第5話「傭兵たち(1)」
「生き残った? 傭兵(バーグラリー)が? ディバインソード相手に?」
鶏モモ肉を引きちぎりながら、アフルレッド・エセックスが声をあげた。脂のついた指をしゃぶり、肉がまだついたままのソレを近くにいる犬へと放り投げ、大きなソファに体を沈める。
「300人降下して、生き残りは41人。悪い数字じゃないとは思ってたが、思ってもみない土産がついたな」
アフルレッドの前に立っていたアッシュは、彼の愛犬が鶏肉を食らう様子をチラリと見る。アウターから支給された食糧の中でも、養殖の鶏は貴重品である。それをペットにやれるという点に、彼の権限の大きさがわかる。
「その生き残りのガキ。ギア・ボディまで持ってきたってな。どうだ?使えそうか?」
「はい、地球焼却以前に格納されていた施設にあったもので、武装こそないものの陽電子炉もメインフレームも新品同然です」
「そうかそうか……」
アフルレッドが立ち上がる。姿勢を動かさないアッシュの肩に手を当て、耳元へ口を近づけた。
「そいつはどうすべきかな? なあ、兄貴」
アフルレッドの挑発的な言葉にアッシュは眉も動かさずに答える。
「技研へ提供し、データ解析をすべきでしょう。貴重な遺産兵器です。搭乗者のロマンティカともども木星まで送るべきかと」
アッシュの言葉にアフルレッドが少し眉根を寄せた。
「ふん……悪くない答えだ。コイツとそのガキは生体リンクしているのだから、一緒に木星に送る。生体リンクが解析完了するまでは、ガキは木星で無事に過ごせるわけだ。貴重なサンプルだからな、技研もムチャはしない」
アフルレッドの手に力が入る。クロム鋼製の骨格を移植された右手が、アッシュの骨をきしませるが本人は顔色を変えない。
「……それはつまらんよなぁ」
「?」
アッシュの肩から手を離し、アフルレッドがソファに戻る。テーブルの上にあった箱から禁止されているはずの葉巻を取り出し、火をつける。
「現在、オレたちはディバインソードと戦闘中だ。オレのヘプターキーがそれなりに戦えているが、戦況はよくない」
ヘプターキーとはアフルレッドが率いる傭兵部隊の名である。A級ギア・ボディのみで選抜されており、アウターの地球駐留軍でも最強の戦力を誇る。センチネルのディバインソード相手に、まともに戦えるのは彼らしかいない。
「今月、ウチも戦死が2名出ている。一方でディバインソードに損害はない。正直、分が悪い。補充要請はしているが、オレの眼鏡に適うヤツがなかなかおらん」
「ロマンティカをヘプターキーに入れるというのですか?」
「いや」
アフルレッドが煙をアッシュへ吐き出す。息も乱さず、アッシュは姿勢を変えない。
「独立部隊としてお前が部隊を率いろ。技研から来たうるさいのもつけるから、現地での実証データ取りといこうじゃないか」
「……」
アフルレッドの意図を理解したアッシュだが、何も言わない。言ったところでこの駐屯地の王である彼が何かを変えることはないだろう。
要は戦力が整うまで囮をやれということだ。現地ではまともな解析もできないし、木星まで運んではせっかく手に入れた現有戦力が活用できない。鼻っからロマンティカ機の中身などどうでもいいと考えているアフルレッドらしい決定だ。
「了解しました」
「そうか、やってくれるか!さすがだ。元ヘプターキー1」
葉巻をくるくるを回して、アフルレッドは退室を促す。アッシュは踵を返してドアまで歩き、足を止めて振り向いた。
「1つだけ許可が欲しいのですが」
「ああ? なんだ?」
愛犬の頭をなでていたアフルレッドが顔をあげる。
「部隊編成と装備に関しては自由裁量をいただきたい。オレのギア・ボディに関しても」
「ギャン!」
愛犬が悲鳴を上げる。ぐったりした愛犬の亡骸から手を離し、アフルレッドは咥えたままの葉巻を上下させる。
「いいぜ。その代わり、戦域はこちらで指定する。安心しろ、補給はキチンとしてやるし、任務手当てもキッチリつける」
「ありがとうございます。ヘプターキー1」
アッシュは敬礼をして部屋を出る。一人だけになった室内で、アフルレッドはソファに身を預け、天井をじっと見つめていた。
※
「ここが第13独立戦隊!?」
ロマンティカとエライザが顔をあげ、周囲を見回す。G13の周辺に何も見当たらない。
「?」
「し・た・よ! 下!」
『脚部付近に生命体がいます』
G13の音声に機体下部をのぞき込んでみる。白い制服を着た小柄な人物がG13のヒザからこちらに上がってくるのが見える。
「よいしょっと」
上がってきたのはロマンティカよりも年少に見える少女だった。汗ばんだ額をぬぐい、メガネをクイッとあげると、彼女はG13のコクピットルームをしげしげと眺める。
「典型的な第3世代ギア・ボディのコクピットね……。流体金属で成型したとは思えない細かさだけど、どう見ても樹脂製じゃないもんね。すっご」
「ねえ、アンタ」
「黙ってて野蛮人」
エライザが声をかけるのをピシャリと制し、メガネから発せられる光で少女はコクピット内を細かく解析する。
「人造オリハルコン? 組成式では知ってるけど、ホンモノ見たのはじめてよ。どうにしかして削れないかしらね」
『やめてください。防衛行動をとります』
「うわぁあぁあ!しゃべった!」
ハッチからずり落ちそうになる少女をエライザが支える。少女が直もコクピットに入ろうとするのを見かね、エライザが襟首をつかむ。
「なにすんのよ!」
「なにすんのよ!じゃないでしょ!助けてあげたんだからお礼くらい言いなさいよ。どこの子供よ!」
エライザの言葉に、少女が眼を見開く。メガネのツルに指をあて、赤い光をエライザの顔に照射する。
「エライザ・コールマイン……。17歳。子供に子供って言われる筋合いはない!」
「はあ?」
「ボクは18歳だよ! 大人だ!」
「大して変わらんわ!」
エライザが少女の後頭部を叩く。激高した少女がつかみかかろうとしたのをロマンティカが止める。
「まあまあ……」
『私のコクピットで喧嘩はやめてください。防衛行動をとりますよ』
「まあまあ……」
ロマンティカが2人をなだめる。気を落ち着けた少女は、メガネをクイッとあげロマンティカに手を差し出す。
「ユカ・ユカワよ!技研の第3分局所属。7歳で学位を3つも取った天才よ!」
「はあ…」
まだ怒っているエライザをチラッと見つつ、ロマンティカは大きくため息をついた。
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