第54話 モンスター娘は好きですか?
「うん……? 朝か……?」
目を覚ますと、俺はアクアの家のソファーに座っていた。
そうだ、昨日はダンジョン制覇を祝って3人でおめでとうパーティを開いて――
多分、疲れてそのまま寝ちゃったんだ。
「う~ん……」
寝言が聞こえたので見てみると、時雨が俺の胸元に抱き着いたまま眠っていた。
「お兄ちゃん……ありがとう……」
そんな寝言を繰り返しながら幸せそうな表情をしている。
ダンジョン探索は凄く危険だった。
でもきっと安全なところに居るよりも、時雨は俺と一緒に探索できることが何よりも嬉しいんだろう。
生きるってことは呼吸をすることだけじゃなくて思い出を作ることも含まれているから。
「時雨、これからもよろしくな」
「えへへ……」
右腕で頭を撫でてやると時雨はだらしない表情で笑う。
そして、左腕にはなにやら柔らかい感触を感じたので見てみるとアクアが絡みつくように抱き着いて寝ていた。
そして、こちらも寝言を言う。
「むにゃむにゃ……秋月さん……それは、靴ですから食べちゃダメです……」
アクアの夢の中の俺、だいぶ馬鹿だな。
◇◇◇
みんなが目を覚ますと、昨日のパーティの残りのケーキを朝食に食べながら、俺はアクアに尋ねる。
「アクア、何で羽生えてたの?」
「――うっ!? ゲホッ! ケホッ!」
「アクアさん!? 大丈夫!?」
俺が質問するとアクアは盛大にケーキを喉に詰まらせた。
時雨がミルクティーを手渡すと一気に飲み干して何とか事なきを得る。
そして、緊張した面持ちで質問した俺を見つめる。
「ど、どうしても知りたいですか……?」
「いや、無理にとは言わないけれど……」
とはいえ、これから先『何か知らないけどアクアからは羽が出る』という雰囲気で自分を納得させられる自信がない。
それともう一つ俺の中には不純な想いがあって……
(できるなら、あの羽とか凄く触ってみたい)
何かモフモフしてたし、絶対に肌触りが良い。
モンスターは倒したら消えてしまうし、触ることなんてできないから。
時雨も多分それを期待してるのだろう、ワクワクした表情を隠しきれていない。
「う~ん……いや、これは逆にチャンスかもしれませんね。秋月さんに変な性癖を植え付ければ私でしか満足できなくなりますし……」
アクアは小声でブツブツと何か独り言を言いながら悩み始めた。
そして、恐る恐る俺に質問する。
「あの……私のことを嫌いになったりしないですよね?」
「うん、俺はどんなアクアでも好きだから。大丈夫だよ」
「私も! アクアさんに羽が生えてても大好き! むしろ、生えてる分お得だよね!」
時雨の謎の価値観に背中を押されたのか、アクアの表情から迷いがなくなる。
「分かりました、ではお教えします。誰にもお話していない私の能力を……」
そうして、アクアはもう一つの
「――なるほど、つまりアクアは今までに特性を奪ったモンスターの身体になることもできるんだね」
「完全には無理だったりしますが、部分的になったりすることはできますよ。この翼はあの鳥から奪いました」
アクアが『スモークバード』の物だった白い綺麗な羽を広げると、時雨はすぐに瞳を輝かせた。
シルヴィアが『
かなり応用の幅が広そうだ。
「他には何になれるの?」
「う~ん……分かりました。まずは"初心者向け"からお見せしますね」
"初心者向け"の意味は分からないが、アクアは身体を変化させてくれた。
アクアの身体にケモ耳が生えて、フリフリとした尻尾も生える。
「これがウルフの
「うわー! 可愛い! 触っても良い!?」
「はいもちろんです!」
「耳も尻尾もモフモフ~!」
「し、尻尾は優しくお願いしますっ! 敏感なので!」
一通り時雨にモフられるとアクアは元の状態に戻った。
「では、次は中級者向けです……」
今度は、アクアの身体がみるみる透けてプルプルとした青いゼリーになる。
「じゃ~ん! これがスライムになった可愛い僕です!」
「なんかキャラまで変わってない?」
「凄い! さ、触っても良い!?」
「あっ、はい。どうぞ~」
「うわー暖かい! 体温はアクアさんのままなんだね! プルプル~!」
「あまり強く抱きしめると、私の身体の中に入っちゃいますから気を付けてくださいね。
時雨が凄く羨ましいが、俺が触ったらなんかセクハラになりそうで怖い。
アクアがこの特性、『スライムボディ』について解説してくれた。
「この
アクアは少し恥ずかしそうに元の身体に戻る。
しかし時雨はますます興奮しながら瞳を輝かせていく。
「も、もっと! もっと見せて!」
「えっと、これ以上は好みが分かれるといいますか……秋月さん、大丈夫ですか? 引いてません?」
「引いてないよ! どれも凄く強そうだし、頼もしいよ!」
正直、さっきから色んな姿のアクアの破壊力に身動きが取れずにいる。
これらの姿で配信でもした日には、どんなアイドルも歯が立たなくなるだろう。
なにせ本物のモンスター娘である。
「じゃ、じゃあ……最後に……これは上級者向けですが……」
そういうと、アクアのスカートから触手が出てきた。
「オクトパスです……これは、触手を自由に動かせます」
時雨は今日一番瞳を輝かせる。
「うわぁー! 凄い! ぷにぷに! 暖かい! なにこれなにこれー!」
「こうやって巻き付けたりできます」
「あははは! ニュルニュルして気持ち良い! 拘束されちゃったー!」
楽し気に触手に絡まれる我が妹を見る。
時雨、そこ代われ。
「秋月さんも触って良いですよ?」
「え!? 良いの!?」
「い、嫌じゃなければ……ですが」
「嫌なはずないよ!」
俺は力強く首を横に振る。
本人が良いと言ってるんだからぜひとも触らせてもらおう。
――触手は確かにぷにぷにでアクアの体温を感じる。
しかし、アクアのスカートから出ている身体の部位に触るという行為に若干の抵抗が……。
「アクア的にはどんな感じなの?」
「えっと、感覚的には秋月さんに太ももを撫でられている感じですね」
「えっ、ご、ごめんっ!」
「いえいえ、代わりに後で秋月さんのを触らせてもらいますので」
「……それで良いの?」
そんなこんなで、アクアの柔らかい触手を堪能させてもらった。
◇◇◇
アクアへの疑問も解決したところで、俺は出かける準備を整えた。
「ちょっと行くところがあるんだ。帝国ギルドに行くのはその後でも良い?」
「はい、良いですよ! お気をつけて!」
「ありがとう、時雨をよろしくね」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃーい!」
2人に見送られながら俺が一人で向かったのは――
(えっと、ここだよね……やっぱり立派なお屋敷だなぁ)
エレノアの家だった。
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