第59話 新たな仲間との出会い

 ――フロスティア王国。

 旧東京とも言われるこの国の玄関口である赤レンガ造りの駅に着くと、時雨は賑わう街を見て瞳を輝かせた。


「すごい、すごーい! 人がいっぱーい!」

「こら、時雨。はしゃぐとまたシャツが外に出ちゃうぞ」

「そんなこと言ってる秋月さんのネクタイが緩んでますよ。ほら、結んであげますからこっちに来てください」


 俺、アクア、時雨の3人は帝国ギルドのスーツを着ていた。

 そして、そんな俺たちの隣にいるアーサー、シルヴィアのS級探索者2人はスーツの上に立派なマントまで着けている。


「うん、君たち良く似合ってるよ。まぁ、僕ほどじゃないけどねっ!」

「い、いいんでしょうか? 俺はまだ帝国ギルドに入ってすらないのにスーツなんか着ちゃって……」

「お兄ちゃん、似合ってるよ!」

「今回のルナリア王女様の護衛は演説中以外の場面も含まれるのよ。お城の中が基本だから当然ちゃんとした格好じゃないと浮いちゃうわ」


 アクアにネクタイを結んでもらうと、俺は気になっていた事を尋ねる。


「そういえば、『無敵艦隊アルマダ』って3人パーティなんですよね? アーサーさんとシルヴィアさんは一緒に来てくれましたが後のお1人は……?」

「あぁ、ガラハットだね」

「アイツなら前乗りしてるわ。恐らく、その辺の飲み屋にでも――」


 シルヴィアがそう言いかけると、飲み屋街の方から酒瓶を片手に持ったオッサンが走ってきた。

 その後ろから頬に傷の入ったスーツの男たちに追われている。


「おらぁ、テメェ! 今日こそは借金返してもらうぞ!」

「くそっ、逃げ足の速ぇ奴だ!」

「あはは! あばよ~!」


 そんな様子を見たシルヴィアは大きなため息を吐いて、魔力を練り始めた。


「任せなさい、そのクズは私がこらしめるわ! 『雷一閃サンダー』!」


 シルヴィアは躊躇することなく、そのオッサンに雷を落とす。

 しかし、オッサンは手に持った酒瓶の底を近くの壁に叩いて割ると自分の頭上から追手のスーツの男たちの方向に向けて一直線になるように中身の酒をぶちまける。

 落ちてきた雷はその酒に触れると、電気の回路となって追手たちの方向へと流れだした。


「こいつ、酒をかけてきた!? ――って、ギャアア!」

「なんだ!? この酒、痺れる……!」


 そして、追手たちは感電してその場で動けなくなった。

 酒瓶から滴る酒をペロリと舐めて、オッサンは愉快そうに笑う。


「ナイスアシスト! シルヴィアちゃん!」

「あ~腹立つ! あんたを狙ったのよ! あんたを! ガラハット!」


 まさか、この胡散臭いオッサンがS級探索者パーティ『無敵艦隊アルマダ』の最後の一人……?

 昼間からかなり酒臭い……。

 しかし、今の身のこなしは流石と言うか……俺は避けるので精いっぱいだったシルヴィアの雷をまさか逆に利用して追手に食らわせるとは。


「――ていうか、シルヴィアちゃん大富豪なんだから俺の借金なんてはした金だろ? 同じパーティのよしみで代わりに払ってくれよ~」

「大富豪だからこそ、お金にはうるさいのよ。貴方にはビタ銭一文も貸しませんわ! ちゃんと借金も返しなさい!」

「え~! でも、あいつら悪徳の金貸しだぜ?」

「なんで、わざわざそんな所からお金を借りるのよ……」


 いつものやり取りなのだろうか。

 アーサーは慣れた様子で大笑いする。


「まぁ、そんなことより。秋月君たちを連れて来たわ」

「おぉ、あんたが噂の! なんだ、まだまだガキんちょじゃねぇか! 身体も細せぇし! ちゃんとメシ食ってるか?」


 俺の肩に腕を回して大笑いするガラハットさん。

 その瞬間、俺の右側頭部に小さく『危機察知』のフィートが働いた。

 しかし、俺がその事に気が付いた瞬間に危機が去る。

 ガラハットさんは俺の肩から手を離すと、大きなため息を吐いた。


「――今のが気づかれるのかよ。アサ坊と言い、またこんな化け物をどっから拾ってきたんだか」


 そう言ったガラハットさんの右手の指先から水鉄砲のようにピューと勢いよく水が出る。

 どうやら、ガラハットさんがこの魔法で俺に不意打ちを仕掛けようとして、それに俺が気が付いたことにさらに気が付いたらしい。


「ちなみにアサ坊とは僕、アーサーのことだよ!」

「それで、どうなのガラハット? 秋月君の評価は?」

「1から10の中で評価するなら11だ」

「どうやら気に入ってくれたようだね」

「ちなみに、酒を飲めりゃ12、金も貸してくれるなら15まで上がるぞ」

「別にこいつのクソ評価なんて要らなかったわね」


 俺と時雨とアクアが呆然としている間にS級たちの間で話が終わる。

 そして、ガラハットさんは改めて挨拶してくれた。


「大魔法使いのガラハット様だ。よろしく、若者わこうど共」

「おじさんも魔法使いなんだ! 私も魔法使いの時雨です! よろしくお願いいたします!」

「お嬢ちゃんも魔法使いか! 良いじゃねぇか、俺様の大魔法を特別に教えてやるぜ?」

「わーい! 教えて教えて!」


 人たらしな時雨はすぐに懐いてしまった。

 シルヴィアは大きなため息を吐く。


「やめといた方が良いわよ。こいつが魔法なんて教えられる訳ないし。多分これまでも雰囲気で発動してるわ。雰囲気でS級になった男よ」

「馬鹿野郎、俺だって魔法くらい教えられるわ。じゃあ、この水を出す大魔法でも教えてやろうか。これは役に立つぞ」

「大魔法と言うにはショボくないかしら」

「で、でも役立ちそうですね! ダンジョンで遭難してしまった時などは水があるかないかで状況が変わりますから!」


 アクアがフォローを入れると、ガラハットは首を横に振る。


「いや、それより二日酔いで動けなくなった時に自分で水が用意できる」

「……時雨には必要ないですねそれ」

「ていうか、二日酔いにならないようにしなさいよ」


 こうして、『無敵艦隊アルマダ』の3人がそろったので俺たちはルナリア様がいるフロスティア王城へと向かった。


 ――――――――――――――

【年末のご挨拶】

 年末のご挨拶をさせていただきます!

 今年の10月から約2か月間、皆様の応援や☆評価に励まされて投稿を続けることができました!

 本当にありがとうございます!

 来年も読者の皆様を楽しませることができるように頑張ります!

 引き続き、応援よろしくお願いいたします!

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