第9話 切ないほどに

2023年10月21日 PM3:00



「大丈夫・・・?」

妻が問いかける。


僕の手を握り。

涙で滲む瞳で見つめている。


妻の背後に男が立っていた。

何処かで会った気がするのだけど。


「いくらVRでも衝撃は強いよ・・・」

意識が朦朧としていて、僕には意味が分からない。


「このマシーンは開発中だけど・・・

かなり、うまくいったらしい。


二人とも物語の主人公になりきっていたからね。


ホログラムで絵美の映像を消した瞬間、

優太さんも信じ切ってしまったようだし・・・」


満足そうに説明する男の低い声は、まるで音楽のようだ。


「御主人・・・

優太さんは本当に死ぬ気だったようだね?」


只、妻が嬉しそうに頷くのに安心した。


ああ・・・。

そうか。


会えたんだ。

良かった。


良かった。


僕は。

安堵のタメ息と共に。


再び。

目を閉じたのです。


でも。

妻の唇が。


切なく。

歪んで見えたのは。


僕の。

気のせい、だったのでしょうか。

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