第53話 無自覚に無双する


 アーサーの剣技がモンスターに炸裂する。


「よし、やったか!?」

「それ禁句!」


 シルヴィアがアーサーに突っ込みを入れていると、死に体のモンスターは呟く。


「せめて……ミチヅレ、ニ――!」


 モンスターは『死後の呪いラスト・スペル』を発動した。

 自爆すると共に無数の剣となって離れた距離にいる俺と時雨とアクアに向かって一直線に飛んでくる。


「しまった!」

「速い!」

「秋月君っ!」


 あえて遠くにいる俺たちを狙ってきた。

 この中で俺たちが一番弱いと見切りをつけてきたんだろう。

 確かに俺はS級の皆さんには遠く及ばない。

 けど……俺だって大事なモノくらいは守れる。


「時雨、アクア。大丈夫だから動かないで」

「うん!」

「はい!」


 周囲から大量の剣が迫って来ているにも関わらず2人は全く狼狽えることなく俺に笑顔で返事をする。

 そういえば、マグマに追われて俺が『天井を目指す』って言った時も2人は信じてくれたんだよな。

 普通に考えれば自殺行為なのに、アクアは俺の言葉を疑わずに上を目指した。


(そこまで信頼されているなら俺も精一杯やらなきゃな……)


 俺は剣を腰に収めて瞳を閉じる。

 こうすることで、逆に見えてくるようになるモノがある。

 俺は居合の姿勢を取った。


 ――キィン


 俺が剣を一振りすると、周囲の剣は霧になって消える。

 ……上手くいったみたいだ。

 この剣を全て破壊したとしても、それで動かなくなる保証はない。

 逆に鋭い破片となって俺たちを襲うかもしれない。

 だから俺は自分の心眼を使った。

 マグマが襲って来たときはそんな余裕は無かったけど、この飛んでくる剣くらいならいける。

 俺はこの中にある『死後の呪いラスト・スペル』、それ自体を見切って断ち斬った。


「流石は秋月さんです! 剣が消えちゃいました!」

「お兄ちゃん、ありがとー!」


 時雨とアクアはお礼を言ってキャッキャと喜んでくれた。

 しかし、S級探索者3人の様子がおかしい。

 まだ少し警戒する様子で俺の方を見ている。


「も、もしかしてまだ敵が居ますかっ!?」


 俺が周囲をキョロキョロと見回すと、シルヴィアが尋ねてきた。


「『死後の呪いラスト・スペル』はどうなったの? 君が剣を一振りしたのは見えたけど」

「あっ、はい! それで斬りました! 剣を壊しても『死後の呪いラスト・スペル』が止まってくれるか分からなかったので!」


 シルヴィアさんは少し困惑した様子で語る。


「『死後の呪いラスト・スペル』は基本的に乗り移った物質がその姿を保てなくなったら無くなるわ。マグマも地表に出て来て溶岩になった瞬間に消えたでしょ?」

「そ、そうだったんですか!?」

「えぇ、だからてっきり君が全部の剣を破壊するのかと思って任せたんだけど、一振で全部消えちゃったから……」

「すみません、知らなくて……」


 どうやら今までの俺のやり方は間違っていたらしい。

 俺は恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、頭をかきながら笑って誤魔化した。


 ――アーサー SIDE――


 僕と綿霧ちゃんは秋月君たちのもとへと歩いて戻る。

 ちなみに、綿霧ちゃんはスライムを召喚してクッションにしていたのであの高さから落ちても平気だ。

 僕もスライムになって綿霧ちゃんのお尻に敷かれたい……。

 なんて思ったがそれよりも秋月君に聞かなければならないことがあった。


「秋月君、君は『死後の呪いラスト・スペル』を直接斬ったのか?」

「はい、すみません。壊せば良いって知らなくて……皆さんが困惑していたのはそのせいだったんですね」

「……本当みたいね」

「は、初めて見たね。そんな対処方法」


 シルヴィアも綿霧ちゃんもびっくりしている。

 当然だ。


(秋月君……君はとんでもない事をやっているんだよ?)

