第50話 ダンジョンで無双する

 俺は道中のモンスターを倒しながら、時雨と一緒にダンジョンの奥へと進む。

 アクアはきっと大丈夫。

 俺の使命はそれを信じて早くボスを倒し、脱出口を見つけることだ。


「時雨、大丈夫か?」

「うん! お兄ちゃんがモンスターを全部倒してくれてるから!」


(心なしか、更に酸素が薄くなってきた気がする……! 急げ!)


 そして、ダンジョンの奥でついには姿を現した。


 巨大な空間に音もなく鎮座していたのは、全長20メートルほどの巨大なドラゴンだった。

 硬質な岩の鱗がダンジョン内の魔石の光を反射して煌めいている

 ドラゴンは俺たちを見つけると激しく咆哮した。

 ダンジョンが揺れ、俺と時雨は思わず耳を塞ぐ。


(コイツは間違いなく強敵だな……!)


 ドラゴンの背後には台座があり、その上に宝箱が置かれていた。

 こいつがボス……そして、宝を守る守護者ガーディアンだ。


(『鑑定』……!)


『アースドラゴン』

(……詳細不明)


 残念ながら、名前以外は分からない。


「時雨は下がってろ、まずは俺がいく」

「うん!」


 恐らく、時雨の『小火球魔法ファイア』じゃダメージが入らないだろう。

 アースドラゴンの表皮は岩のように堅そうだ、一点にダメージを集中させた斬撃の方が有効だ。

 先手必勝、俺はアースドラゴンへ向かって疾走し、スキルを発動する。


(まずは一本目、これで倒れてくれりゃ楽だが……!)


「『スラッシュ』!」


 俺はアースドラゴンの腹に斬撃を与える。


「ガァァァ!?」


(よし、ダメージは入った! でも堅ぇぇぇ!)


 俺の斬撃は巨大なアースドラゴンの腹に一筋の傷を作るにとどまった。

 その代償に鉄の剣はスキルの威力に耐え切れず破壊される。

 恐らく、アースドラゴンからみたら蟻んこみたいな俺にダメージは与えられないと油断していたのだろう。

 俺の攻撃に激怒したアースドラゴンは回転しながら尻尾で薙ぎ払いを行った。


「時雨! 俺の後ろに!」

「うん!」


 新しい剣をインベントリから出して俺は向かってくる尻尾を冷静にパリイで上に弾き飛ばして回避する。

 そして、その隙に2発目の斬撃を背中に叩き込んだ。


「『スラッシュ』!」

「ガァァァ!」


 鉄の剣が砕ける。

 これで残りの剣の数は19本。

 いけるか……!?


「グギャ!」


 アースドラゴンは今度はボディプレスを仕掛けてきた。

 尻尾の重さが足りないせいで、薙ぎ払いは俺に弾かれてしまった。

 だから、俺たち2人を確実につぶせる方法を取ってきたんだろう。

 確かにこんなのパリイじゃ無理だ。

 岩壁のようなアースドラゴンの圧倒的質量が上から迫る。


「時雨! 今だ!」

「う、うん!」


 俺は時雨とあらかじめサインを決めておいた。

 俺がお願いしたら、時雨はを使う……と。


「頑張って、クマリン!」


『クマリン』

(任せろ)


 時雨が放り投げたクマリンは上から落ちてくるアースドラゴンの胸部に向けて腕を引き、スキルを発動する。


あクマの一撃デビル・スマッシュ


 ――ドォォン!!


「ギャォォォ!?」


 そして、轟音と共にアースドラゴンを殴り飛ばした。

 クマリンのアッパーで倒れ込むはずだったアースドラゴンの身体は元に位置に戻される。

 そして、胸部はクマリンのパンチの衝撃で抉れていた。


『クマリン』

(魔力切れだ)


「よくやった! 後は任せろ!」


 落ちてくるクマリンを時雨がキャッチしている間に俺はアースドラゴンを仕留める為に疾走する。

 ――しかし、とんでもない光景を目にした。


(俺が最初に斬った腹の傷が無くなってる……!)


 そして、クマリンのパンチによって抉ったアースドラゴンの胸の傷もみるみるうちに再生していく。

 最悪の事態だ。


(こいつ、回復能力があるのか!? しかも、とんでもない速さだ!)


 これを見て、俺は作戦変えた。

 恐らく、今の俺の武器だけじゃアースドラゴンは倒しきれない。


(アイツが守ってる宝箱の中身に賭ける!)


 俺はアースドラゴンの背後にある宝箱へ向けて疾走した。

 綿霧さんの勘が正しければ伝説級レジェンドクラスのアイテムが入っているはずだ。

 それで何とかコイツを倒す。

 クマリンの攻撃を受けて、軽く麻痺していたアースドラゴン。

 しかし、俺が宝箱を狙っていることに気が付き、宝箱に行かせないように巨大な腕で俺を薙ぎ払おうと進路を遮る。


(この腕を超えれば、俺は宝箱にたどり着ける……!)


