第57話 メデューサを倒す方法

「――凄いねこれは、君の剣技にカメラのfpsが全く追いついてない。もっと高性能なハイスピードカメラが必要だ」

「レベルが上がったことで私と戦っていた時よりさらに剣が速くなってるわね」

「凄いね、最後の連撃。しかもこれ、スキルじゃないんだね……正直、ちょっと意味が分からないかな。初めてのタイプだよ」


 帝国ギルドの応接室。

 俺が[封印のダンジョン]を攻略している動画を見て、アーサー、シルヴィア、綿霧さんはそれぞれ感想を述べる。


「――それにしても、手に入ったお宝がまさか何の変哲もない剣とはね」

「大商人である私の『目利き』スキルでも"鉄の剣"としか出てきませんでしたわ」

「普通なら絶望するけど、秋月君にとっては壊れない頑丈な剣だから上手く嚙み合ったみたいだ」

「何で壊れないのかしら? 不思議よねー」


 ここで「これ、俺の剣なんすよwww」なんて言うと一気に信頼を失いそうだ。

 俺は大人しく黙っていることにした。


「もう一つ不思議なのは、宝箱を開けた瞬間の映像だね」


 アーサーはそう言うと、動画をそのシーンで止める。


「光の弾のようなモノがいくつも飛び出して行って、ダンジョンの壁に触れた瞬間消えている」

「え? これって演出みたいな奴じゃないんですか?」

「違うわ、こんなの見たことない」

「壁にぶつかった瞬間に消えたんじゃなくて、すり抜けて行ったんじゃないかな?」

「うーん、どちらにせよ分からないわね……何かしらこれ」


 全員で腕を組んで考えても答えは出ず、綿霧さんは提案する。


「丁度良い機会だし、アーサー。君もこの前ダンジョンを攻略しただろう? きっと秋月君たちも参考になるだろうし、その時の動画を見せて報告してくれよ」

「あぁ、そうだね。そういえばまだ報告してなかった」

「確か、『攻略に行った冒険者が一人も帰ってこないダンジョン』だったのよね? よくそんな所に一人ソロで行ったわね」

「僕の場合、一人の方が誰も巻き込まないで全力を出せることがあるからね。それに、もし敵が強すぎてダンジョンから逃げることになってもやっぱり僕一人の方が都合が良い」


 そう言いながら、アーサーさんは動画を準備する。


「……ダンジョンボスの正体は『メデューサ』だったよ」


 アーサーがそう言うと、シルヴィアと綿霧は驚愕する。


「『メデューサ』って……かなりヤバいモンスターじゃない!」

「あぁ、やっぱりパンドラだった。我ながらよく勝てたモンだ」

「アーサー、映像を見せてくれる? もしかしたら、S級探索者全員で共有した方が良いくらい貴重な映像かもしれない」


 そうして、俺たちはアーサーがメデューサを討伐する様子を映像で見た。

 周囲には石化して敗北した数多の探索者たち。

 アーサーはその中で一人だけ一切石化せずにメデューサの猛攻を全て防ぎきって必殺の一撃を決めていた。

 俺が倒した四刀鬼はD級ダンジョンに出てきた異世界の魔物パンドラだ。

 そして、このメデューサはそれより遥かに強い。

 恐らくD級以上のダンジョンだろう。


「……残念ながら、生きている探索者は居なかったよ」

「こんなの、一人で討伐できただけで上出来よ」

「メデューサは直接目を見るだけで石化状態になってしまう。しかも、攻撃に使ってくる無数の蛇の目を見てもアウトだ。アーサー、君は何の前情報も無しにどうやって無事で居られたんだい? 完全な初見殺しだと思うんだけど」


 綿霧の質問に、アーサーは自信満々で答える。


「ふふふ、メデューサ……彼女には大きな弱点があったのさ。それは『身体の作り』だ」

「身体の作り……? 別に私たちと変わらない人型じゃない」

「そうだね、女性の身体をしている以外は特に変わったところは見られないけど?」

「そうだ、僕たちとそう変わらない……それが災いした。僕は戦闘中彼女の"揺れる胸"しか見てなかった。だから石化を逃れたのさ。後から映像を見て『あっ、メデューサだったんだ』と思ったよ。ちなみに動画も5週目くらいでようやく顔を見て気が付いた」


「「…………」」


 あまりのくだらなさに全員言葉を失う。


「まさかメデューサもこんなセクハラ野郎が来るなんて想定してなかったでしょうね……」

「なんか、メデューサの方が可哀そうに思えてきたよ」

「動画のメデューサ、よく見ると凄い焦ってるわ。なんかちょっと泣きそうだもんね」

「因みにこの後の動画は僕が変な形の石を探してダンジョンを彷徨うんだけど、良かったら見てみて――」

「消して、今すぐ。ていうか、何でナレーションまで入れてるのよ。誰も興味ないわよ」

「ごめん秋月君。アーサーのじゃ何の参考にもならなかったね」


 いや、でもそれで実際に勝ってるワケだし。

 やっぱりある意味天才だな、この人。

 そんな風に思ったところで俺とアーサーのクエスト達成報告は終わった。


「――さて、終わってすぐで悪いけれど。秋月君たちの腕を見込んでまたお願いしたいクエストがあるんだ。いいかな?」


 綿霧さんはそう言って、にっこりと微笑んだ。

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