第五話 競馬場にて

 なんでも、フェバステイン公爵家の所有馬が出走するので、私に見て欲しいとの事だった。私は不審には思ったけど了承したわよ。


 アクロード様が競馬に興味を持ってくれたのは良い事だと思っていたからね。彼は将来、間違いなく帝国の重鎮になる方だ。そんな方が競馬を後押ししてくれれば帝国の競馬はもっと発展するだろう。


 ただ彼と会って半年。これまで一度も競馬場の話題は出なかった。それなのにずいぶん突然のお話だな? とは思ったわよ。


 レースは二週間後との事で、アクロード様は私との約束を取り付けると、随分とご機嫌な様子でお帰りになったわね。


 で、レースの前日、私は久しぶりにお屋敷に帰った。競馬場は紳士淑女の社交場。外出着とはいえきちんとした貴族服でしか入れないのだ。まぁ、裏方の調教師のところに行くならいつもの農夫の格好でも良いんだけどね。


 で、お屋敷のお勝手口から入り、侍女に言付けて、長く開けていた私室の準備をしてもらう間、私はサロンの一つでお茶を飲んでいた、のだけど。


 そこにお母様が襲来した。


 私はびっくりしたわよね。いつもなら私が帰っても、もうお父様お母様はほとんど関心が無くて、たまに牧場での問題点を私がお父様に言いに行くくらいなんだもの。わざわざお母様がお出ましなんて何事かを思ったわよ。


 しかもなんだか目を釣り上げた凄まじい形相だ。……これは、アレだ。絶対悪い話だ。悪い話に決まっている。しこたま怒られるやつだ。


 私は立ち上がりスカートを(一応帰ってくる時はお嬢様風の格好で来ている)広げてご挨拶をした。


「これはお母様。本日はお日柄もよく……」


 お嬢様を装ってお母様のお怒りを受け流す作戦である。しかし、お母様は私の渾身のご挨拶を無視した。ガン無視だ。


 そして私の目の前まで迫り来ると、私の顔に唾を飛ばしながら全力で叫んだ。淑女にあるまじき振る舞いで、私がやったら物凄く怒られるだろう。


「フェバステイン次期公爵とはどういう関係なの!」


 ……はい?


 なんでお母様がアクロード様の事を知っているのかしら。いや、アクロード様は有名人だから知っていて当然なのだけど、私とアクロード様が知り合いだとどこで聞いたのだろうか? 


 疑問には思ったけど別に隠す事でもない。私はケロッとした顔で言った。


「お友達ですよ?」


 すると、お母様はなぜか絶句してしまった。なんか譫言のようにブツブツ何か呟いている。


「お友達……。次期公爵がお友達……」


 見ると、お母様だけではなく、お父様もお兄様もサロンに駆け込んで来ていた。なんだか大事になってきた。私は戸惑いながら三人に説明する。


「えーっと、アクロード様は馬がお好きでね。家の牧場に頻繁にいらして、家の馬の育て方を見学なさっているのよ。半年くらい前から」


 私が事情を色々説明すると、お父様は少しだけ顔色を戻した。


「そ、そうか。馬の育成の勉強だったのか。そうかそうか。そりゃあそうだな。エクリシアに限って、まさかそんなな」


 何だかよく分からないけど、お父様もお母様も納得し始めている。私はホッとした。何だか分からないけれど、お説教は回避出来たようだ。


 で、私は安心しながらこう言った。


「でね、明日、競馬場にご招待を受けているの。フェバステイン公爵家の馬を見て欲しいって」


 途端にお父様お母様、お兄様の顔色がまた変わった。


「何ですって!」


 は? その、どこに地雷が埋まっていたのだろうか?


