第13話「黒獣(2)」

「くっ!」

 思った以上の反動にトバイアスは操縦桿を引く。距離を取った<ブラッド・オブ・バハムート>に、<G13>はさらに追撃の斬撃を浴びせて来る。


「やる!」

 以前戦った時は、C級の<ゴブリン>だったが、今回は遺産である<G13>だ。先ほどの攻防の感触は、ほぼ互角に思えた。

 トバイアスが驚いたのはロマンティカの技量である。温室育ちのお坊ちゃんだと思っていたロマンティカが、ディバインソードである自分とそれなりに渡り合えているのだ。


「ツァオ!お前が鍛えてやったのか!」

 旧友の名を口にしながら、トバイアスは<G13>の斬撃をはじき返す。空中機動が可能な<ブラッド・オブ・バハムート>なら、上空からの射撃で仕留めるのがセオリーなのだろうが、ロマンティカ相手に安全策をとることが気に入らない。

 正面から斬り合って決着をつける。トバイアスは知らずに血をたぎらせた。



「さすがに強い……」

<ブラッド・オブ・バハムート>の攻撃を何とかしのぎながら、ロマンティカは逆転の糸口を探していた。


 戦況は互角に見えるが地力が違う。機体の位置取りも攻撃の狙いも相手が上なのは、攻撃をかわしている自分がよくわかっている。<G13>の操縦サポート機能のおかげで何とか食い下がっているものの、このままではジリ貧になるのは目に見えていた。


 戦闘中、ロマンティカは古い記憶を思い起こしていた。樹脂でできた模擬剣で、父から戦闘の手ほどきを受けていた少年時代だ。一通り技を覚えた後、剣術の相手になってくれたのは数歳年上のトバイアスだった。


「昔のままと思うなよ!」

 左腕からもレーザーブレードを発振させ、二刀流に切り替える。奇襲だったはずの攻撃だが、<ブラッド・オブ・バハムート>は、1本のレーザーブレードで左右からの斬撃をさばいてみせた。唇をかみながらロマンティカはさらに攻撃を変化させるものの、それさえも届かない。


『忘れてもらっちゃ困るなロマンティカ!』

「!」

 横合いから黒い閃光が<ブラッド・オブ・バハムート>へと激突する。バランスを崩しつつも後退する相手に、さらに黒い影が襲い掛かる。


「<シュバルツ・パンテル>!」

『こちらは4機、向こうは2機。連携で仕留めるぞ!』

「は、はい!」

 漆黒のブレードを左右に展開した<シュバルツ・パンテル>が、文字通り黒豹のごとく<ブラッド・オブ・バハムート>へと殺到する。レーザーブレードでも切断できない超硬質合金製の刃を自在に操り、カインは一気に相手を追い詰めていく。


「すごい……」

 アウター最強の傭兵の実力を目の当たりにして、ロマンティカは息を飲む。二足型ではありえない低重心からのなめらかな連続攻撃に、トバイアスは明らかに押されていた。


「……」

 ロマンティカは我に返り、操縦桿に力をこめ直す。このまま、トバイアスが倒されては何のために傭兵になったのかわからない。死んだ家族の恨みを裏切者の胸に突き立てるという自分の役目を思い出し、彼は<G13>を前進させた。



「ちょこ!まか!と!」

 苛立った声をあげながら、エライザは<ラミア>のアサルトライフルで空中と飛ぶユニットを攻撃する。しかし、ユニットは彼女をあざ笑うかのように銃弾をかわし、ビームでこちらの装甲を焼いていった。


「うざったい!」

 ビーム自体の出力はそれほどでもない。B級の<ラミア>に装備されている電磁装甲でも十分減衰できる程度の威力しかない。ただ、ひたすらに厄介なだけなのだ。


『エライザ!落ち着いて回避に集中しろ!何があるかわからん』

 横を見るとアッシュの<ヴァーミリオン>も複数のユニットの攻撃を回避している。時折、射撃をしてみるがこれもことごとくかわされている。ふわふわと不安定に見えるが、驚くべき回避能力である。


「何なんですか。こいつら」

『わからん。だが、気を付けろ』

 アッシュの冷徹な声を聞きながらも、エライザのストレスは高まっていく。目の前に出現したユニットに反射的に銃口を向け、数発を発射するもやはり命中しない。


「え?」

 銃弾がありえない軌道を描いていることに気づいたエライザは、さらに数発を放つ。ユニットに命中する寸前、軌道を変えた銃弾はあらぬほうへと飛んでいった。


「隊長!」

『ああ、こちらからも見えた。アイツは何らかの力で銃弾を避けてる』

 確かめるように<ヴァーミリオン>も攻撃をくわえる。やはり銃弾は何らかの力に歪められてユニットを避けている。


「どういうこと?」

『やっと気づいたようね。私の<ティアクライス>の結界に』

 女の声が響く。まさかこちらの通信回線に割り込んでくるとは思わず、エライザは驚いて敵のギア・ボディを見上げる。


「なっ!」

 流線型のギア・ボディのフィンがトゲのように展開し、全身からスパークが弾けている。驚いて銃撃するも、ユニットと同じく軌道が曲がって命中しない。


『この<ティアクライス>は、12基のサブユニットを持ってる。それぞれは申し訳程度の火力しかないが、強力な磁力防御装置がついてるんだよ!』

<ティアクライス>の全身がさらに輝き出す。明らかに危険な予兆を感じ、エライザもアッシュも機体を後退させようとする。

『遅い!』

「武器を高く放り投げろ!」

<ティアクライス>の光がユニットにぶつかる。アッシュの言葉を聞いたエライザが、<ラミア>のアサルトライフルを空中に放り投げると、ユニットをリレーして放たれた雷撃がアサルトライフルを一瞬で蒸発させた。


「何よ、コレ!」

『雷だ!あのディバインソードは、雷を作れるんだ!』

 ユカの通信が耳に飛び込む。聞きなれない単語の意味を確かめるヒマもなく、エライザは恐怖にひきつった顔で、必死に<ラミア>を後退させた。

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創世記ロマンティカ(パイロット版) 浪漫贋作 @suzumochi

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