第51話 [封印のダンジョン]クリア!


「さてと、ボスは倒したが……肝心の出口は――」


 そんなことを思っていると、再びダンジョンが揺れ動く。

 これで外まで出してくれるのか。

 そんな風に期待してみたが、どうやら様子がおかしい。


「お兄ちゃん! な、なんだかダンジョンが傾いて――縦になっていくよ!」

「あぁ、横穴だったのが縦穴になってきてる! 時雨、落ちないように俺に掴まれ!」


 俺は今まさに"壁"になろうとしている地面に剣を突き立てて時雨をギュッと抱く。

 やがてダンジョンは完全な縦穴となって、俺は剣を掴んだまま宙づりになった。


「どうなってんだこりゃ……長くはもたねぇぞ」

「お兄ちゃんに抱き着けるのは嬉しいけど、このままじゃマズいよ~」

「――2人とも~! ご無事ですか~!」


 下から白い翼をバッサバッサとはためかせてアクアがやってきた。

 アクアは天使みたいに可愛いとは常々思っていたけど、本当に天使だったのか。

 時雨も驚きながら瞳を輝かせる。


「アクアさん!? 何ですか、その羽! きれ~い!」

「えっと、これはモンスターさんから頂きまして……」

「今はそれより――2人とも下見ろっ!」

「下?」


 先に気が付いた俺に倣って2人も縦穴になったダンジョンの下を見る。

 そこには赤いドロドロとしたモノが黒煙を上げながら上に迫ってきていた。

 やがてそれはドラゴンの顔の形になり、俺たちを食わんと咆哮を上げる。


「あ、あれって、もしかしてマグマですかぁ!?」

「迫って来てる! 食べられちゃう~!」

「アクア、俺たち2人を抱いて飛べるか!?」

「問題ありません! しっかり捕まってください!」


 アースドラゴンの死後の呪いラスト・スペルが発動したらしい。

 どうやら俺たちを無事に帰すつもりはないようだ。

 俺と時雨はアクアにしがみつく。


「よし! 全速力で上昇してくれ! あのマグマ、凄い速度で上がってきてる!」

「アクアさん、頑張って!」

「はい! お2人ともしっかりと捕まっててくださいよ~!」


 アクアに捕まって上昇しながら、すでに嫌な予感はしていた。

 恐らく時間的に外は昼くらいだ。

 なのに、縦穴になったこの場所で空が見えないということは……。


「秋月さん! "天井"が見えてきました! 行き止まりです!」

「くそっ、やっぱりか!」

「ど、どうしよう~! あっ、見てあそこ! 横穴があるよ!」


 時雨の視線の先には確かに横穴があった。


「秋月さん! 一か八かあの横穴に行きますか!?」


 天井は塞がっている。

 確かにこの横穴に飛び込めばチャンスはあるかもしれない。

 その先が地上に出る為の唯一の道の可能性もある。


 ――その時、『あの人の言葉』が俺の頭をよぎった。


「いや、"上"だ! アクア、このまま天井を目指してくれ!」

「――わ、分かりましたっ! 秋月さんを信じます!」

「アクアさん、頑張ってー!」


 下からせり上がってくるマグマから逃れる為にアクアは白い翼をはためかせて全力で上昇する。

 そして、ついに天井が目前に迫る。


「――よく、僕を信じて上を目指してくれたね」


 そんな言葉が聞こえた気がした。

 直後、急に天井がひらけて青い空が目の前いっぱいに広がる。


魔剣技アーツ、『王者の一振りグランドスラム』!」


 上空には、S級探索者のアーサーがスキルを発動して剣を振り切っていた。

 その剣はバチバチと強力な魔力を纏って弾けている。

 思わず呆然としながら、俺は状況を理解した。


(う、上から地表を抉り取ったんだ! とんでもない威力のスキルで……!)


「あっはっはっ! だから、言っただろう? 『上を目指せば大体の事はどうにかなる』って!」

「ぶ、物理的な意味だとは思いませんでした……!」

「い、生きてます!? 私たち!」

「助かったぁ~!!」


 吹き出すドラゴンの顔をしたマグマから逃れると、アーサーは腕を組んで逆さまに落下しながら大声で笑う。

 アースドラゴンの思念が乗り移ったマグマは、地表に出ると霧のように消え去ってしまった。

 やはり、ダンジョン内限定の死後の呪いラスト・スペルか。


「うぅ……ヘトヘトですぅ……」


 フラフラと滑空するアクアに運んでもらって、時雨と一緒に地表に降り立った。

 アクアが背中の翼を消すと地上に居た綿霧とシルヴィアが駆け寄って来た。


「良かった、どうやら間一髪間に合ったみたいだね」

「アーサーに反省文を書かせてて良かったわ。他のダンジョンに行ってたら流石にもっと時間がかかってたわね」

「そうだね、アーサーにはこれからも反省文を沢山書かせようか」


 綿霧とシルヴィアも俺たちが無事に出てきた様子を見て胸を撫でおろす。


「お2人がアーサーさんを呼んでくださったんですね」

「そうよ、悔しいけれどこんな滅茶苦茶なことはコイツにしかできないから」

「みんな無事で本当に良かった! アクアさんに羽が生えてるのは気になるけど」

「き、気のせいじゃないですかね!? ほら、私に羽なんて生えてませんよ!?」

「アクアさん、流石に誤魔化すのは無理じゃないかな」

「アクアさんの羽、すっごく綺麗だったよ! また出してね!」

「時雨ちゃん、ありがとうございます! それと、アーサーさんも本当にありがとうございました!」

「アーサーさんが居なかったら本当にゲームオーバーで……ってあれ? アーサーさんはどこに?」

「あー、多分だわ」


 見回すと、アーサーは頭から腰の辺りまで地面に突き刺さっていた。

 くぐもった声で助けを呼ぶ声が聞こえる。


「君たち~! 飛べるなら僕の事も運んでくれよー!」

「す、すみませ~ん! てっきり、ご自分で着地できるのかと!」

「あっはっはっ! 自慢じゃないが、あのスキルを使うと僕はしばらく動けない!」

「それは本当に自慢じゃないんだよ、アーサー」

「頼む、抜いてくれ。あっ、抜いてくれって変な意味じゃないよ」

「……コイツ、放置で良いんじゃないかしら?」

「ごめん、アーサーはその……まだ子供だから許してあげて」

「僕はもう二十歳ハタチだ! 大人だぞっ!」

「精神年齢の話よ」



 アーサーさんを地中から引っこ抜くと――ダンジョン攻略の成功を祝してみんなで笑い合った。



 【封印のダンジョンクリア!】


レベルアップ!

秋月優太:Lv 10 ➜ 18

秋月時雨: Lv10 ➜ 11

水際アクア:Lv 10 ➜ 15


【獲得アイテム】

・英雄の剣

・?????



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