第43話 剣術で圧倒する

「時雨、下がってろ。どうやら優菜のことは抜きにしても俺と戦いたいらしい」

「う、うん……優菜ちゃんの傍にいるね」


 室内犬の様に大人しくなったギガントリザードを連れて時雨が闘技場を降りて行くと、悠人は俺を睨みつけた。


「行くぞ! 秋月優太!」


 そう言うと、悠人はインベントリから左手に魔導書を取り出した。

 右手には剣。

 剣と魔法を同時に扱う魔法剣士ソードマギカか。

 当然のように上級職業ジョブ……本当に羨ましいよ。


「誰か知らないけど、いけー!」

「アンタでいいから、その冴えない坊やをやっつけて!」

「そんな奴が綿霧様のお気に入りだなんて許せない!」


 そして、アウェーすぎる。

 綿霧さんが居なくなっても周囲で見学を続ける女性探索者の皆さんからヤジが飛んでいた。

 俺を応援してくれてるのは時雨だけか……十分だな。


魔術付与エンチャント! 氷結の剣アイスソード!」


 悠人はどうやら剣に魔法を付与したようだ。

 そして、青く輝く剣を振ってスキルを発動した。


射貫く氷柱アイスニードル!!」


 剣から発された無数の氷の刃を俺に向けて飛ばす。


「どうだ、秋月優太! これが魔法剣士ソードマギカの力だ! 斬撃だって飛ばせるのさ!」


 なるほどこれが魔法剣。

 確かに凄いとは思うけど……


(斬撃を飛ばすのに、わざわざ魔法が必要か?)


「――ふっ!」


 俺は短く息を吐いて空間を剣で切り裂く。

 すると、刃の形の衝撃波が飛んでいく。

 この技は俺にとって異世界では必須の技だった。

 なぜなら、鳥は焼いて食えば大抵美味いからだ。

 撃ち落とす為にそれはもう、必死になって体得した。


(直線的に動いてくれるなんて、ずいぶんと楽な的だな)


 俺の斬撃が全ての氷の刃を打ち落とすと、悠人は少し狼狽えつつ次の攻撃を仕掛ける。


「くそっ! 魔術付与エンチャント! 火炎の剣ファイアソード!」


 今度は火の魔法剣か。

 分かりやすく、攻撃力特化だろう。


紅蓮の龍レッドドラゴン!!」


 そして、龍の形をした火炎が俺に向かってうねりながら襲い掛かる。


「あはは! どうだ、秋月! 実態の無い物は斬れまい!」


 確かに実態のないモノは斬れない。

 しかし、残念ながら魔法は別である。

 そこには魔力という実態を介していて物理的な力の流れも存在する。

 つまり、斬るどころかこんなこともできちゃうワケだ。


「――パリイ」


 別に言わなくても良いんだが、響きが好きでつい言っちゃうんだよねこの技。

 やはり技名は叫ぶモノだ。

 俺は完璧なタイミングで剣を合わせて力のベクトルを反対方向へと受け流す。

 そして、火炎の龍を悠人に向けて打ち返した。


「――は!? 何で、こっちに!? くそっ、制御がきかないっ!」


 そして、魔法剣士ソードマギカの弱点も見えてきた。

 どうやら左手には魔導書を持っていないとダメらしい。

 つまり――


「ほ、本がっ! 俺の火炎で本が燃える!」


 自分で自分の弱点を作り出しているわけだ。

 俺が悠人の魔導書を狙って火炎を打ち返したら、当然こうなる。


「――えっ!? ちょっと、あの子何か凄くない?」

「綿霧様に気に入られてるみたいだから正直気にくわなかったけど……」

「まだスキルすら使ってないわよ!?」

「ていうか、魔法って普通剣じゃ対処できないでしょ!?」


 周囲で見物してる女性探索者たちの態度は一転、俺に興味を持ち始める。

 手のひら阿波踊りか?

 慌てて魔導書を水魔法で消火すると、悠人は悔しそうに瞳に涙を貯めて俺を睨む。


「ちくしょうっ! 雑魚の秋月が、なんでこんなに強くなってるんだよ!」

「努力したんだよ。時雨を救う為に」

「なんで、あんな奴に……くそっ! 俺の最高の技で倒してやる!」


 そう言うと、悠人は禍々しい魔法書を取り出して詠唱を始めた。


「今度は避けられないぞ! 威力が高すぎて俺でも制御できないからな!」

「オイオイ……そんな技やるなよ……!」


 俺の危機察知フィートが会場全体を埋め尽くした。


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