第8話 霞む風景

1945年7月28日 PM5:00



唸るエンジン音。


振動を感じる。

死を前にしているのに。


何故か。

心地良い。


偽りも一切無い。

澄み切った気持ちで進んでいる。


存在するのは。

君への愛。


何も。

汚れの無い気持ちで。


僕は。

無になれる。


遠くに。

敵の空母が見える。


それに向かって。

僕の戦闘機は飛ぶ。


海面が。

キラキラと。


奇麗だなと。

思った。


今は。

君が。


君の愛らしい笑顔を胸に抱いて。


僕は。

消えていくのです。


操縦桿のレバーを。

グッと、押し倒す。


機体が。

敵の空母に向かう。


愛している。


僕は。

脳裏に浮かぶ妻に向かって。


呟いたのでした。

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