第48話 難攻不落のダンジョンへようこそ

「ようこそ、いらっしゃいましたわ!」 


 綿霧さん、アクア、時雨、俺の4人で城に足を踏み入れると満面の笑みのシルヴィアが出迎えた。

 アクアは俺を守るように前に出て、「ガルルル」とシルヴィアを睨みつける。


「秋月さん、警戒してください。いつ、どこで何をされるか分かりません。襲われたら大きな声を上げてください」


 え? 俺そんなにシルヴィアに嫌われてんの?

 ピザを冒涜した罪はまだまだ消えないのだろうか。

 人間を警戒する野生の猫のようなアクアに対してシルヴィアは余裕の微笑みを浮かべる。


「あら、アクアさん? 何をそんなに警戒しているの? 同じ探索者同士、仲良くやりましょう?」

「そんなこと言って、貴方が秋月さんの身体にケチャップを塗りたくって食べようとしていたことは知っていますよ」

「えっ、シルヴィアそんなことしてたの?」

「初手からとんでもない脚色をしますのね」


 恐らく、前にシルヴィアが誤解させてきたことへの仕返しだろう。

 実際に食べた(舐めた)のはアクアだけどね。


「それで、綿霧さん。どうしてここに来たんですか?」

「ふふん、それはね。シルヴィアの異名は何だか知ってる?」

「えっと、確か……『千金武装せんきんぶそう』ですよね」

「その通り。だからシルヴィアは沢山の強力な装備を保有しているんだ」

「金にモノを言わせてるだけじゃないですか……」

「あら? 『財力』も立派な強さの一つですわ。アクアさんはお子様だからまだ分からないかしら」


 シルヴィアはアクアをからかうようにして笑い、アクアはずっと不機嫌そうな表情だ。


「ってことは、もしかして俺たちの為にシルヴィアさんが装備を貸してくれるってことですか?」

「もちろん、そうよ。代わりに今度秋月君を借りるけど」

「じゃあ、要りません! ほら、秋月さん帰りますよ!」

「冗談ですわ。そんなに怖い顔をしないでくださる?」

「今回のクエストは僕の依頼だからね。シルヴィアには僕から良い装備を貸してもらえるようにお願いしたんだ」

「秋月君たちが無事に帰ってこられるように私も精一杯お手伝いさせていただきますわ!」


       ◇◇◇


「――う~ん、やっぱりダメねぇ。レベル制限のせいで強力な装備は着けられないみたい」


 装備を見繕ってくれたシルヴィアは俺に鎧を着せてそう言う。


「そういえば、レアな装備にはレベル制限があるんでしたね……レベル差ペナルティのせいでこれも滅茶苦茶重たいです」

「これなら装備しない方がマシだろうね。レベル10までの制限の中で良い装備はあるかい? シルヴィア」

「う~ん、これと……これくらいかしら。こんなのタダであげるわ」


 そう言って、俺は結局無難な探索者の服と靴を与えられた。

 アクアと時雨も事情は同じで、二人とも最も品質の良いスカートと靴を装備するのが関の山だ。


「武器も同じね、秋月君が持てるのは普通の鉄の剣。今、秋月君が持っているその剣より良いのは残念ながら無いわ」


 シルヴィアは俺が持っているエレノアの剣を見てそう言う。

 俺は自分が装備できる量産品の鉄の剣の山を見てシルヴィアにお願いをした。


「シルヴィアさん、ここにある鉄の剣を俺のインベントリに持てるだけ持って行って良いですか?」

「それくらい、別に良いわよ? ごめんなさい、あまり力になれなくて」

「いえいえ、十分です。本当にありがとうございます!」


 どの剣も、今の俺が全力でスキルを発動すると1発で壊れてしまう。

 もし、俺のスキル1発じゃ倒せない敵が出てきたら1本の剣じゃ足りなくなるだろう。

 こうして俺は、20本の鉄の剣をインベントリにしまった。


       ◇◇◇


「いよいよだね」


 例の[封印のダンジョン]の前に綿霧とシルヴィア、そして今回ダンジョンに挑戦する俺とアクアと時雨が集まる。

 できる限りの準備はした。

 今回のクエストを達成すれば、ギルドからの信頼もある程度は得られるだろう。

 そして、綿霧さんは言う。


「『誰も入らせない』、『攻略させない』このダンジョンからはそんな強い意志を感じるんだ。こういう場所からは、大体凄い発見がある。君たちはこのダンジョンに入れるレベル10以下の最強パーティだ。だから是非とも君たちにお願いしたい」


 綿霧さんは改めて深く頭を下げた。

 シルヴィアはその隣で俺たちにアドバイスをくれる。


「危ないと思ったらすぐに出てきなさい。もう二度とこのダンジョンに入れなくなっても良いわ、貴方たちの命よりも大事な宝なんてないんだから」


 『パンドラ』そして『ダンジョン』。

 ダンジョン自体が異世界と関わりのある代物であることは確かだ。

 綿霧さんの抱いた印象が魔王の意思だとしたら、このダンジョンには魔王にとって何か"マズい代物"が眠っているのかもしれない。


「よし、行こう」

「うん!」

「気を付けて行きましょう!」


 綿霧とシルヴィアに見守られながら、俺と時雨とアクアは[封印のダンジョン]に足を踏み入れた……。


 ――――――――――――――

次回からついにダンジョン攻略編です!

☆3つ評価を付けて、楽しみにお待ちください!

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