第12話 罠

2023年9月29日 PM3:00



呼び出された駅前のコーヒーショップに入った時。

高木が腕を上げているのが見えた。


席に近寄ると立ち上がった男が言った。


「呼び出して、ゴメン・・・。

このコーヒーは今、持ってきたばかりだから」


テーブルには男と反対側と、二つのカップが並んでいた。

絵美は視線を向けようともせずに男に問いただした。


「それで、本当なのですか・・・?」

潤んだ瞳が女の動揺を表しているようで、高木は綻びそうになる口元を必死に押さえるのだった。


「まぁ、落ち着いて・・・」

コーヒーを勧める男に目もくれず、絵美は聞いた。


「この写真、本当に優君なのですか・・・?」

差し出すスマホの画面に夫が映っていた。


高木の彼女、サヤカとのキスしているシーンだった。


「あ、あぁ・・・」

思惑と外れた高木は力なく答えた。


サヤカとの筋書きでは夕食に呼び出して酔ったところで、絵美の動揺を誘う予定だったのに。

彼女は毅然とした態度で翌日に会うことを提案した。


それは高木にとって計算外だった。

サヤカを通して、優太が昨日から出張で不在だと聞いていたからだ。


夫の浮気に動揺する絵美を、混乱の隙に付け込むつもりだったのに。


「そうですか・・・」

絵美は興奮するでもなく事務的な声を出した。


「では、これで・・・」

「ち、ちょっと・・・」


慌てて引きとめる高木の手を絵美は冷たく振りほどいた。

そして、フッと口元を緩めると小さく呟いた。


「相変わらず・・・ね?」

そのまま、振り返りもせずに店を出て行った。


取り残された高木は声を出すことも出来ずに、只、立ちすくむだけだった。

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