第10話「スティールダイバー(3)」
「くっそぉぉぉぉ!」
先程の余裕とは真逆の形相で、ハイウォンは側面からの攻撃のダメージを確認する。
アクアジェットが1基粉砕。ジャベリン砲身はどちらも作動不良。シザースも片方の応答が怪しい。損害の甚大さに、ハイウォンは自らの慢心を呪った。
これだけの損害で済んだのは電磁障壁があったからである。頼みの障壁も空中ではエネルギー供給ができず一気に出力が落ちていく。このままでは第2射に耐えられない。
「……」
撤退の二文字が浮かぶ。だが、ディバインソードの矜持がそれを許さない。周辺にいる部下に敵狙撃手の攻撃を命じ、ハイウォンは<G13>を掴んだシザースに力を込めた。
※
『敵腕部ユニットの圧力上昇。このままで右脚部が圧壊します』
「わかった!」
<G13>はありったけの武器で<スティールダイバー>を攻撃する。徐々に電磁障壁が弱まるのがわかるが、それでも重装甲は健在だった。
時間はそれほど残っていない。空中に弾き出された機体は、頂点を過ぎて降下しつつある。また水中に入られればヤツの防御力は復活し、その圧倒的な機動力で撤退するだろう。そして、こんな罠に二度とかかることはないはずだ。
「ここで仕留めるぞ!」
腕部に装備したレーザーソードでハサミ部分の装甲を切り裂く。やっとダメージを与えられるようになったが、それでも有効打には程遠い。ミシミシという音がコクピットまで響き、警告音が鳴り響く。
「くっそお!」
『ロマンティカ、巻き込まれるなよ』
ロマンティカの耳にアッシュの声が入る。次の瞬間、ハサミを含んだ<スティールダイバー>前面部が吹き飛んだ。
※
「すげえ……」
「ほんとに」
水中用ギア・ボディを相手に戦うエライザは、サブモニターに映る<スティールダイバー>を見て嘆息する。
自由落下なので予測しやすいとはいえ、荒れ狂う海上で撃ち抜ける技量はすさまじい。確かにさっきの通信はいらぬ心配だった。
「急造の遠距離スコープで、まともなアライメントも取れてないだろうに……」
「第1射よりもコアに近づいている……」
つかみかかるギア・ボディへ銛を打ち込みつつ、エライザはユカの言葉に同意する。こちらはこちらで相当な芸当をしているのだが、アッシュとロマンティカがやっていることとはレベルの差を感じてしまい、エライザの気分はやや暗くなった。
※
『スラスター部分が過熱しています。出力が70%まで低下』
「もう少しもたせろ!」
<スティールダイバー>の落下を少しでも食い止めようと、<G13>のスラスターが咆哮をあげる。先ほどの2射でいくつかのパーツが脱落したものの、自身の数倍はあろう<スティールダイバー>を引き上げるために、出力計が先程から異常シグナルを告げている。
『第3射まで残り……』
わずか数秒がもどかしい。パーツをまき散らしながらも抵抗を続ける<スティールダイバー>を睨みんでいたロマンティカの視界を閃光が覆う。
「やった!」
残っていた<スティールダイバー>の上部装甲が爆発する。ついにディバインソードの1機を倒したのだ。勝利を確信し、ロマンティカはスロットルにかけた手の力を緩めようとした。
「!!!」
爆風の中から1機のギア・ボデイが飛び出す。<スティールダイバー>と同じ色で塗装された機体で、サイズは通常と変わらない。その意味に気づき、ロマンティカは背筋を凍らせた。
※
「残念だったな!」
スティングレイから脱出した<スティールダイバー>を操縦しながらハイウォンは<G13>を振り返る。
シザースユニットに抑え込まれ、誘爆するスティングレイと共に落下している<G13>に追撃の余力はない。遠距離射撃をしてきた敵機も確認するが武器らしきユニットから黒煙があがっている。おそらくはオーバーヒートしているのだろう。
「忌々しいが……」
すでに配下のギア・ボディとの通信は途絶している。ハイウォンは早々に彼らに見切りをつけ、戦場から離脱することを決意した。
敗北ではない。補給艦へ戻れば予備のスティングレイが残っている。コアである<スティールダイバー>が無傷なのだから、すぐに換装してここに戻れば遺跡の制圧は十分に可能だ。素早く戦況を分析し、ハイウォンは自らの負けを糊塗する。
考えてみれば<スティールダイバー>単体で行動するのは初めてである。水準以上の機体ではあるのだが、いつもの高機動に慣れた身には歯がゆい。そんなことを考えつつ、彼は海上を戦域外目指して飛行していた。
「トバイアスに謝らねばな……!」
そうつぶやいた瞬間、機体下方より高速物体の接近が告げられる。モニターを確認すると水上を1機のギア・ボディが滑走しているのが見えた。
「なんだと!」
ギア・ボディから銛が放たれる。いつもなら電磁装甲ではじき返すレベルのものだが、今はスティングレイがない。直撃は致命傷である。
「生意気な!」
おそらくB級であろう機体の攻撃である。A級を凌駕するディバインソードにとっては何の脅威にもならない。ハイウォンは、余裕をもって回避行動へと移ろうとした。
「なっ!」
旋回しようとした<スティールダイバー>へ遠距離弾が突き刺さる。認識外からの攻撃に混乱したハイウォンは、機体制御をしくじり高度を下げてしまう。
そして、その先には飛翔する<ラミア>の銛が迫っていた。
「……笑うなよ。トバイアス」
自らの敗北を知り、ハイウォンはそうつぶやき目を閉じた。
※
「命中……」
狙撃ライフルから薬莢を排出しつつ、アッシュがつぶやく。
横ではユカの部下である技術班がオーバーヒートしたコイルガンの消火に当たっている。3射目でどこかの回路がショートし、使用不能になっていた。
「やはり使い慣れたものに限るな」
スコープ接続を解除し、<ヴァーミリオン>の関節固定を解除する。
アッシュが使ったのは通常兵装のスナイパーライフルである。特殊加工した弾頭を炸薬で飛ばすシンプルなものだが、通常のギア・ボディなら一撃で仕留める威力がある。
さすがのあの<スティールダイバー>の電磁装甲を抜くことは不可能であるため、コイルガンを使ったが、あのコアユニットなら話は変わる。機体が離脱したのを確認したアッシュは、コイルガンのケーブルを即座に引きちぎり、ライフルに持ち替えたのだ。
「エライザ、お手柄だ」
『は!ハイ!』
有効射程外になりつつあった敵機を捕らえられたのはエライザの功績が大きい。<ラミア>の放った銛を回避するため旋回した<スティールダイバー>は、アッシュの有効射程に入ったのだ。
わずか数秒の間である。それを逃さず彼は引き金を引き、<スティールダイバー>は海中へと堕ちた。
「ロマンティカ、エライザ。帰投しろ。本隊に補給を申請する。備蓄をすべて使い切るまで飲むぞ」
『了解!やった!』
『オレは酒はちょっと……』
『アタシも飲むからね!』
ロマンティカたちの歓喜を聞きながら、アッシュは滅多に緩めない口元を緩めた。
第3話「スティールダイバー」 完結
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