第7話 僕は向かう

1945年7月28日 PM2:30



「千人針をお願いしますっ!」

妻が、絵美が大きな声で呼びかけている。


白い布に赤い糸が無数に。

モンペ姿の彼女が通りゆく人々に必死に声をかけている。


時代は第二次世界大戦の終わりごろ。

何故か、僕は知っている。


僕と絵美が暮らした家もこの近くだと。

何故か、僕は知っていた。


僕は。

見守りながらも。


そのまま。

軍用車に乗った。


車は基地に向かう。

終戦を終わらせるための戦闘へ。


何故。

声をかけないかって?


それが。

僕の罪滅ぼしだから。


何故か、知っていた。


どんな罪なのかは覚えていない。

ただ、それが妻を、絵美をひどく傷つけたこと以外は。


妻が選んだ時代。

その中の役柄を演じるため。


僕は特攻隊員として。

空母へ向かう。


避けることは出来ない。


それが。

僕が罪を償う。


唯一の。

物語なのだから。

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