第61話 王女様が俺に興味津々です
フロスティア王国の中央広場にはルナリア王女の演説を聞きに多くの聴衆が押し寄せていた。
もちろん、保護されているミント王国の住人たちも大勢集まっている。
そして、ルナリア王女がそんな聴衆の面前に姿を現した。
「おぉ! 本当にルナリア様だ!」
「奇跡だ! 生きておられた!」
「何という美しさ! やはり女神様なのでは!?」
「一体、何を語られるのだろう……!」
聴衆のざわめきや歓声が一通り鳴り止むと、ルナリア王女は演説を始めた。
『
「皆様、私はミスト王国の王女――ルナリア・ミストです。お集まりいただき、ありがとうございます。ミスト王国の国民の皆様のご無事な姿を見ることができて、大変嬉しく思います」
ルナリア王女が一言話すたびに聴衆からは感嘆の声が漏れる。
俺の『危機察知』のフィートは働かない、少なくともルナリア王女への直接の攻撃は無さそうだ。
まぁ、もし何かがあってもS級探索者である『
ルナリア王女の演説は進む。
「モンスターの大群が我がミスト王国を襲ったあの日。私は突如暗い世界に閉ざされました。その世界で私は何もかもを失い、絶望の淵に立たされていました」
ルナリア王女の演説を聞きながら、若い男性がコソコソと隣の男性に尋ねる。
「ルナリア王女は何の話を言っているんだ?」
「バーカ、これは暗喩表現だよ。具体的には言わず、物語として神話性を持たせることで自分を権威付けようとしてるんだ」
「なるほど、要は誇張した話ってことだな」
恐らく、フロスティア王国の指示でもあるだろう。
フロスティア王国は現在、ルナリア王女から最も恩義のある国だ。
ルナリア王女の権威を最大まで高めて利用するつもりだろう。
「しかし、そんな時に――1人の英雄が現れ、私を導いてくださいました。どんなに困難な状況でも、誰もが心折れて絶望するような事が起こっても、その方はまるで秋の夜空に浮かぶ月のように凛々しく輝いて、決してあきらめずに私の手を優しく、力強く引いてくださいました」
恐らく、フロスティア王国の兵士のことだろう。
ルナリア王女を保護したのはフロスティア王国だ。
今回の演説では、その部分を強調させたいらしい。
「……『秋の夜空に浮かぶ月のように』?」
俺の隣にいるアクアはルナリア王女の言葉を復唱すると、何やら怪訝な顔つきをする。
「手にした鉄の剣で数多のモンスターを薙ぎ払い、私や善良な人々を救ってくださいました。私の命がこうしてここにあるのもその方のおかげです」
ルナリア王女は少し顔を赤らめて話を続ける。
どうやら、フロスティア王国に対してはかなりの恩義を感じているようだ。
「――そして、私や国民の皆様を保護してくださったフロスティア王国に多大なる感謝を。この場に集まってくださった全ての皆様、演説を聞いてくださりありがとうございます。モンスターに占領されてしまったミスト王国の今後についてはこれから話し合って決めていきます。どうか、変わらぬご支援をよろしくお願いいたします」
そう締めくくると、ルナリア王女は深く頭を下げた。
流石にS級探索者たちに囲まれているこの状況では誰もルナリア王女に手出しなどできなかったのだろう。
ひとまず、ルナリア王女の演説は無事に終わった。
◇◇◇
「皆さん、お疲れ様です!」
俺は『
「演説中は問題なかったね」
「まぁ、狙ってくるとしたら夜中だとかルナリア王女が1人の時でしょう」
「ルナリアの嬢ちゃん、ありゃー助けてくれた兵士に絶対に惚れてるぜ? 話してる時に女の顔をしてやがった」
「あー、はいはい。おっさんはすぐに若者に恋愛をさせたがるわねぇ」
ガラハットの戯言をシルヴィアは呆れたように聞き流す。
しかし、アクアは何やら眉間にシワを寄せていた。
「さて、次の警護の"晩餐会"までは時間があるね。みんな好きにしてて良いよ」
「良し、俺は酒を――」
「ガラハット以外は」
「なんでだよっ! 俺ぁ、もうすでに頑張ったぞ! 居眠りもしてねぇし、ちゃんと一人で立ってた!」
「そんな幼児の基準で力強く自慢しないでよ。晩餐会には社交パーティもあるの、酒なんか飲んだら絶対に粗相するでしょ」
アーサーは少し考えた後に提案した。
「そうだ、時雨ちゃんに魔法を教えてあげたらどうかな?」
「ガラハット先生! 魔法教えて~!」
「ったく、しょうがねぇな~。さっき約束しちまったしな~」
時雨が瞳を輝かせると、ガラハットは後頭部をガリガリとかく。
