第46話 ぶっ壊れのステータスを公開する

「えへへ~、アクアさんの実況が生で見られるなんて! 何度見ても感動だよ~!」


 時雨はそう言いながら、カメラに映らないようにアクアの配信を熱心に見つめている。

 もう一緒に住んで1週間以上経つのに、時雨はまだアクアを見ては毎日興奮していた。

 まぁ、自分の好きなアイドルと突然同棲することになったらそれが普通か。

 俺たちが帰って来ていることに気が付いたアクアは配信中にも関わらず笑顔でこちらに手を振ってしまう。

 おいおい、それはマズいだろ……。


「あっ! あー、すみません。蚊が居たので手で振り払ったんです! そ、それじゃあ、ボス戦やっていきますねー!」


 自分のミスに気が付いたアクアは何とか視聴者たちを誤魔化すと、ゲームの実況配信を続ける。


 この調子だといつかバレそうだな……せめて俺だけでも早く自立してこの家から出て行かないと。

 ファンに見つかる前に。

 ――やがて、ゲームの実況配信を終えたアクアは大きく伸びをする。

 俺はキッチンで淹れたココアをアクアに手渡した。


「お疲れ様、アクア」

「アクアさん、今回もすっごく面白かったよー!」

「ありがとうございます! 私も沢山ファンの皆さんと交流できて満足です!」


 そう言ってニコニコとココアを飲むアクア。

 しかし、何かを思いついたような表情をすると様子が一変。

 急に疲れた表情でわざとらしく大きなため息を吐いた。


「あ~でも、急に疲れて元気がなくなってしまいました~」

「え~! それは大変!」

「何か元気になれる魔法があれば良いんですけどね~」

「そうだね~、そんな魔法があると良いんだけどね~」


 時雨と一緒に小芝居をうちながら俺にチラチラと視線を送るアクア。

 くっ……仕方ない。


「ほら……」

「わ~い!」


 俺が両手を広げるとアクアは満面の笑みで正面から抱き着いてきた。

 時雨がこの変な儀式を周囲に広めたせいで、アクアもしっかりと味をしめてしまい、こうやって定期的にからかわれる。

 綿霧さん達との誤解が解けたのは良い事だけど……絶対に外ではやらないでね。

 時雨もちゃっかりと後ろで順番待ちをしている。


「ところでお2人とも、レベル上げの調子はいかがですか?」

「バッチリ! 2人ともアクアさんに追いついたよ!」

「凄いですね! こんなに早く!」

「実際、周囲のD級ダンジョンは全部狩りつくしたくらいの勢いだ」

「大変だけど、お兄ちゃんと色んな所を冒険出来て楽しかった~!」


 ぴょんぴょんと跳ねる時雨の頭を撫でてやる。

 街を歩くときも、外を冒険する時も、時雨はずっと瞳を輝かせていた。

 今まで病院でしか生活できなかったんだ。

 きっと、ずっと夢に見ていたんだろう。


「じゃあ、もう準備は整いましたね!」

「あぁ、ダンジョンについて綿霧さんに詳しい話を聞きに行こう」

「レッツゴー!」


 こうして、俺たちは3人で帝国ギルドへと向かった。


       ◇◇◇


「――さて、改めて言うけれど……君たちに挑戦してもらいたいのは[封印のダンジョン]だ。ランクは"不明"、でも内部には凄く強いモンスターたちが居ると僕は予想している」


 ギルド長室に行くと、綿霧さんが真剣な表情で俺たちにクエストの説明を始めてくれた。

 しかし、室内にはどうしても気になる事がいくつかあり、アクアは尋ねる。


「あの……どうしてアーサーさんがそこで正座をさせられながら反省文を書かされているんですか?」

「あぁ、気にしないでくれ。荒し行為はやっぱり良くないからね」

「アクアさん、すまなかった……」

「は、はぁ……?」


 アーサーはやっぱりアクアの配信を少し荒したことと綿霧の何かの秘密を言おうとしたことで罰を受けさせられている様子だ。

 アクアは配信に夢中でコメントなんて見ていなかっただろうが。

 そしてもう一点気になるのが……


「綿霧様! こちらの書類整理、終わりました!」

「あぁ、ありがとう。優菜ちゃん」

「綿霧様! 機材の搬入も終わりましたよ!」

「助かるよ、悠人君」

「「いえいえ! 任せてください!」」


 生き生きとした様子で綿霧さんのお手伝いをしている春月兄妹である。

 きっとこれがF級昇格試験で暴れまわったペナルティなのだろう。

 しかし、綿霧さんにコキ使われている2人の様子はなんだか凄く嬉しそうだ。


「色々と気が散ると思うが、気にしないようにしてくれ」

「はぁ……えっと、グラントさんはどうしてこちらに?」


 アーサーが反省文を書かされている横でS級探索者のグラントがお茶を飲んでいた。


「この件については俺も知らねぇわけじゃねぇからな。とはいえテメーラじゃどうせ力不足だろうがな!」

「言い方は悪いけれど……確かにグラントの考えももっともだ。本当に時雨ちゃんは魔力1000以上になったの? しかもレベル10以下で?」

「はっ! テメェが言い出したことだぜ? まさか『出来ませんでした』なんて言うんじゃねぇだろうな?」


 グラントはあざ笑うような表情で俺たちを見る。


「えっと……見てもらった方が早いですね。時雨」

「う、うんっ!」


 時雨は自分のステータスを表示した。 


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