第6話 閃光

2023年10月21日 AM11:30



「始めますが、よろしいでしょうか?」

ヘルメットに内臓されているスピーカーから男の声が響いた。


「はい・・お願いします・・・」

僕は身動きできず、痺れる唇でようやく声を出した。


ケースに入る前に、注射を打たれた。


「筋肉弛緩剤です。

脳に全ての刺激が集中するように全身を麻痺させるのです。


人間の脳には未知なる力があります。

その部分を覚醒させたのが僕の発明です」


淡々と説明する男は注射針を抜くと、ガーゼで揉んで僕のシャツを下ろした。

僕は映画で観たことのある戦闘服に着替えさせられていた。


第二次世界大戦の頃にワープさせられるらしい。

そういえば、絵美も古いモンペ姿だったように覚えている。


「時間もシチュエーションも私がセットしました。

絵美は何も知りません。


彼女の希望は只、辛い時代で・・・

貴方の愛が確かめられるという条件だけでしたから。


絵美も貴方も私が設定した物語に自然と合わせます。

只、お二人の気持ちまではコントロールできません。


絵美がどう思うのか。

貴方を愛しているのか。


貴方の気持ちはどちらなのか。

辛い体験が待っています。


貴方は逃げてもいい。

選ぶのは貴方です・・・」


男の声が徐々に遠くなっていく。

眠くなるわけではない。


身体はしびれているが、脳は逆に鮮明になった気がする。

両目を覆うレンズが真っ白に光る。


強烈な轟音が響く。

銃声やエンジン音。


ケースが振動しているのは気のせいだろうか。

浮遊する感覚に包まれる。


飛ぶ。

飛んでいく。


様々な色の閃光が瞬く。

一瞬、真っ暗になった後。


再び白い光に包まれた。


そして。

僕は。


時空を飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る