第64話 異世界でも無双してました

 アクアと時雨は復唱する。


「……秋月さん1人だけが」

「――SSSランククエストをクリアした?」


 ルリアの大げさな言い方に俺はため息を吐く。


「結果的にそうなったけど、本当に俺はただ最後に一人生き残っただけなんだ。パーティの中でも最弱だったし」

「秋月さんが最弱!? そ、そんな! あり得ません!」

「じゃあ異世界はもっと凄い人たちだらけだったってこと!?」

「もちろん。みんな俺なんかよりずっと凄かったよ」


 ルリアは俺の言葉を聞いて、にっこりと張り付けたような笑顔になった。

 これは、怒っている時の顔だ。

 こうなると、ルリアは口調も若干悪くなる。


「まだそんな事言ってんの? 確かに最初は最弱だったけど、結局アンタが誰よりも強くなったでしょ? 剣聖にすらなったじゃない」

「いや、でも実際……俺だけいつも異世界ダンジョンでボスまでたどり着けずに途中リタイアしてたし……」


 だから俺はアクアや時雨にあまり異世界での話をしたくなかった。

 俺がパーティメンバーに何とか付いて行けて、ボス戦まで一緒に戦えたのは本当に数えるほどしかない。

 そんな情けない話しかできないのだ。


「……『リタイア』ね。よくもまぁ、そんな事が言えるわ。アンタは相変わらずね」

「でも、秋月さんのお話が本当だとしたらやっぱりパーティには付いていけてなかったってことですか?」


 アクアの質問にルリアは答える。


「ダンジョンって『モンスターハウス』や『トラップ』、特に『1人を犠牲にしたら他は全員助かる』みたいな状況があるじゃない。異世界ダンジョンはそれのドギツイやつがかなり用意されていたのよ。SSSランクにふさわしい理不尽な殺意に満ちた仕掛けがね……」


 ルリアは俺の額を指でドスドスと突きながら話を続ける。


「コイツ、そういう場面で『ここは俺に任せて先に行け!』とか言っていつも1人で残るのよ。しかも、絶対に助からないようなシチュエーションで」

「それは何て言うか……秋月さんらしいですねぇ」

「それで、私たちパーティはダンジョンで涙ながらにコイツと別れて、『秋月の想いを無駄にはしない!』とか、『散っていったアイツの分まで頑張るぞ!』とか気合いれてダンジョンを制覇するんだけどさ」


 ルリアは極限まで呆れ切った表情で語る。


「……コイツ、毎回生きて帰って来るのよ」

「あはは……ダンジョンから帰って来て、自分の墓を何回見たか分からないよ」

「最初のうちは生還してきたコイツと涙ながらに抱き合ったりしてたけど……なんかそのうち『またか』って。慣れてきちゃって」

「えぇ……」


 アクアと時雨がドン引きしている。


「俺の墓も最初のうちは名前入りの墓石だったのに、そのうち名前の下に(仮)とか付けられるようになって……最終的には砂で小さい山作って木の棒が1本刺さってるだけになってたよ」

「そんな、飼ってた金魚の墓じゃないんですから……」

「本当に毎回どうやって生還してくるのか不思議だったわ」

「いつも本当にギリギリだったよ。機転を利かせてピンチを切り抜けたり、死に物狂いでモンスターを全滅させたり……いつ死んでも不思議じゃなかった。でも、時雨が俺を待ってると思ったら諦めずに剣を握る力が湧いてきたんだ」

「お兄ちゃん……ありがとう。私の為に本当に頑張ってくれたんだね……」

「秋月さんは異世界に行っても相変わらずでしたか」


 時雨はウルウルと涙ぐんで俺に抱き着き、アクアは呆れた表情だ。


「こんな命知らずな奴、多分他には居ないわ。まぁ、でもそんなワケで誰よりも死線を潜り抜けて最強になっちゃったってワケ」

「何言ってんの! 俺なんて全然だよ! だってそんなトラップやモンスターハウスなんかよりダンジョンボスの方が強いでしょ?」


 俺の態度にルリアはイライラが募っている様子で語る。


「アンタ、気づいてないの? 50階層以上のダンジョンはアンタがボス部屋まで来れないように全てのトラップと凶悪なモンスターが全部アンタに当てられてたのよ? 偶然じゃなくて、アンタは強制的に攻略から遠ざけられてたの」

「あはは、そんな馬鹿な。魔王だってわざわざ俺なんか狙わないよ」

「そもそも、その魔王がなんで異世界から去ったと思ってるの? 明らかにアンタの規格外の強さにビビッて逃げ出したんでしょうがっ!」

「違うよルリア。異世界の侵略はもうほとんど済んでたから魔王は弱いモンスターだけ置いて行ったんだよ」

「あの化け物たちを『弱いモンスター』とか言ってる時点でおかしいでしょ!」


 意見が食い違うルリアと俺を見て、アクアと時雨も何やら話し合う。


「あ~、そもそも秋月さんって異世界に行く前はすっごく弱かったんですよね。だから自分が強いって感覚がそもそもイメージ出来ないのかも……」

「聞いてる限りだと、パーティに加入した時は本当に一番弱かったみたいだしね……」

「はぁ、まったく。コイツが鈍感なのは分かってたけど、ここまでお馬鹿さんだとは……」


 ルリアはもう何もかもを諦めたように呟く。


「異世界帰りの剣聖は、自分の実力に気が付かないようね」


 ――――――――――――――

【業務連絡】

 次回から、物語が動きます!

 楽しみにお待ちください!


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