第4話 訓練1

 それからというもの、俺は毎日覚醒水とやらを飲んで、瞑想を試みていた。


 しかしながら、2週間経っても特に能力が目覚める気配がなく、若干の焦りがでてきているところだった。


「教官、能力が目覚めるコツみたいなのってないのか。」


「こればかりは、感覚の問題で教えられるものじゃないのよ。あなたの中で何か変化の兆しを感じ取るしかないのだけど、そういう兆しみたいなのもないの?」


「ああ、それすらも全然感じられないから焦ってんだよ。」


「仕方ないわね。滝浴びをしながら瞑想することにするわ。修行僧とかもよくやってるの見るでしょ。」


(それって、テレビで観たようなことをそのまま試すだけじゃないのか、、、)


「早速だけど、準備するわ。」


 そう言うと、教官は訓練場にちらほらある岩山の一つに向かっていき、能力を発動した。


 すると、岩山の頂上に自転車一台分の黒い空間が発生し、そこから大量の水が流れ落ちてきた。


「すげえ・・・・。どうやったんだ??」


「近くの川と岩山の頂上の空間を繋げたのよ。とりあえず、即席の滝ができたから、あの下で瞑想しなさい。」


 そうして冬至は渋々ながら滝に向かって歩いていき、滝に打たれながらも座禅を組み始めた。


「寒っぶ!!」


 川の水が冷たすぎて、とても瞑想なんてできる状況ではなかった。


 それでも意地で冬至は座禅を組みながら、何とか十分ほど耐えたが、限界がきて滝から抜け出した。


「これじゃあ、瞑想どころじゃねぞ」

 

 冬至は若干怒りながら開口一番に言った。


「そうね、あまり効率的ではなさそうだけど、通常の瞑想とは別に滝行もスケジュールに入れるわ。何としても1ヶ月以内に能力に目覚める必要があるから、色々試す必要があるわ。」


 それからまた2週間ほど通常の瞑想と滝行のルーティーンを毎日繰り返した。


 しかし、冬至は能力を目覚めさせることができなかった。


「1ヶ月経ったから、とりあえず瞑想の訓練を終了するわ。」


 顔をしかめながら投げやりな態度で教官が言った。


「ちょっと待ってくれ、ここで瞑想の訓練を終えたら能力を発現することができないんじゃないのか?だったら、もう少しだけ続けさせてくれないか。」


「いえ、それが無理なのよ。今までどの能力者も1ヶ月以内に能力を発現してきたから、覚醒水は1ヶ月分しか渡されていないのよ。」


「おいおいおい・・・。それだと俺は能力なしで闘わないといけなくなるのか。」


「今のままだとそうなるわね。ただ、考えがないわけじゃないわ。ギャンブル的な要素もあるのでこれからは予定通り1対1の戦闘訓練に移るわ。ちなみにだけど、あんたは使いたい武器とかはあるの?」


「武器か、、、今まで何も使ったことがないからな・・・。ただ、学校の授業で剣道をしたことがあるから剣を使いてえな。」


「剣ね。何かあったはずだから、ちょっと待ってなさい。」


 そうすると、教官は能力を発動し、何もない空間から剣を取り出した。


 その剣は、両刃で刃渡り80センチほどで特に派手な装飾等もなく無骨なものであった。


「この剣には、何か特別な能力とかあるのか?」


「そんなものあるわけないでしょ。とても頑丈な普通の剣よ。一度どんなものか剣を振ってみなさい。」


「おう。やってみるわ。」


 そう言って、冬至は手渡された剣を受け取り、上段に構えそこから思い切り振り下ろした。


 すると、ブンっと音をたて地面の砂が舞い上がった。


「悪くないじゃない。」


教官は少し驚いた顔で言った。


「ああ、俺も驚いた。以前より全然力が増しているような気がする。一応、筋トレは欠かさずしていたが、これほどの腕力は無かったはずだ。」


「おそらくだけど、覚醒水のおかげで自身の脳のリミッターが少し外れて身体能力が向上しているのよ。能力が発動せずに身体能力が向上するなんて見たことない事例だけど、、、。」


「だったら、この1ヶ月は完全に無駄じゃなかったってわけか。そりゃ苦労した甲斐があって嬉しいな。」


「今日1日は自分の身体の動きの把握と剣に慣れるために自由に素振りしなさい。」


「おう。」


 そうして、冬至は剣を振り始めた。


 最初は上段からの切り下ろし、そこから身体を回転させて続けざまになぎ払い、更に身体を回転させて切り上げの3連撃を行った。


 その動きはとても一般人の動きとは言えず、目にも止まらぬ速さで行われた。


 冬至自身その動きに驚いており、感嘆のあまり声を漏らした。


「凄え、自分の身体じゃねえみてえだ。」


 冬至は自分の向上した身体能力に虜になり、気の向くままに剣を振り続けた。


 熱中した冬至は時間を忘れて、剣を振り続けたが、幾ばくかの時間が過ぎさり、

身体の疲労の限界がきて、地面に倒れ伏した。


「ふう、大分疲れたな。」


 その顔には、心地よい疲労感と充実感が漂っていた。


「お疲れ様。初日から大分楽しんだみたいね。今日はここまでにして明日から実践訓練を行うことにするわ。」


「そうしてくれ。すまねえが、今日はもう動けそうにねえわ。」


 そうして、冬至は初日の戦闘訓練を終えた。






























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