「エリー! 貴女それがどういう意味か分かってるの?」


 お母様が叫ぶけど、当然私には意味なんて分かっていない。え? だってご招待されて、競馬場に行って、一緒にレースを見るだけよね。私だって競馬場には何回も行った事がある。別に変な所ではないし、むしろ貴族の社交場なんだから物凄くちゃんとした所だ。


「こ、こうしてはいられないわ! ヘレナーゼ! エクリシアに着られそうなドレスをみんな出して頂戴! お化粧品もよ! 急いで!」


 お母様が慌てた様子で侍女長のヘレナーゼに向けて叫んでいる。


 お父様は放心してしまったような顔で頭を抱えているし、お兄様も目の上に手の平を被せて呻いている。


 え? 何が? どうした?


 ただ一人意味が分からずキョトンとしている私。お兄様がため息まじりに言う。


「エリー。お前、事の重大さが全然分かっていないだろう?」


「はい。全然。まったく」


 いくら考えても分からない。なぜ競馬場に行くのがそんな大問題になるのか。頭の中でぐるぐる「?」が渦巻く私を見て、お兄様はもう一度深々とため息を吐いた。


「明日はな、お見合いだよ。お前と、アクロード様の」


  ◇◇◇


 翌日、私はクランベル伯爵家の所有している一番良い馬車から、薄桃色の最上級のドレスに身を包んで、帝都近郊にあるダフネス競馬場の正面入り口に降り立った。


 フラフラだ。


 早朝から大忙しだったのだ。お風呂に入れられ、身体を隅々まで洗われ、保湿クリームを塗りたくられ、それからきつくコルセットで縛り上げられてからドレスの着付け、お化粧だ。


 ドレスはお母様が徹夜で厳選したものだし、お化粧もお母様が念入りに指示を出していた。ただ、私があんまり日焼けし過ぎていて、隠しようがないからと、顔をベッタリ白塗りにすることは回避された。


 装飾品はお母様の持っている秘蔵の品の数々が装着されている。プラチナにダイヤモンドとサファイヤが星のように散りばめられた髪飾り。ルビーのブローチ。ダイヤモンドと真珠の連なるネックレス。


 ……どう考えても競馬場に行く格好ではない。競馬場も社交場とはいえ、外出着で十分な筈だ。こんな帝宮の夜会に行くような格好は似つかわしく無いと思うんだけど。


 で、同じような気合の入った格好で、お父様お母様、お兄様とその奥様も馬車から降りてきた。それはもう緊張も露わ。お母様などは目が血走っている(徹夜したからかもしれないけれど)。


 クランベル伯爵家一行はお父様お母様。その後ろに私、最後にお兄様夫妻という隊列を組んで、ダフネス競馬場のクラブハウスに乗り込んだのだった。


 ダフネス競馬場は二十年くらい前に出来た新しい競馬場で、一周約三千メートルと帝都近郊の競馬場では一番大きい。そのクラブハウスは高台にあり、三階建ての大きなお屋敷だ。二階のバルコニーが大きく取ってあり、そこからレースを観戦できるようになっている。もちろん、外へ出てコース脇のラチ沿いからも観戦は出来る。


 クラブハウスに入る事が出来るのはジョッキークラブに加入している貴族だけだ。我が家はもちろん会員なので入る事が出来る。ドアマンとクラブハウスの支配人に恭しく迎え入れられて玄関ホールに入ると、そこに彼が立っていた。


「待っていたよ」


 白金色の髪に深い碧の瞳。スラリとした長身に、今日はいつもと違ってベージュ色の華麗な衣装を身に纏っていた。いや、彼は次期公爵なんだもの。こちらのキラキラした衣装の方が本当なのだ。


 アクロード様はこの上なく華麗な姿でフワリと笑っていた。


 それにしても彼も競馬場だというのにおしゃれし過ぎなのではないだろうか? 方々が金糸で飾られ、宝石までが輝く姿はまるで夜会に出るかのようだ。


 私は生唾を飲み込んでしまう。……これは。お兄様の話を与太話だと笑い飛ばせなくなってきてしまった。


  ◇◇◇


 お兄様は言ったのだ。


「良いか? マリー。未婚の男性が未婚の女性を社交に招待する、という意味が分からぬ筈はあるまい?」


 それは、分かる。夜会や観劇などに未婚男性が未婚女性を誘うことは。ほとんど愛の告白である。つまりそれは、多くの人々の前で堂々エスコートさせてくれ、という意味なのだから。


