第32話 試験を受けます


 綿霧さんのお話を聞いて、俺は考える。

 時雨なら条件は遥かにクリアしている。

 しかし問題は何も魔法を覚えていないこと。

 それに……時雨は大切な妹だ。

 時雨の為だったら俺は魔王だって倒せる。

 そう思って始めた冒険だ。

 危険には晒したくない。


「すみませんが――」


 俺が断ろうとすると、時雨が俺の袖をクイッと引っ張った。


「お、お兄ちゃん! 私が魔法使いとして頑張れば……いけたりしないかな?」


 そして、オドオドとした様子で話す。


「こ、こんなこと言われたら迷惑かもしれないけど……で、でも私本当にお兄ちゃんの役に立ちたいし、お兄ちゃんと一緒に色んな場所を冒険したいの! ほ、本当は私……病院で毎日そんなことを夢見てたんだ!」

「――時雨」


 俺は馬鹿だ。

 また時雨を一人で残して寂しい思いをさせるつもりか?

 安全の為だなんて、俺の我儘で。


 決心した俺は綿霧さんに話す。


「綿霧さん。そちらの依頼ですが、少しお待ちいただいても良いですか? 時雨と一緒に何とかしてみせます」 

「わ、私からもお願いします!」


 アクアも頭を下げてくれた。


「できるはずがない――と普通は言いたくなるところだけど、君たち二人は規格外だ。嫌でも期待してしまうな」


 綿霧さんも頭を下げる。


「もちろん、お願いするよ。むしろ、君たちにしかできないと思っている」


 きっと、このクエストを成功させれば俺たちへの信頼も厚くなるだろう。

 そうなったら、異世界の話やこの世界に居るはずの魔王の話をしても良いかもしれない。


「……ところで、一応確認だけど時雨ちゃんの探索者ランクもFかい?」

「あっ、実は時雨はとある理由で訓練学校に通えていなくて……だからG級なんです」

「あ、それはマズいね……」

「どうしてですか?」

「G級はダンジョンへの立ち入り自体が許可されていないんだ」

「あっ……」


 そういえば、そうだった。


「だから、まずはF級探索者になる為の試験が必要だ。F級の試験は他とは違っていつでも受けられるから、僕が申請しておいてあげるよ。頑張ってね、時雨ちゃん」


 綿霧さんはそう言って、時雨の頭を撫でる。


「よ、よ~し。お兄ちゃんと一緒冒険する為にも頑張るぞ……!」


 時雨はギュッと拳を握る。


 こうして、大波乱を巻き起こす時雨のF級探索者への昇格試験が始まった。

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