第58話 王女様からのご指名です


「俺たちに新しいクエスト……ですか?」

「うん、それも緊急クエストだ。つい昨日の夜、"フロスティア王国"から依頼が来てね」

「フロスティア王国ですか!? それはまた大都会ですねぇ」


 アクアが驚いたような声を上げる。

 フロスティア王国は『旧東京』とも呼ばれていて、このウィンターブール帝国のさらに内陸側にある国だ。


「あぁ、実はミスト王国の王女――ルナリア・ミスト様が昨日、発見されたらしい。丁度君たちが[封印のダンジョン]の攻略を終えた後の出来事だね」

「ルナリア様が見つかったんですか!? どこで!?」

「それが、自分の足でフロスティア王国まで歩いてやってきたらしい。モンスターがルナリア様に擬態している様子もなく、正真正銘本物のルナリア・ミストで間違いないそうだ」


 自分たちが生きるのに必死で、世界の情勢に全く詳しくない俺と時雨はアクアが綿霧さんと話をしているのをただ聞いていた。

 アクアがそんな俺たちの様子に気が付いて、少し気を利かせ、前情報から確認するように綿霧さんに尋ねてくれる。


「ルナリア王女と言えば、ミスト王国がモンスターの大群に侵略された際に国民全員を魔法で転移したんですよね。たった一人、自分だけがミスト王国に残って」

「うん、それが約2週間前の出来事。ルナリア様もモンスターに食われてしまったと思われていたんだ。だから、今回のことに周辺の国々はとても驚いてるよ」


 時雨はつい口を挟む。


「ミ、ミスト王国はモンスターに奪われてしまったんですか!?」

「そうだよ、でも国民は全員ルナリア様が転移魔法で逃がしたから無事なんだ。今はみんなフロスティアで一時的に保護されている」

「そうなんだ! ルナリア様って凄い王女様なんだね!」

「――ってことは今回のクエストもそれが関係するってことですか?」


 俺の質問に、綿霧さんは腕を組んで答える。


「ご明察、フロスティアでルナリア様が演説をされるらしい。国民を逃がして、自らも生還してみせた英雄だ。ドラマとしての注目度は高いし、フロスティアにとっても自身の恩を売る良い機会だろうね」

「へぇ~、王女様! 見てみたいな~!」


 時雨がすでに目を輝かせている。

 時雨は『王女様』とか『お姫様』みたいな響きには憧れが強いんだよなぁ。


「それで、ルナリア王女直々の依頼で『S級探索者3名』を出すように言われたんだ。ウチからは3人パーティの『無敵艦隊アルマダ』を向かわせる予定だ」

「S級……。あれ? 俺たちは別に要らなくないですか?」

「いいや、君たちが"僕たちの作戦"の肝になる。今回の依頼はルナリア王女の護衛だからさ」

「ますます、俺たちが要らないような……S級の皆様が3名も付いていたらそれこそ無敵じゃないですか」

「僕たちS級探索者は有名人でね。もし、ルナリア王女が襲われたら、敵はS級探索者たちを引き離そうとしてくるだろう。そこに情報の無い君たちがいたら恐らく敵は油断する。顔も知らない君たちをB級以下の弱い探索者だと思い込むだろうね。時雨ちゃんに至ってはまだ子供だし」

「……待ってください。それってまるで……綿霧さんの言う『敵』がモンスターじゃなくて『人間』みたいに――」


「今回、依頼されたクエストはキナ臭い。僕の勘がそう言っている」


 アーサーが口を挟むと、シルヴィアはため息を吐いた。


「よく当たるのよ、コイツの勘。ていうか、多分何らかの特性フィートだと思うんだけど」

「昨日、人の言葉を話すモンスターを見ただろう? あのような高位種のモンスターを僕たちは『魔族まぞく』と呼んでいるんだ。人間に擬態されたら判別は難しい。本当に人間と手を組んでる可能性もあるしね」


 魔族……そうか。

 そういえば、俺が異世界で最後に相手をしたモンスターも人間に近い姿をしていた。


「でも、ルナリア様ってどうして狙われちゃうんですか? やっぱり王女様だからさらわれちゃうの?」


 王女やお姫様はさらわれるのが仕事だと勘違いしている時雨に、綿霧さんが答える。


「ルナリア王女の『転移魔法』は各国が喉から手が出る程に欲してる。モンスター側からしても一度してやられた訳だし、どうしても倒しておきたい相手だろう」

「小さい国とはいえ、国民全員を避難させた大魔法。あらゆる国がルナリア様を手にしようと動いてるわ」

「そんな……酷い。王女様を物みたいに」

「うん、だから僕たちは確実に守りたいんだ。その為に君たち3人には一緒に来て欲しい」


 綿霧さんの話に、アクアがそろ~りと手を挙げた。


「あの~、秋月君と時雨ちゃんは敵も知らないから油断させたところを返り討ちにできるかもしれませんが。私の事はもしかしたら敵も知っているかもしれませんよ? 一応、アイドルなので」

「いいや、むしろアクアさんが居る方が敵に油断を誘える。この理由についてはクエストを引き受けてくれたら教えるよ」


 そう言うと、綿霧さんは少し悔しそうな表情をする。


「……実は、ルナリアは幼い頃からの僕の友達なんだ。そんな彼女だから僕を指名してこの依頼を寄こしたんだと思う。本当は僕が行けたら良かったんだけど……ギルド長として、急にここを離れる訳にはいかないんだ」


 アーサーとシルヴィアは綿霧さんの両脇に立つ。


「でも、僕にはこんなに頼りになる仲間がいるから。君たちを向かわせれば心配ないって確信してるよ」


 そして、綿霧さんは俺とアクアと時雨を見て、微笑んだ。


「『ルナリア王女の護衛』このクエストを受けてくれるかい?」


「お兄ちゃん! 王女様、守ってあげようよ!」

「私はいつでも秋月さんについていきますよ!」


 すでにやる気マンマンの時雨とアクアの顔を見て、俺は頷いた。


       ◇◇◇


 魔道列車で1時間後。


「――着いたね」

「凄ーい! 大きな街!」


 国境を抜けた俺たちはアーサー、シルヴィアと共にフロスティア王国に入国した。


 ――――――――――――――

【謝罪&感謝】

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 皆様の温かいコメントにとても励まされました!

 また、☆評価を入れて応援してくださった読者様、大変助かります!

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 出来れば、このまま年末年始も皆様を楽しませることができるように頑張ります!

 引き続き、よろしくお願いします!

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