 女性がOKを出し、男性が女性の手を引いて社交会場に現れれば、それは二人が恋人関係であると周囲に知られる事になる。


 ……あ。


 競馬も立派な社交じゃないの。その会場に、アクロード様のエスコートを受けて入場したら、それは私とアクロード様はラブラブカップルなんですよ、と発表してしまうという事にならないだろうか? いやいやいや。


「そ、それは考え過ぎよ。私はフェバステイン公爵家の馬を見に、そう、馬の専門家として、アドバイザーとして行くだけなんだから!」


 こんな馬好き女を、あのアクロード様が恋人宣言するために呼ぶなんて。そんなまさか。


 しかしお兄様は首を横に振った。


「次期公爵がそう考えているかは分からんぞ。そもそもそんな誤解を呼びそうな事を、あのアクロード様がする筈がない。それに、公爵家の馬が出走すると言っただろう?」


 そうね。公爵家の馬を見てくれと頼まれたんだもの。


「我が家の馬が出走する時は、誰が競馬場に行く?」


「え?それはお父様お母様よね。出走料を払ったり、勝ったら賞金をもらわないといけないもの」


 これはクラブの会員本人がやる事と決まっていて、我が家の会員はお父様なので、持ち馬の出走時には必ず競馬場に行かなければならないのだ。体調不良などのやむを得ない場合は代理が認められる事もあるけど。


「だよな。だとすると、明日は競馬場にフェバステイン公爵閣下がいらっしゃるという事になる」


 ……それは確かにそういう事になる。クラブ会員は必ず家の当主だし、皇族に例外が認められていなければそういう事になるだろうね。


「お父様の公爵閣下。それとおそらくお母様の公妃様。お二人が出席なさる社交に、お前をエスコートして乗り込むんだぞ? 絶対に公爵ご夫妻に紹介する気に決まっている」


 ……そんな馬鹿な。私はようやく事態を把握して愕然とした。


「ちょ、ちょっと待ってお兄様! 私とアクロード様はそんな関係じゃないわ! アクロード様が牧場にしばしば見えられて、仲良く馬についてお話ししているのは事実だけど! ただのお友達よ!」


 しかし何としたことか。お兄様は大きなため息を吐くだけで首を振っても下さらなかった。


「十分だ。騎士団の副団長として非常にお忙しく、女性に対して身持ちが固いことで有名なあのアクロード様が、仕事を投げ出してまでお前のところに通っていたんだぞ? 随分前から帝都では、どこの姫の元に通っているのかと噂になっていた」


 なんですと?