 

 ――『死後の呪いラスト・スペル』。

 モンスターが自分の命と引き換えに発動できる技だ。

 実在する何らかの物質の形を取り、探索者を道連れにしようとする。

 つまり、モンスターの執念や未練、呪いがその物質の中に入り込んでいるわけだ。


(秋月君はそれを斬った。しかも、物質を壊さずに『中身のみ』を)


 例えるなら『剣でラムネ瓶の中のビー玉だけ斬った』みたいな芸当だ。

 まるで大剣豪の逸話いつわ

 数百年後におとぎ話として世に残るようなことを君は無自覚にやってみせたんだ。


(とはいえ、これくらいで驚いていたらこれから身が持たないかもしれないな……彼の潜在能力は底知れない)


 僕は秋月君にアドバイスだけしておいた。


「『死後の呪いラスト・スペル』はモンスターの未練だ。君がそれを斬れるなら断ち斬ってあげた方が良いだろうね」

「そ、そうなんですか? 確かに、俺がこれでトドメを刺すとたまに頭の中に感謝の声が聞こえるんですよね。気のせいだと思っていたんですが」

「それがモンスターの気持ちだろうね。きっと、次は良い奴として生まれ変わってくれるはずさ」

「じゃあ、できるだけこの方法でやりますね!」


 そして、僕はS級探索者を代表して彼を称える。


「それにしても秋月君、君は凄いよ」

「そ、そこまでおだててくれなくても良いですよ! それにS級の皆さんの方がずっと凄いですし――」

「いいや、本当に凄いよ。それだけの剣の腕前があって、『我慢』できるなんて……」

「我慢?」

「あぁ、君だったらここに居る女性たちの服を一瞬で斬って素っ裸にすることも出来るだろう。それを我慢できるなんて……本当に凄いよ!」


 僕が最大限の称賛を送ると、何やら周囲が沈黙する。

 そして、綿霧ちゃんとシルヴィアが僕の肩をガシッと掴んだ。


「君たち? どうしたんだ、そんなに怖い顔をして……」

「アーサー、まだ反省文を書き足りないのかな?」

「アンタを素っ裸でここに置いて行こうかしら」


 ……ミスった。

 本人たちの前で言う話じゃなかった。

 いや、でももし僕が剣豪になったら第一にやりたいことだったから……。

 それで、「またつまらぬ物を斬ってしまった」って言いたかったから。

 アクアさんは僕にコソコソと話す。


「ア、アーサーさん……今のはダメですよ。秋月さんにだったら私は良いんですけど……」

「あっはっはっ、お恥ずかしい! 穴があったら入りたいよ!」


 そして、武器を構えたS級2人に僕は詰め寄られる。


「アーサー、アクアさんから離れて」

「アンタ、本当に一度根性を叩きなおさないとダメね」

「ゆ、許してくれ……出来心なんだ」


 綿霧ちゃんとシルヴィアにジリジリと追い詰められながら後退していくと、僕の足が空をきった。


「「――あっ」」


 6人の声が重なる。

 みんなの驚く顔がスローモーションに見える。

 あぁ、そういえばここには大きな穴があったんだ。

 [封印のダンジョン]という縦穴が……。


「わぁぁ~! 落ちる!」

「良かったわね、穴に入れて」

「アーサー、自分で登ってきてね。僕たち帰ってるから」


 2人のS級探索者の血も涙もない言葉を最後に落下する……。

 秋月君とアクアさんは僕を助けようとしてくれるだろうけど、きっとあの2人に止められるだろう。


「……死ぬかと思った」


 僕がこの穴から這い出てこれたのはカラスが鳴く夕暮れ時だった。

 もちろん、周囲にはすでに誰も居なかった。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

物語は次の章へと進みます!

引き続き、お楽しみください!


【作品紹介】

完結済みの短編コメディ作品です、クスッと笑いたい方はぜひ読みに来てください!

    ↓

『クラスの地味な佐藤さんが実は可愛いことを俺だけが知っている』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654434285280

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