第6話 ハーレムに突撃訪問

「突拍子もないというか、ある意味効率が良いやり方だな」


 王宮の中庭で私の隣を歩くクロードは、どこか楽しそうだった。

 今日は本当ならば、私と殿下が顔を合わせてお茶会するという日だった。


 もちろんこの予定は、もう半月以上も前から決まっていたこと。

 しかし今回もまた、不測の事態が起きたらしい。


「毎回ですからね。それにあの方の性格を考えたら、タイミングはバッチリかと」

「毎回、なのか?」


 さすがのクロードも呆れたように、その漆黒の髪をかきわけた。

 そう。私との会う予定をキャンセルするのは、毎回のことだった。


「これでも前までは、本当に信じていたのですけどね」

「殿下の嘘をか?」

「そうですね。嘘だなんて、思ったこともありませんでした」


 むしろ病気になったり、怪我をしてしまったり、急な仕事が入った彼の身を心配していた。

 王太子というものは、それほど大変なものなのだろうと。


 あの頃の健気な私を返して欲しいくらいだわ。

 なんで私が、あんなヤツのことを心配なんかしなくちゃいけなかったのよ。


 無駄な時間返せっつーの。

 慰謝料とか、請求できないものなのかしら。


「こんなに可憐な君の顔を曇らすなど、本当にグズとしか言いようがないな」

「グズというよりも、ゴミですね」

「粗大ゴミ? あー、大きなという意味か」

「あー。そうです、それです」


 いけない。

 記憶が戻ってからというもの、こっちの言葉とあっちの言葉の区別が曖昧になってしまってるのよね。


 粗大ゴミなんて言葉、こっちにはなかったわ。

 大きなという意味じゃなくて、処分するのに有料なゴミって言いたかったんだけど。

 さすがに過去の記憶があると言ったら、変に思われてしまうから、気をつけないと。


「にしても、よく居場所を突き詰めたものだな」

「それは人の戸口……じゃなくて、使用人たちの情報網はバカに出来ないということですわ」


 でもまさか、王宮内では殿下の素行が公然の秘密であったなんてね。

 知らなかったのは私だけ。

 みんな私に気を遣っていたようだけど、出来れば教えて欲しかったというのが本音。


 毎回私との面談をするために開けていた時間を、自分の欲望のために使用していただなんて。

 しかも他の女たちとの面会は、秘密の花園だなんて名前を付けていたらしい。


 中庭を抜けた一番最奥の温室に、逢引するための部屋を作っていた。


「まったく自分の下半身を満たすためにココまでするとか、異常ね。うん。気持ち悪い」

「あはははは。まったくアマリリス嬢は本当に素直だな」

「すみません。少しストレートすぎました」


 クロードは笑い飛ばしてくれたけど、貴族令嬢っぽくはなかったわよね。

 ついつい殿下のことになると素になっちゃうわ。


 その花園は殿下たち以外は、近づくのを禁止されていた。

 しかし周囲には護衛のための騎士たちは存在している。


 だからこそちょうど良かった。

 ここで問題を起こせば大勢の観客がいる。

 そして公爵であるクロードまで登場したのならば、もう公然の秘密ではなくなるのよね。


「では、クロード様。予定通り、お願いいたしますね」

「ああ……だが、心配だな」

「ふふふ。大丈夫です。私、こう見えてもしっかりしてるので」


 私は当初の計画通り、クロードと二手に分かれた。

 クロードは控えている護衛騎士たちに、殿下との面会を申し込むようになっている。

 もちろん護衛騎士はいきなりのクロードの訪問に困惑しているはずだ。


 だってあの花園は立ち入り禁止だから。

 面会をと言われたところで、騎士たちすら近づけはしない。

 そんなことをしたら、自分たちが責められるのだから。


「さーてと。クロード様が上手くやってくれてる間に、こっちは凸しちゃいましょう」


 そう。ただ護衛騎士の注目をクロードに向けておきたいだけ。

 私は裏側からこっそりと、花園に近づいた。


 もちろんあらかじめ予備の鍵は持っている。

 緊急時のための鍵を、国王陛下の侍女長が持っていたのが運の付きなのよ。


 実の息子である殿下は、まさか身内に見放されるなんて思ってもいなかったでしょうね。

 クロードの口利きもあったけど、私が泣き落とし、しかも殿下と二人できちんと話したいと言ったら、陛下は侍女長から鍵を受けとることを許可してくれた。


 拒否されるかと思ったけど、私が今までかけてきた時間とこの前の夜会での出来事わ考えれば、もう避けては通れないことだった。


「さてと。今から楽しい楽しい、ショーや始まりだわ」


 私は鍵でドアをあけ、そのまま大きな足音を立てつつ中に侵入した。

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