「それが少し前に我が家の牧場、つまりお前の所だと突き止められた。それはもう大騒ぎだよ。私も父上も母上も、色んな方から質問攻めにあって大変だったのだ」


「で、でも、それは馬の勉強のために……」


「という事を隠れ蓑に、お前の事を品定めしていたに決まっているだろう? でなければいきなり親に紹介なんてしないだろう」


 私は開いた口が塞がらない気分だったわよね。お兄様は頭が痛そうな様子で言った。


「明日は私も父上も母上も同道する。お前なぞを次期公爵夫人にされたら我が家は末代までの恥を掻きかねん。何とかお断り出来れば良いが」


 正面切ってディスられたのだけど、反論する気にもならない。事実だもの。こんな馬ぐるい令嬢に次期公爵夫人、つまり次の公妃になるなんて無理だ。無理に決まっている。


「が、頑張って! お兄様!」


「……気が重い。あの名将として知られるアクロード様が周到に練った計画だぞ? 覆せる気がしない……」


  ◇◇◇


 アクロード様が進み出ると、お父様お母様、お兄様夫妻。もちろん私も深々とお辞儀をした。お父様が代表で言う。


「これは、フェバステイン次期公爵殿下。本日はお日柄も良く、絶好の競馬日和にございますな。ご尊顔を拝し奉り、恐縮至極に存じまする」


 アクロード様は牧場で見るのと変わらない闊達な笑みを浮かべて軽い返答をよこす。


「ああ、クランベル伯爵。堅苦しい挨拶など不要だ。伯爵が来てくれたのなら丁度良い。こちらに来てくれ。父に紹介しよう」


 お父様のお顔が引き攣った。アクロード様のお父様といえばフェバステイン公爵閣下その人ではないか。皇位継承順位は三位だったか二位だったか。


 そしてアクロード様はスルスルと前に出ると、ごく自然な動作で私の右手を取った。


「エクリシア。来てくれて嬉しいよ。さぁ、行こう」


 そしていつかのように私の手にチュッとキスをした。ちょっと! 見てる! 玄関ホールにいる皆様がみんな見てるから!


 焦る私に構わず、アクロード様は私の右手を自分の右手で引き、左手で腰を抱くという格式高いエスコートで私を導いてくれた。お父様やお兄様が何を言う隙間も無い。


 もちろん大注目を集めている。騒然だ。玄関ホールにいる方々の目が開き過ぎて目球が転げ落ちそうになっている。これはもう完全に誤解されているよね。


 というか、誤解させている。アクロード様は周囲の方々に私とアクロード様は親密な関係だと意図して誤解させているのだ。なんだってそんな事を……。


 ……いや、誤解じゃないのかも知れない。アクロード様は本当に私と親密であると周囲に知らしめているのかも知れない。


 まさか、そんな、と思うんだけど、この幸せそうな彼の笑顔を見ていると、昨日のお兄様のあり得ない予想がどうしても思い返される。まさか、そんな。こんな馬の事しか考えていない女を、アクロード様程の方が? あり得ない。そんな筈が無い。


 頭の中がグルグル状態の私に構わず、アクロード様は私と一緒にホール正面の階段を登り始める。階段は途中で屈曲して二階へと上がる。二階は観覧席だ。広間と、奥の大窓が開放されて巨大なバルコニーまで一続きになっていて、そこに丸テーブルがいくつも置かれている。


 そして紳士淑女が座って、おしゃべりをしたり、目の前の競馬場を見たり、その横の下見所に出てくる馬を指差して見たりしている。百人近い人がいるのではないだろうか。


 その皆様が一斉にこちらを見た。皆様驚愕の表情だ。大騒ぎになっている。そりゃ、こんな目立つ人が目立つ格好で出てきたらね。そうなるわよね。それだけじゃない。次期公爵にして堅物で有名だったアクロード様が女性の腰を抱いているのだ。それだけでも大事件なのだ。


 ていうか、見ないで! 私にそんなつもりはないんだってば! こんな注目を浴びた事の無い私はもう一杯一杯だった。出来るだけ目立たない端っこのテーブルに行きましょうよ! アクロード様なら特等席に堂々と座りそうだけど。


 しかし、予想は外れた。人々の帽子を脱いでの挨拶に笑顔だけで応えると、アクロード様は観覧席に入らず、更に階段を上り始めたのだ。え?


 確かに、クラブハウスは三階建てだ。三階があるのは知っていた。でも、何があるのかは知らなかった。私は思わず尋ねていた。


「この上に何かあるのですか?」


 するとアクロード様は何という事もなく頷いた。


「ああ。皇族用の貴賓席がある」


 貴賓席とな? 私もお父様達も目が丸くなってしまう。そんな物があるとは。というか、え? これからその貴賓室に行くのですか?


 ということは。そこには勿論、公爵閣下がいらっしゃるわけよね。


 こ、これは! 私はお兄様を振り向いた。これはまずい! 助けてお兄様!


