第11話 企み

2023年9月20日 PM8:00



「ヒロシ、あの人のこと好きなんでしょう?」

興奮の余韻に浸りながら女が聞いた。


「どうかな・・・?」

汗ばんだ身体から逃れるように高木はベッドから降りた。


テーブルの上に置いたタバコに火をつけ、大きく煙を吐いた。

気だるそうにソファタイプの椅子に座る。


ラブホテル特有のドギツイ内装に、はめ込まれた鏡の中にいる女を眺めている。

スレンダーなボディは流石、現役のモデルだと思った。


(だけど・・・)

何年かぶりに出会った絵美の顔が浮かんだ。


サヤカの言う通り、大学時代から惚れていた。

一度、コンパの帰りに強引に駅まで送りながら口説いたが、あっさりと振られた。


その時、既に優太と付き合っていたらしい。

女に振られたのは初めてだった。


背も高く、甘いマスクの高木は女に不自由したことは無かった。

家も裕福で誘った女は必ず物にできた。


豪華なレストランやプレゼントで簡単に落とせたが、その分、軽薄な関係しか持てなかった。

朴訥で取り柄も無い優太の彼女になったと聞いた時は、耳を疑ったくらいだ。


プライドが傷つけられたこともあったが、絵美のことが忘れられずにいた。

今日、再会して変わらない清楚な雰囲気に胸が高鳴ったのは事実だ。


そう。

何故か心が惹かれるのだ。


小学生の頃の。

優等生のクラス委員のように。


どんなイタズラ少年も。

憧れの目を向けてしまう。


「私、あんな澄ました女、大っ嫌い!」

「おいおいおい・・・」


空想を壊す甲高い声に、高木は気持ちのまま声を出した。


「カマトトぶってさぁ・・・」

女は自分の言葉に興奮しているのか、更に語気を強める。


「自分では何もしないくせに、

男が自然とかばってくれると思ってるのよ・・・」


過去に何かあったような口ぶりだ。


「あんな女、許せないっ・・・」

唇がワナワナと震えている。


キツイ口調に眉をひそめたが、ムラムラとどす黒い感情が湧きあがってきた。

高木も自分が口説いた時に、あっさり振った絵美に対して納得できないものがあったのだ。


こんなにモテル俺様が告白したのに、あっさりと振りやがって、と。

しかも、あんなに冴えない男の方を選ぶなんて、と。


「俺もさ、アイツみたいなヘタレは大嫌いさ」

「ふふっ・・そんな感じ、するぅ・・・」


サヤカはベッドから起き上がると、男の咥えるタバコを奪い、煙を吐いた。

そして、意味深な口調で囁いた。


「抱かせてあげようか・・・?」

「えぇっ・・・?」


意外な言葉に驚いた高木だったが、すぐに不敵な表情に変わった。


ニヤリと笑った口元を見て、サヤカも白い歯をこぼす。

タバコを吸い込むと、美味そうに煙を吐くのだった。

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