第49話 最凶ダンジョンVS最強パーティ


「……これか、1000程度の魔力が必要だっていう魔法の結界は」


 ダンジョンに入ってすぐの場所に透明な結界が張ってあり、先に行く為の道がふさがれていた。

 まだ入り口近くなので、俺たちを見送っている綿霧さんもシルヴィアさんもバッチリと見えている。


「時雨、これ開けられそうか?」

「うん、魔力を注げばいいだけみたい。私のMPはけっこう減っちゃうけど……」

「頑張ってください、時雨ちゃん!」


 アクアが後ろで応援する中、時雨は結界に手を当てて魔力を注ぐ。

 やがて、時雨の魔力を受けた壁は粉々に砕けて崩壊した。


「やりましたねっ! 時雨ちゃん!」

「うん! ――あれ?」

「お、おい! 何か床が揺れてないか?」


 その直後、ダンジョン全体が激しく揺れる。

 外にいる綿霧とシルヴィアが俺たちに指示を出した。


「みんな! 一旦、外に出て!」

「そ、そんなこと言われても! 揺れすぎて、動けないですよ!」

「ダンジョンが沈み始めてるわ!」

「みんな! とりあえず伏せろ!」

「あわわわわ!」


 ――ズズズズズ


 数分後、揺れは収まった。

 お互いの様子を確認するが、3人共に怪我はなさそうだ。

 ただ――


「入口、無くなっちゃいましたね……」

「あぁ、今の俺たちにとっては唯一の"出口"だったんだけど」

「ど、どうして~!?」


 少し考えると、俺は仮説を立てた。


「揺れている時、シルヴィアさんは『ダンジョンが沈み始めてる』と言っていた。外から見たらそういう状況だったんじゃないかな」

「――ってことは、もしかしてダンジョン自体が地中深くに潜ったってことですか?」

「多分……そうだと思う」

「ダ、ダンジョンさんって生きてるの……? すみませーん、出してくださーい!」


 時雨がお願いしてもダンジョンはこれ以上動こうとしなかった。

 しかし幸い、ダンジョンの内部は壁からむき出しの魔石が発光しているおかげで明るい。

 そして、次の洗礼はすぐにやってきた。


「お2人とも! 前方からモンスターの群れの気配がします!」

「よし、戦闘準備だ!」


 アクアの言う通り、目の前から大量の鳥の魔物が飛んできた。

 俺は鑑定スキルを発動する。

『オウルバット』……ランク的には恐らくC程度。

これなら時雨の魔法で一掃できそうだ。


「時雨!」

「うん! お兄ちゃん、まずは私が魔法を打ち込むね! 『小火球魔法ファイア』!」


 『小火球魔法ファイア』という名前には似つかわしくない巨大な火炎が何発もオウルバットたちを打ち落としていく。

 よしよし、この調子で……いや待て。


「時雨、ストップ! 火の魔法は撃つな」

「えっ!? ど、どうして!?」

「時雨、MPにまだ余裕はあるよな?」

「うん! でもなぜか4発目位から火の玉が小さくなっちゃったけど……」


 俺は異世界の様々な環境で戦ってきた。

 いつでも万全の状態で戦える訳じゃない、自分の身体のパフォーマンスに関係する事に関しては人一倍敏感だ

 だから、分かる。

 俺の身体が訴えている。

 確実に"不足"していると……!


「"酸素"だ! 空気中の酸素の量が少ない! このダンジョン、地下に埋められて密室にされてる! 火を出すとダンジョン内の酸素を消費しちまう!」

「た、確かに息苦しくなってきた気がします! ダンジョンギミックで、だんだん酸素を減らされているんですか!?」

「えぇ!? 酸素がないと死んじゃうよ!?」

「つまり、制限時間付きのクエストになったってことだ! 酸素が無くなる前にボスを倒して脱出だ! 出口を探して急いで先に進むぞ! 俺が斬りこむから、アクアは残りの敵を頼む!」

「任せてください! 初めての共同作業ですね!」


 俺はエレノアの剣を温存し、残り20本あるうちの1本の鉄の剣を使って前方から現れるモンスター達を倒していった。

 『オウルバット』、『グルームファング』、『キラーインセクト』……

 Cランクの多彩なモンスターたちが俺たち3人の行く手を阻むように襲い掛かってくる。


「えいっ! そらっ! てやっ!」


 モンスターが群れで現れる度に俺は『鑑定』を使い一番強いモンスターやリーダー格のモンスターを見極めて討伐する。

 アクアは時雨を守りながら残りの雑魚敵を自慢の早業で仕留めていってくれた。


(よし、俺が『スキル』を使う必要もない強さの敵だけだ! このままボスまでSPスキルポイントを温存できるぞ!)


 進みながらそんなことを思った瞬間、前方から急に濃い煙幕が流れ込んできた。

 俺がその姿を確認する前に、何らかのモンスターがスキルを使ったのだろう。


(くそっ、視界が! 風で蹴散らせ!)


 俺は剣の持ち手を90度握り替えてスキルを発動した。


「『スラッシュ』!」


 俺の一振りで風を巻き起こすと、煙幕が霧散する。

 直接の攻撃には使っていないので鉄の剣は俺のスキルに何とか耐えてくれた。

 煙幕が晴れて目に映ったのは、時雨が今まさに白い大きな怪鳥に襲われようとしているところだった。


「きゃー!」

「時雨ちゃんっ!」


 アクアはその俊足で時雨をかばい、短剣で怪鳥に斬りかかる。

 俺は『鑑定』スキルを使いつつ、怪鳥に向けて斬撃を飛ばした。


『スモークバード』、ランクは……B+!