「こいつ、子供は好きなのよね。時雨ちゃん、ガラハットが酒を飲まないように見張っててね」
「任せてください! ガラハットさん、お酒の飲み過ぎは身体に悪いのでダメです!」
「え~、時雨ちゃんもそっちにつくのかよ。まいったな」
「私の時と全然反応が違うのが腹立つわね」
シルヴィアがガラハットを時雨に押し付けると、今度はアクアに話しかけた。
「アクア、貴方に渡す物があるわ」
「何ですか!? 果たし状ですか!? 受けて立ちますよ!」
アクアはそう言って、両手でファイティングポーズを取った。
「違うわよ、せめてアンタくらいはマトモであって欲しいんだけど……ほら、これ」
シルヴィアはそう言って、アクアに短剣を手渡す。
「何ですかこれ?」
「これは
「え、
「ほら、[封印のダンジョン]をクリアしたのに帝国ギルドからは報酬を渡してなかったでしょ? 秋月君は剣を手に入れたわけだし、貴方も武器を新調した方が良いかと思ってね」
「う~、ライバルである貴方から貰うのは癪ですね~。でも欲しい……」
「安心しなさい、ギルド長の指示だから」
「綿霧さんの!? なんだ~、じゃあ頂きますね! よーし、早速簡単なダンジョンで試し斬りしてきます!」
「はいはい。ちゃんと晩餐会までには帰ってきなさいよ」
シルヴィアがすっかりお母さん的なポジションになってしまっている。
実は一番の苦労人なのでは……?
「秋月君は晩餐会までは何をしている予定なの?」
シルヴィアさんに聞かれて何も予定がない俺は少し考える。
「えっと、じゃあせっかくなのでガラハットさんと時雨の様子でも見学させていただきます」
「確かに、2人きりにしておくのは危険だものね。せっかくだから、私も一緒に居るわ」
「馬鹿野郎、俺はガキになんか興味ねぇぞ。俺様の守備範囲は酒が飲めるようになってからだ」
「違うわよ、時雨ちゃんが間違えてあんたを消し炭にしないかが心配なの」
「あっはっはっ、シルヴィアちゃんも冗談言うんだな」
そう言ってガハハと笑うガラハットさん。
割と冗談じゃないんです……。
アーサーさんが最後にまとめる。
「僕は『
こうして、各々が晩餐会までの時間を過ごした。
◇◇◇
――夜。
フロスティア王城では晩餐会が終わると、社交パーティが開かれていた。
音楽隊が落ち着いたクラシックを演奏し、ダンスが始まる。
時雨はそんな会場を見て目を輝かせているが、残念ながら俺たちは周囲で警備のお仕事だ。
「ルナリア王女、御立派な演説でした!」
「民を思う気持ちに大変心打たれました!」
「それにしても、相変わらずお美しい!」
「よろしければ、私と一曲いかがでしょうか?」
自由都市フェーンハイデン、ミッドウェスト公国、エルムンド連邦国……
名だたる各国の王子たちがルナリア王女に手を差し伸べる。
このままではフロスティア王国の物になりそうなルナリア王女を手に入れる為に懐柔しようとしているのだろう。
誰も彼もが絵にかいたようなイケメン王子揃いである。
「おー、おー、砂糖に群がる蟻みてぇだぜ」
会場の周りで警護をしているガラハットは晩餐会でくすねた酒瓶からこっそりと酒を飲んで笑う。
「すみません、後ほどお相手をさせていただきます。私には、最初にご一緒したい方がいるので」
しかし、ルナリア様は各国の王子たちなど意に介していない様子で誘いを断る。
そして、何やら会場内をキョロキョロと見回し始めた。
(誰かを探しているのか……?)
ルナリア様が目を止めた先には、クルクルとブロンド髪を巻いたきらびやかな王子が立っていた。
フロスティア王国のタキシードを着ている。
やはり、ルナリア様にとっては庇護してくれているフロスティア王国の王子が最優先なのだろう。
自分を選んでくれたと理解したフロスティア王国の王子はペコリと頭を下げる。
「ルナリア様、光栄です! 最初の相手に私を選んでいただけるとは!」
ルナリア様は周囲の王子たちや権力者たちの注目を集める中、ツカツカと歩いてフロスティア王国の王子に近づく。
――そのまま通り過ぎて、俺の目の前まで歩いて来て膝をついた。
「――私と踊っていただけませんか?」
「……へ?」
王女様はそう言って、この会場内で一番冴えない俺に手を差し出した。
――――――――――――――
【今後の投稿について】
すみません、腱鞘炎の影響もあり投稿ペースが落ちるかもしれません!
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