 インベントリから1本1本、剣を出しながらスキルを使っても超回復のスキを与えてしまう。

 俺は走りながらインベントリに存在する残りの19本の剣をその腕へ向かって投げた。


(一気にこの腕を――突破する!)


「ギャア!」

「いくぜ、岩トカゲ!」


 先ほど投げた剣が全て集まっている空中の中心へ向けて、俺は跳躍する。

 目の前には巨大なアースドラゴンの腕。

 周囲には19本の剣が浮いている状態だ。

 俺はその中から2本の剣を両手で掴む。

 そして深く息を吸うと――スキルを発動した。


「『ダブルスラッシュ』!」


 両手に掴んだ剣で『スラッシュ』を同時に行う。

 剣はスキルの発動に耐えられずに壊れ、俺はまたすぐに次の2本を空中から掴み取り『ダブルスラッシュ』を発動する。

 アースドラゴンが悲鳴を上げる隙も無いほどの高速剣舞ソード・ダンス

 俺はこの腕を突破する為に残りの剣も全てスキルに消費する。


「うぉぉぉぉ!」


 刹那の間に合計9回のスキル発動。

 魔石の光に当てられてキラキラと周囲を舞う18本の剣の残骸の中で俺は最後の1本を手に掴んだ。

 エレノアから貰った剣だ。


(この剣だけは、発動できるはずだ……! エレノア、せっかくくれたのにごめん!)


 回復する時間を与えられず、ズタズタに斬り裂かれたアースドラゴンの腕に向けて俺は最後の一撃を与えた。


「『ハイスラッシュ』!」


 『スラッシュ』の1段階上のスキル。

 他の剣だとスキルが当たる前に剣が砕けてしまうので使えなかった。

 しかし、エレノアがくれたこの剣なら――!


 ――ズパァン!


 ついに、アースドラゴンの腕を断ち斬った。

 役目を果たしたエレノアの剣は砕けて他の剣の残骸と共に散っていく。


(ありがとう……!)


 アースドラゴンによる妨害を突破した俺は宝箱のある台座の上に着地した。


「ギャァァォォォ!!」


 腕を斬り落とされたアースドラゴンは絶叫している。

 今のうちだ!


「頼む、何か良い物であってくれよ!」


 俺が宝箱を開くと、中から光の弾のようなモノがいくつも飛び出した。

 それらはダンジョンの壁に当たって消える。

 そして、肝心の宝箱の中身は……


(これは……!)


 宝箱の中に入っていたのは何の変哲もない、ただの鉄の剣だった。

 しかも、ずいぶんと使い古されているかのように汚れている。

 ……しかし、俺はこれが今最も"必要な物"だと気が付いた。

 だってこれは――


「ギャォォォ!!」


 すでに腕を回復させたアースドラゴンが鋭い爪で俺に襲い掛かる。

 俺は宝箱に入っていた剣を握ると、スキルを発動させた。


「……『スラッシュ』」


 ――ザンッ!


 アースドラゴンの腕が一撃で斬り落とされる。

 今までの『スラッシュ』とは比べ物にならない威力。

 俺はこの剣に鑑定スキルを発動する。


『英雄の剣』:異世界を救った英雄の剣。

(元は無名な鉄の剣――異世界を救った英雄が数多の戦場で使用し、活躍したことで語り継がれて伝説の剣へと進化した。その英雄の信念同様、この剣も決して折れることはない)


「……やっぱり、俺の剣だ」

「ギャオオオ!」


 再び腕を失って絶叫しているアースドラゴンの心臓部に向けて、俺はさらに剣を振るった。


「『ハイスラッシュ』!」


 ――ズバァァン!


 確実に心臓を切り裂いた……。

 だが、アースドラゴンの傷は再び凄い速度で塞がっていく。


(心臓も回復できるのか……)


 しかし、自分の剣を取り戻した俺にとってこのアースドラゴンはもう恐れる対象ではなくなっていた。

 全力で剣を振るうことができる。

 もう、加減をせずに剣技を出しても問題はない。


「悪いが、少し剣の練習に付き合ってくれ」


 心を剣と通わせると、俺は異世界で使っていた連撃技をアースドラゴンに向けて放った。


(三の型、『花鳥風月かちょうふうげつ』)


 ――キィン。


 一瞬の内に技を出し終えると、俺は剣を腰に納める。


「――お前は今、8回死んだよ」

「ガ……ガガガ……」


 回復にも限界がある。

 恐らく、このモンスターの場合はダンジョンの魔石をエネルギーとして吸収していたのだろう。

 それが尽きるまで攻撃を与えることで、俺はこいつを討伐した。

 アースドラゴンは透明になって消滅する。

 そして、いくつかのドロップアイテムに変化した。


「や、やったー! 倒したー!」


 クマリンを抱きかかえたまま、時雨は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。

 動力をほとんど失ったクマリンも、俺に向けて親指を突き立てるように手を挙げていた。

 こうして俺は自分の剣を取り戻し――


 [封印のダンジョン]のボス――『アースドラゴン』を討伐した。


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