第60話 王女様は俺が気になるようです
「あ~、くそっ! 息苦しいっ!」
シルヴィアが持ってきていた帝国ギルドのS級探索者用のスーツに着替えさせられたガラハットは嫌そうにネクタイを緩める。
さっきまではだらしなさが服を着て歩いているような姿だったのに、スーツを着せてシルヴィアが軽く髪を整えると、なかなかの渋いおっさんに変身した。
「我慢しなさい、ガラハット。あんたは数合わせだから、ちゃんとした格好で立ってさえいれば良いわ」
「それ、俺にとっては難易度Sランククエストだわ。既に吐きそう……」
「吐いたら禁酒よ」
「酒は俺にとっては酸素みたいなモンだぜ? シルヴィアちゃん、俺に呼吸するなって言うの?」
フロスティア王城の応接間で他の国の有力者たちに混じってそんなやり取りをする。
護衛の任務はルナリア王女から綿霧さんに宛てられたモノだけど、フロスティア王国からは別で各国の王子や議員に招待状を送っていたらしい。
――やがて、音楽隊がファンファーレを鳴らすと奥の扉が開いた。
左右に騎士を従えて、絢爛としたドレスを着飾った少女――ルナリア王女が少し物憂げな表情を浮かべてこの応接間に登場する。
その美しさに周囲も驚きの声を上げて拍手を始めた。
「あれが、ルナリア王女……」
「わー! 本当に王女様だ! すっごく綺麗ー!」
「可憐ですねぇ~」
「なんだ、ガキじゃねぇか。興味ねぇな」
「王女様の前で変なこと言ったらシバくわよ」
「僕が代表して簡単な挨拶をするよ。ガラハットは絶対に黙っててね」
そして、ルナリア王女が周囲を回って挨拶をしていく中ようやくこちらの番が回ってきた。
アーサーさんは丁寧に頭を下げる。
「ウィンターブール帝国より参りました、S級探索者パーティの『
「綿霧のギルドですね。ご足労いただき、誠にありがとうございま――」
ルナリア王女はそう言いかけると、俺を見た瞬間に大きく目を見開いた。
何故だか、少し震えた様子で言葉を失っている。
(……どうしたんだろう? 俺とは初対面のはずだけど……もしかして俺が着てるスーツが似合わなすぎるとか?)
時雨は似合うって言ってくれたし、アクアなんか何枚も写真を撮ってきたが、初めての恰好なので本当は凄くおかしいのかも。
そんな風に不安になってしまう。
「ルナリア様。演説まで時間がありません、お急ぎください」
「――へ? は、はい……そうですね。すみません」
側近の男に急かされると、ルナリア様は最後にアーサーに質問をする。
「あの……『
「彼らは私たちのサポート職員です。信頼の置ける者たちですので、もしご用命がありましたら、彼らの事も御頼りください」
「そ、そうですか……分かりました。では、また後で……」
名残惜しそうに振り返って俺を見ると、ルナリア王女はそのまま奥の扉から行ってしまわれた。
「……俺、何かやっちゃいました?」
王女様にご無礼を働いてしまったのではないかと不安になった俺はシルヴィアさんに尋ねる。
何しろ、俺は片田舎出身でこんな公式な場になんて来たことがない世間知らずのガキだ。
「う~ん、特に何かやらかしたようには見えなかったけど……確かに秋月君をじっと見つめてたわね」
そんなシルヴィアに対して、一方のアクアは何やら焦ったような表情でぶつぶつと言っている。
「ま、まさか王女様も? いやいや、そんなハズないですよね……いえ、でも……もしかしたら……」
「――まぁ、今はそれよりもルナリア王女の護衛クエストだ。演説中、そして夜間のの護衛は僕たちに任されている。演説は正午に行われるから、先に会場に向かっていようか」
――結局謎は解けないまま、ルナリア王女の演説の時間になった。
――――――――――――――
【新年のご挨拶(2024年)】
明けましておめでとうございます!
元旦に本作を読みに来ていただき、誠にありがとうございます!
未熟な作者ですが、皆様の応援を支えに何とか投稿を続けられております!
皆様を楽しませられるように今年も精一杯頑張ります!
何卒、今年もよろしくお願いいたします!
<(_ _)>ペコッ
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