 するとお兄様が慌てたように言った。


「で、殿下。私達のような者が、公爵閣下がお寛ぎの貴賓席にお邪魔するわけには参りますまい。どうかご容赦を」


 しかし、アクロード様の確かな足取りは変わらなかった。


「なに。父はそれほど堅苦しい人間ではない。馬に詳しい女性と聞いて興味深々でな。エクリシアに会うのを楽しみにしているのだ」


 お兄様が沈黙する。既に公爵閣下に私を連れて行くというお話が通っているのだとすれば、私が行かなければ失礼になってしまう。


 逃れる方法が無くなったクランベル伯爵一家は、仕方なくアクロード様の後ろに続くしかなかった。


 階段を登ると、紫色の厚い絨毯の廊下があり、そこに金銀で装飾された大きな扉が五個ほど見えた。一つ一つが別の貴賓席なのだろう。皇帝陛下専用室もあるに違いない。アクロード様は一番左端の部屋の前に行った。


「ここが家の部屋だ。いつでも気軽に使ってくれ」


 ……フェバステイン公爵家専用室を気軽に使えとはどういう意味なのか。私もお父様も口元が引き攣り、お母様は失神しそうだったわね。


 アクロード様がドアの前に立つと、大きなドアがゆっくりと開かれる。途端に明るい日差しが差し込んできた。部屋は大きな窓に面しているらしい。


 光に目が慣れると、そこはかなり広い部屋である事が分かった。家のお屋敷の玄関ホールくらいの広さはある。天井も高く、大きな窓とその向こうには大きなバルコニー。部屋の絨毯は緑を基調に白で複雑な紋様が織り込んであった。


 応接間のような調度品が置かれている他、隅の方にはバーのようなものもあり、ここで大規模な宴席が催される事もあるような部屋に見えた。


 そして、ソファーには一人の中年の男性が座っていて、その右には同じ年頃の女性。テーブルを挟んで向かいには二人の着飾った若い女性が座っていた。


 公爵閣下とその御一家だろう。私は即座にアクロード様の手からすり抜けて跪いた。勿論、お父様達もザッと音を立てる勢いで膝を突いた。お父様がご挨拶の口上を述べる。


「いと麗しきフェバステイン公爵閣下。閣下のご尊顔を拝し奉り、このクランベル伯ドロイセン。恐悦至極に存じます。この佳き日に閣下とのご縁を結べましたこと、これ以上の名誉はありましょうか。ここにおります我が家族もまた閣下とのご縁に感激の思いを禁じ得ずにおります。女神に感謝を」


「「女神に感謝を」」


 お父様のご挨拶の最後に家族全員が唱和する。


 すると、男性、公爵閣下が立ち上がった。


 アクロード様のお父様だけあって良く似ていらっしゃる。髪の色はアクロード様よりやや濃い金色。背は高く、アクロード様より厚みがあるが太っているというほどではない。口と顎に髭を生やしている。


 濃い青の重厚な衣装を身に纏っており、それを見て私は、自分が全力でオシャレさせられた理由を理解した。これは外出着で御前に出たら失礼に当たるだろう。しかし、皇族の方はいつもこんな格好なのかしら?


 公爵閣下は進み出て、私の前に立った。……なんで私の前に立つんですか? 我が家の代表者はお父様なんですけど。


「立つが良い」


 ……どう考えても私への呼び掛けだ。私は仕方無くゆっくりと立ち上がった。顔は伏せたまま。


「顔を上げるが良い」


 私は仕方無く顔を上げる。正面に公爵閣下の胸が見える。そのまま上に視線を移動すると、アクロード様と同じように朗らかに笑う公爵閣下のお顔があった。


「其方がエクリシアか」


 質問ではなさそうだ。私はスカートを広げて言った。


「はい。クランベル伯爵が三女。エクリシアでございます」


 挨拶を終えて私がまた公爵閣下を見上げると、閣下は歯を見せてニッと笑った。


「私が第七代フェバステイン公爵、ロバリード二世である!」

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