第66話 すでに戦闘は始まっている
「ミスト王国奪還は良いんだけど、それよりもまずは今の状況よ」
「今の状況……?」
ルリアは部屋の外を見る。
アクアが気絶させた部屋の外の衛兵たちが廊下で倒れたままで、それ以外の変化はない。
「この短剣娘――アクアがこれだけ騒ぎを起こしたのに誰も来ない……私は一応保護対象なのよね? っていうか、今更だけど護衛対象に短剣投げるな」
「それはすみませんでした……頭に血が上っていて……」
「そういえば、『
俺が尋ねると、アクアと時雨がここに来るまでの状況を説明してくれた。
「私が『ルナリア王女の寝室にどうしても行きたい!』って言ったらガラハットさんが手助けしてくれたんですよ」
「ワクワクしながら、『いいねぇ! おじさんそういうの大好きだ!』とか言ってたね!」
「そうしたら、急に城内の様子が変わってフロスティア王国の兵士たちがルナリア王女の寝室に行かないように止めてきたんです」
「フロスティアの人たちは『まだ護衛の時間ではないだろう! この会場で大人しくしていろ!』って言ってたね」
「その時にアーサーさんが『僕の勘が言っている! ここは僕たちが抑えるから君たちはルナリア王女のもとへ行ってくれ!』って行かせてくれたんです」
「連絡が取れるように、シルヴィアさんが通信機を持たせてくれたんだ! まだ連絡は来ないけど」
「それで私が時雨ちゃんとここに来たら、秋月さんがベッドで襲われる寸前だった……ということです」
その時、丁度時雨が持たされていた通信機が鳴った。
時雨は慌てて通信機に出る。
「――よし、繋がったね! 僕はアーサーだ、敵の魔法で
「はい、アーサーさん! 秋月君は無事でした!」
「いやいや、ルナリア王女の安否を教えようよ。確かに俺が襲われてたけどさ」
「アーサーさん、私は無事です! ご心配、ありがとうございます!」
猫を被って王女モードになったルリアが返事をする。
「良かった! 僕たちは突如王城の外からやって来た敵に足止めされているんだ! 周囲の王子たちを守りながらの交戦だから手が離せなくて……悪いがしばらくそっちには行けそうにない!」
通信機からは交戦しているような激しい戦闘音が聞こえる。
ルリアはため息を吐いた。
「やっぱり、すでに仕掛けられていたのね」
「君たち、王女を連れて王城の外に逃げてくれ! 敵の本命の狙いはやはりルナリア王女だと予想している!」
「――その通り、ってなんだS級はここには居ないのか拍子抜けだな」
その瞬間、突如どこからともなく声が聞こえた。
その姿を確認しようと周囲を見回す前にこの部屋全体が発光する。
「お前たち、全員殺しておけよ?」
「この声はっ!? 私の国を襲った――」
一瞬の出来事だった。
怒ったようなルリアの声を最後に、気が付くと俺は見知らぬ大部屋の中に移動させられていた。
周囲に時雨たちは居ない。
咄嗟に時雨を守る為に警戒していたが、特に攻撃は無かった。
なので、当然俺の『危機察知』も働かず、まんまと魔法か何かで転移させられたワケだ。
(……転移させられたのは俺だけか? いや、部屋全体が光っていた……恐らく俺以外も全員どこかに)
ここはダンジョンじゃない。
流石にダンジョンの中まで飛ばせるほどの魔法はできないだろう。
であれば、この大部屋は敵に用意された場所だ。
その証拠に、俺の目の前には大量のモンスターたちが俺をエサでも見るような目で睨みつけている。
どうやら、俺を始末する為のモンスターハウスに送られたらしい。
(懐かしいな、この光景も……)
モンスターの大軍を前にして、俺は剣を抜いた。
「時雨、アクア……無事でいてくれよ。こいつらを片付けたらすぐに助けに行くからな」
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