第31話 初めてのダンジョン依頼

 綿霧さんは俺とアクアに深々と頭を下げる。


「ここまで見せてもらっておいて申し訳ないけど、S級探索者のステータスは秘匿事項なんだ」

「いえっ、そんな! 私は自分から見せただけですし!」

「とりあえず、後でアーサーのステータスだけ見せるからそれで良いかな?」

「あれ? 綿霧ちゃん? 僕も今はS級だよ? なんで?」


 アーサーの訴えも空しく、綿霧さんは話を進める。


「そして、2人のステータスを見て是非とも攻略をお願いしたいダンジョンがあるんだけど……」

「ギ、ギルド長直々の依頼ですか!?」

「何も驚くことはないさ、正直手詰まりになっている案件は山ほどあるんだ。特例でアーサーを帝国ギルドに入れたのも、今いるS級探索者じゃ歯が立たなかったからだしね」

「即戦力採用ってことね。僕って優秀だから」

「ムカつくけどそうなのよね」

「戦闘においてはな」


 シルヴィアとグラントはため息を吐く。

 そういえば、『無敵艦隊アルマダ』の最年少リーダーなんだよなこの人。


「頼みたいダンジョンって何なんですか?」

「あぁ、いやよく考えたら難しいな……があるのを忘れていた」

「一応、話をしてみてはどうだい?」


 アーサーに促されて、綿霧さんは話し始める。


「秋月君、『制限付きダンジョン』というのはご存知かな?」

「すみません……知りません」

「例えば、『このダンジョンには3人までしか入れない』とか『全ステータスが100下がる』とかそういう制限がかかったダンジョンの事なんだけど……」


 綿霧さんはインベントリから書類を取り出して俺たちの前に出してくれた。


「実は、『レベル10以下の者しか入れない』ダンジョンがあるんだ。君とアクアさんが適任かと思ったんだが――」

「それ、やらせてください! 秋月さんと2人っきりでダンジョン……何も起こらないはずがありません!」

「いや、何も起こらないことを願ってよ!?」

「そ、それで! 何をしないと出られないんですか!?」

「いや、特にそんな制限は無かったかな」


 何故か興奮気味に更なる難易度とハプニングを望むアクア。

 また以前みたいに閉じ込められたりしたら困るって。

 綿霧さんは申し訳なさそうに首を横に振る。


「そのダンジョンは[封印のダンジョン]といって、入口から少し入った所に強力な魔法の結界が張ってあることを思い出してね……見立てだと、魔力1000以上の者が魔力を注がないと突破できないようなんだ」

「はっ、そんなの最初はなから無理じゃねぇか」

「そうだね、レベル10なのにA級魔術師レベルの魔力なんてあり得ない」

「どうしてそのダンジョンは攻略が必要なんだい?」

「こうした理不尽な条件付きのダンジョンは大抵何らかの大きな報酬がある。『唯一特性ユニーク・フィート』の獲得、伝説レジェンド級アイテム……何にせよ、帝国ギルドにとって大きな収穫があると踏んでるんだ」

「アクアちゃんの『唯一特性ユニーク・フィート』:簒奪者さんだつしゃで魔力を集めればいけないこともないけど、時間がかかりすぎるよね」

「バーカ、トドメを刺さなくちゃなんねぇんだからその間にレベルは10を超えるっつーの」


 綿霧さんは忘れてくれとでも言うように手をヒラヒラと動かす。


「あはは、流石の君たちでも魔力1000超えでレベル10以下の知り合いはいないだろう?」

「あ、あはは……」

「えっと……」


 俺とアクアは冷や汗を流しながら時雨を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る