第67話 お前、絶対に忍者だろっ!?
――アクア SIDE――
(ここは……!? さっきまでルナリア王女の部屋にいたのに!)
部屋の中が光ったと思ったら、私は外の路地裏のような場所に移動させられていた。
細長い道の先には、黒い装束を身にまとった一人の大柄な男が垂直に立っている。
男は私を見ると、深く頭を下げた。
「どうも、アクア殿。拙者は魔族の『サイトウ』でござる。ニンニン!」
「……はぁ? これはどうもご丁寧に……ってどこですかここは!? 秋月さんたちは!?」
私が絶叫すると、サイトウは指2本を顔の前で立てて説明してくれた。
「これは転移の術でござる。我らが魔族の隊長『ビッグ・ブラザー』殿の技でござる」
「び、ビッグ? それで、貴方の正体は何なんですか?」
「それは明かせないでござる! ニンニン!」
「……とりあえず、絶対に忍者ですよね?」
「な、なぜ分かったでござるっ!?」
私の指摘に、サイトウは狼狽える。
そりゃ、そんだけニンニン言われたら分かる。
っていうか、忍者ってそんなにニンニン言わないと思う。
「どうして、ルナリア王女を狙っているんですか?」
「言いたいけど、それも明かせないでござる」
「分かりました! みんな、ルナリア王女の事が好きなんですね? だからつい、ちょっかいをかけてしまうと――」
「ち、ちげーでござるしっ! 隊長は目の前でルナリア王女に逃げられたでござるから、その復讐も兼ねて今後厄介になりそうなルナリア王女を捕えて、あわよくば転移の術のやり方を奪って魔族の侵略に役立てようとしてるのでござるよ」
「なるほど~」
「あぁっ!? しまったでござる! 言ってしまったでござる!」
サイトウは顔を真っ赤にして反省する。
人間の言葉を話せるとはいえ、所詮はモンスター。
やはり知能が低いようだ。
その上お喋り好きらしい。
明らかに忍者には向いていない。
もっと情報を引き出すために私は揺さぶりをかける。
「どうせ今から私を殺すんですから我慢しないで全部言っても良いじゃないですか」
「確かに! 死人に口なしでござるからな! 秘密って誰かに話したくなるでござるよな」
サイトウは感心するように丸めた右手で掌を打った。
「じゃあ、どうやってルナリア王女の転移の技を私たちに使ったんですか?」
私が尋ねると、サイトウは嬉々として答える。
「うむ、それはミスト王国でルナリア王女が転移の魔法を使う際に我らが隊長のビッグ・ブラザー殿が学習したでござるよ。でも、実際にビッグ・ブラザー殿が使える転移の魔法はルナリア王女の100分の1以下の出力で、しかもあらかじめ使用する場所に時間をかけて魔法陣を書く必要があるのでござる。だから、やはり本物のルナリア王女が欲しいのでござるな」
「なるほど……じゃあ、どうやってルナリア王女の寝室でそれを発動できたんですか?」
「それはあらかじめビッグ・ブラザー殿がフロスティア王国の部屋に魔方陣を書いていたからでござるよ。ルナリア王女は突然目の前から消えて取り逃がしたので、このフロスティア王国に保護を求めてくるだろうとあらかじめ予想していたのでござる。『ルナリア王女を捕らえることができたら、用済みになった王女は好きにさせてやる』とセバストリ王子に取り入って、あの部屋に魔法陣を施していたでござるよ」
……あの、クソ王子か。
やはりフロスティア王国の王子は魔族と手を組んでいた。
アーサーさんが『キナ臭い』と言っていた勘はまたしても的中していたようだ。
「他に何か言いたい事はありますか?」
「いや、もう拙者が持っている情報はないでござる。あー、全部言えてスッキリしたでござる」
「そうですか――じゃあ、『千本桜』」
私は流れるようにスキルを発動する。
並大抵の相手ならこれで倒せるのだが――
――ギギギギィン!
いくつもの金属音が周囲に響く。
「不意打ちとは卑怯でござるな。正々堂々と戦うでござる」
「……それ、忍者が一番言わないセリフですよ? やっぱり貴方、忍者向いてません」
両手に短剣を持ったサイトウは私の攻撃を全て防いでいた。
私を弾き飛ばすと、短剣を逆手に持ち直す。
「今のが限界の攻撃速度でござるか? 遅い……あまりにスローでござるよアクア殿。やっぱり、拙者の調査の通りでござるな」
「調査?」
私が尋ねると、サイトウは自信満々に答える。
「うむ、拙者は忍者ゆえ諜報活動も得意なのでござる。『【悲報】アクア、探索者として終わるw』や『【悲報】アクア、もう上級ダンジョンには挑まない模様w』など様々な情報をすでに手にしているでござるよ」
「……ネットの掲示板を見ただけじゃないですかそれ」
「B級探索者なんて、拙者の敵ではないでござる。そして、秘密の情報を知ったからには死んでもらうでござるよ。――あっ、ニンニン!」
「勝手にペラペラと喋って、随分と勝手ですねぇ。ていうか言い忘れるくらいならニンニン言わない方が良いんじゃないですか?」
そして、出発前に綿霧さんが言っていたことを思い返した。
「"……アクアさん、気を悪くしないで欲しいんだけど。今の君の世間の評価は『B級で探索者を諦めたアイドル』だ。なにせ、最近はダンジョンの攻略配信をしていないし、低ランクのダンジョンでの素材集めや探索と関係の無い配信ばかりだからね"」
そう言って、綿霧さんは続けた。
「"だから、君が居れば秋月君も時雨ちゃんもそれ以下の探索者だと敵も油断するだろう。まだ誰も気が付いていないんだ、君や秋月君の実力は既に【S級】に到達していることを"」
私は短剣を握り直す。
この魔族――サイトウはせっかく名乗ってくれたんだ。
こっちもせめてもの礼儀を返してやろう。
「……帝国ギルド所属、B級探索者アクア。参ります!」
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