第33話 S級探索者は変人ばっかり
「とにかくそういう訳だ。グラントも文句はないね? 秋月君の帝国ギルドへの加入は一旦見送ることとする」
綿霧が尋ねると、グラントは腕を組んでため息を吐く。
「あぁ、そういうことなら俺も文句はねぇ。騒いで悪かった」
「いや、君なりにギルドの秩序や影響を考えてくれたんだろう? 反対するも者はいつだって悪者に見られる、その実、本当は優しい人間だと僕は思っているよ」
「……じゃあ、俺はもう行くぜ。暇じゃねぇんでな」
綿霧が褒めると、グラントは頭をボリボリとかいて部屋を出て行った。
アーサーはその背中を見送る。
「僕の実力を一番に認めて推薦してくれたのはグラントなんだ。だから、そのせいで責任を感じているんだろう。また、同じことが繰り返されて犠牲になる探索者が出ることを懸念したんだ」
グラントさん、最初は怖かったけど確かに悪い人ではなさそうだ。
シルヴィアは首を横に振ってため息を吐く。
「まぁ、私は普通に嫌いだけどね」
「あはは、シルヴィアに嫌われるなんてかわいそうだなグラントは」
「もちろん、アンタの事も嫌いよ?」
「えっ……」
「じゃあ、時雨ちゃんのF級昇格試験だけど。3日後くらいで良いかな?」
綿霧さんは時雨に優しい笑顔で尋ねる。
「あっ、でも私まだ魔法とかスキルとか何も覚えてなくて……」
「F級昇格試験は主にペーパーテストだよ。内容はダンジョン探索の心得についてだし、〇×クイズだ。数時間ほど勉強すれば合格できるだろう」
「僕は4回落ちたけどね」
「全くダメダメね、アーサーは。私は3回しか落ちてないわ」
「ごめん、この2人はあまり参考にしないで」
アーサーとシルヴィアを時雨の視界に入れないように綿霧さんは時雨の向きを変える。
教育に良くないと感じたんだろう。
アクアは俺に囁く。
「せっかくですから、秋月さんも受けたらどうですか? 結構怪しい気がします、何も考えずに突っ込みますし」
「あはは……正直、受かる自信が無いよ」
「し、試験はペーパーテストだけなんですか?」
時雨の質問に、綿霧さんが答える。
「その後、簡単な実技テストもあるけどスキルの一つや魔法の一つでも唱えられれば合格になる。魔力があるなら『
「時雨の場合は魔法が良いか……試験前に誰か教えてくれる人はいるかな」
「何言ってるんですか。居るじゃないですか、丁度良いのが」
「え?」
「まぁ、そこは私に任せてください。帰りに試験対策の本を買いましょう!」
アクアの言葉を信じて、俺は綿霧やシルヴィア、アーサーに深く頭を下げる。
「今日は、本当にありがとうございました」
「構わないよ、僕で良ければいつでも相談に乗ろう」
「推薦したのに、ギルドに入れてあげられなくてごめんなさいね」
「あっはっはっ! 秋月君、いつか僕とも手合わせしてくれ
そして、アーサーはこっそりとアクアに話しかける。
「それと、アクアちゃん、あの……サインが欲しいんだけど」
「あっ、そうでしたね。まぁ、私なんかので良ければ」
「やった! 額縁に入れて部屋に飾ろう!」
シルヴィアは呆れた表情でため息を吐く。
「ちょっと、ギルド長。
「全く、アーサーってば仕方ないなぁ」
見かねた様子で、綿霧さんはアーサーとアクアのもとに行く。
そして、恥ずかしそうにアクアに尋ねた。
「アクアさん、僕ももらって良いかな? 『
「えぇっ!? ギルド長もですか!?」
「実は僕もファンなんだ。正直本人を前にして興奮を隠すのに必死だったよ」
シルヴィアは古風にズッコケるリアクションをする。
この人、意外とノリが良いんだよね。
「全く、ロクな奴が居ないわ。勘違いしないで、秋月君。こんな奴ばっかりじゃないのよ」
「は、はぁ……」
「公私混同をするなんて、探索者にあるまじき姿勢よね」
シルヴィアはそう言うと、俺に小さな紙を渡す。
「これ、私の家の住所と電話番号よ。あの狭い家を出て超高級スイートルームで毎日優雅な暮らしをしたくなったら来なさい。盗賊女と喧嘩したり落ち込んだりしたらお姉さんが慰めてあげるから、いつでも逃げ込んできてね」
「…………」
公私混同を具現化したような紙を渡された。
恐らく、ここに逃げ込んだらもう二度と外には出られないだろう。
愛玩動物としてシルヴィアに飼われる。
何だかそんな未来が見えた。
(アクアには申し訳ないけど、もうしばらくはご厄介になろう……)
そんな事を考えたF級探索者だった。
◇◇◇
――その日の夜。
家でアクアに隣で教えてもらいながら、早速F級昇格ギルド試験の例題を解く時雨。
「では、次の問題です。『夜のダンジョンは気を付けなければならない』これは〇ですか? ×ですか?」
「あっ、分かるよ! 正解は〇だよね!」
「えっと、正解は……×です」
「えぇ!? なんでー?」
「なぜなら、『夜じゃなくてもダンジョンは気を付けなければならないから』……だそうです」
「そ、それはそうだけどっ! 納得いかなーい!」
妹よ、そうやってクソ問題に触れて少しずつ世の中の理不尽さを学ぶのだ。
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