 恐らく、このダンジョンの中ボスだ!


「ガァァァ!」


 スモークバードはアクアを相手にしながら、俺が飛ばした斬撃を白い大きな翼で引き起こしたソニックブームで相殺させる。

 どうやら、空中戦は向こうの方が分があるみたいだ。

 アクアも苦戦している。


「この鳥め……! あっ――!」


 スモークバードはアクアの両肩を鋭い鍵爪で掴んだ。

 孤立させた方が戦いやすいと踏んだのだろう。

 そして、そのまま飛んでアクアを今来た方向へと逆戻りに連れていってしまう。

 俺は叫ぶ。


「待ってろ、アクア! すぐに助けに――」

「いえっ! 秋月さんたちはそのまま先に進んでください! この鳥は私が引き受けます!」


 アクアは力強い瞳で言った。


「時間がありません、ボスを討伐しに行ってください! 私もこいつを倒したらすぐに向かいます!」

「だけどっ!」


(スモークバード……恐らく[試練のダンジョン]で出会った四刀鬼ほどの強さはない。しかし、"煙幕"や"風の刃"、そして何より飛行能力が厄介なモンスターだ。アクア一人だと流石に――)


「大丈夫です! 私を信じてください!」

「――っ! 分かった!」


 時間が無いのは確かだ。

 もう昔の俺じゃない、今は少しくらい頭で考えてから動ける。

 ここは、アクアを信じて先に行くべきだ。


「時雨、行こう!」

「う、うん! アクアさん! 待ってるよ!」


 俺は時雨と一緒に先へと進んだ。



  ――アクア SIDE――


(さて、どうしましょう……暴れても降ろしてくれませんし……。あっ、そうだ)


 秋月さんから少し離されてしまったところで私は特性フィートを発動した。

 特性フィートは普通、条件が整っていれば勝手に発動してしまうモノなので自分の意思で『発動させる』なんてことはできない。

 しかし、私には可能だった。


 簒奪者の権利:盗んだ物は貴方の自由だ。

(貴方は自由に特性フィートの発動、不発動を選べる)


 そう、私はこれを使って普段は不発動状態にしている特性フィートがいくつもある。

 なぜ、そんな事をしているのかというと……。


「……特性フィート、発動」


ゴーレムの身体:貴方は石でできている。

(体重を大幅に増加、防御力+100)


「グギャアア!?」


 急激に私の体重が増加したことで、この怪鳥は私を落とした。

 地面と再会できた私は、またすぐに『ゴーレムの肉体』特性フィートを解除する。

 カチカチになっていた私の身体はプニプニに戻った。

 そして、目の前でバサバサとホバリングをする怪鳥を相手に私は独白を始めた。


「――私、実は[試練のダンジョン]に秋月さんが助けに来た時は慌てて隠れたんですよ。秋月さんに見つからないように」


 私は、怪鳥を前に自分の特性フィートを解禁していった。

 今まで、数多のモンスター達から奪い取ってきたユニークな特性フィートを。


「だって、私が本気で戦う為に特性フィートを解放したらなってしまいますから」


「グギャーー!」


 怪鳥が再び私の肩を掴もうとするが、鉤爪は刺さらず私は液体のようにスルリと回避する。


スライムボディ:貴方の身体はスライムだ。

(攻撃をスリップさせて避けることができる)


 私は青く透ける自分の身体を見て、ため息を吐く。


「秋月さん、モンスター娘も守備範囲なのか分かりませんからね」


 怪鳥が私を警戒し始め距離を取ると、私もスライムボディを解除した。

 スキルを発動し、怪鳥は口から煙幕を吐き出す。


(また煙幕ですか……でも、今度はますよ)


ラミアの器官:貴方にはピット器官がある。

(熱で生物を感知できるが、舌が長くなる)


盗技とうぎ、『デュアルエッジ』」


 私は煙幕に乗じて襲い掛かってきた怪鳥の攻撃に両手の短剣でカウンターを決める。

 怪鳥はダメージを受けて後退し、また煙幕の中に隠れた。


(――今度は私の背後から風の刃ですか? 残念ながら、熱が無くても風を斬る音でバレバレです)


レッドウルフの耳:貴方には獣の耳がある。

(聴覚や勘が鋭くなるが、ケモ耳が生える)


ビッグバニーの筋肉:貴方の脚はムチムチだ。

(跳躍力が上がるが、太ももが太くなる)


 私は風の刃を跳躍して躱す。


「グギャア!」


 私が空中に跳び出したことでチャンスだと思ったのだろう。

 怪鳥は空中にいる私へとむけて再び風の刃を飛ばしてきた。

 確かに普通は空中で動くことなどできない。

 しかし、私の身体は空中で引っ張られるように移動して風の刃を躱す。


「――これ、凄く便利なんですよ。ちょっと見た目は悪いのですが……」


 私はスカートを手で抑えたまま逆さになって、ダンジョンの天井から伸びるツララのような岩にぶら下がっていた。

 スカートの中から出てきている吸盤付きの触手を巻き付かせて。


オクトパスの触手:貴方はタコ足を持っている

(触手を自由に扱うことができる)


 くるりと一回転して地面に着地すると、私は怪鳥に一歩ずつ歩み寄った。

 どの攻撃も通用しない私を前に怪鳥の目には若干の怯えが見える。

 本能で理解し始めたのかもしれない。

 果たしてどちらが"捕食者"で、どちらが"獲物"なのか、


「――ところで貴方、とっても綺麗で丈夫な白い翼があるんですね」


 私は両手に短剣を握って交渉する。

 盗賊にとっての交渉、それはもちろん――


、私にくれませんか?」


 奪い取ることだ。



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