込まれるわ。」
「目覚めて早々に批評してくれて、ありがとよ。」
冬至は皮肉げに言った。
「まあ、こんな感じであとの2ヶ月は戦闘訓練を行っていくことにするわ。あんた中々闘いのセンスがあるから、2ヶ月も鍛えれば能力がなくともそれなりに闘えるようになるはずよ。」
「お褒めの言葉ありがとよ。」
(この2ヶ月の間に絶対一発はぶち込んでやる。)
と冬至は胸の内で闘争心を燃やしていた。
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