第28話 S級たちに囲まれる
「シルヴィア、てめぇのしょぼいアーマーを破壊したからって何の証明になるんだよ? こんな冴えないガキなんて帝国ギルドに入れて良いはずねぇだろ」
「グラント、確かにそうね。私のアーマーも貴方の頭の固さには勝てないみたい。新しい素材にしたいから首から上をくれないかしら?」
(怖すぎて漏らしそう……)
一触即発の空気の中、アーサーはアクアにこっそりと話しかける。
「君、アクアちゃんだよね? 後でサイン貰って良い?」
「は、はぁ……」
「やった! 『アーサーさんへ』って付けてくれる?」
直後、扉が開く音と共に威厳のある女性の声が響く。
「――やめないか、2人とも。ここを滅茶苦茶にするつもりか? アーサーも後にしろ」
綺麗なスーツを着た黒髪の真面目そうな女性が入室してきた。
俺たちの前を悠々と横切り、正面の席に着く。
「君が秋月君、そしてアクアさんと……おや? 可愛らしい女の子もいるね」
「し、時雨です! お兄ちゃんの妹です!」
「よろしくね、時雨ちゃん。みんな楽にしてくれ、S級のお前たちもだ」
彼女の指示に従い、シルヴィアとグラント、そしてアーサーも大人しく椅子に座る。
もしかして、この人が――
「僕はこの帝国ギルドのギルド長を務めているS級探索者の
やはり、ギルド長だ。
驚いた、こんなに若くて綺麗な女性だとは。
「ギルド長! 本当にこんな奴をギルドに入れるつもりなんですか!?」
「グラント、結論を焦ってはいけない。僕だってこれには慎重さ」
綿霧は腕を組んで、俺たちにも分かるように説明してくれた。
「F級が帝国ギルドに入るなんて前代未聞だからね。アーサーの時も大変だっただろう? 帝国ギルドが舐められ、C級ダンジョンを甘く見た数多くのD級冒険者がギルドの許可なしに侵入し、無残な姿で発見された」
……そうだ。
感覚が麻痺していたけどC級探索者は凄い。
町に一人居るかいないか程度だし、居るだけでその町の防衛力にもなる。
それくらい、ハイレベルな階級なんだ。
そして、綿霧はシルヴィアたちに微笑みかける。
「同時に、君たちを疑っている訳じゃない。アクアさん、シルヴィア、アーサー、帝国ギルドでも名を馳せている探索者3名だ。よほどの人たらしでもない限りはこの場には来れないだろう」
最後に、俺の目を真っすぐと見つめた。
あまりに真っすぐで、綺麗な瞳で、俺はつい目を逸らしてしまう。
「秋月君、どうして帝国ギルドに入りたいんだい?」
「えっと……Cランク以上のダンジョンに入る許可が欲しいからです」
「Cランクより下のダンジョンでは満足できなくなった……と?」
「満足できなくなったワケじゃないんですが、その先に目的があるというか……」
「ふむ……そうか」
考え込む綿霧さんに俺は頭を下げる。
「あの……すみません。これだけお騒がせしておいて申し訳ないんですが、俺は今すぐに帝国ギルドに入りたいワケじゃないんです」
きっと、魔王軍もそんなにすぐには侵略を始めては来ないだろう。
むしろ、俺なんかよりもこの場にいるS級の方々の方がずっと強いワケだしね。
「しかし、依頼は出していたんだろう?」
「依頼は受付の方に
「レーネちゃんだね。彼女もまさかS級探索者が依頼を受けるなんて思ってもみなかっただろうし……」
「何よ? 私が悪いって言いたいの?」
「まぁ、S級はみんな変わり者だ。そこを見抜けなかったレーネちゃんが悪いね」
綿霧さんはそう言うと、俺に提案する。
「秋月君、ステータスを見せてもらっても良いかな? もちろん、口外はしないさ。それで実力が決まるわけじゃないけど、君の能力はある程度把握しておきたい。絶対に不正ができない重要な情報だからね」
……残念ながらできてしまうんですよねぇ。
恐らく、俺だけが使えるSSSクエスト報酬のフィート『影の英雄』。
これが存在すること自体がこの世界のシステムを変えてしまいかねない。
黙っているのが吉だろう。
「わ、分かりました」
グラントは腕を組んで俺を睨む。
「はっ! 仮にもS級相手に大立ち回りをしたんだ。ちったぁマシなステータス何だろうな?」
そして、アーサーはシルヴィアにこそこそと話しかけた。
「シルヴィア、君の予想だと秋月君のレベルはいくつくらいだと思う?」
「私の防御を突破したとはいえ、F級探索者だから。D級ダンジョンを人より多く攻略していたとしても精々30くらいかしら?」
「僕は20だと思うな。彼はまだ若すぎるし、D級ダンジョンのモンスターから得られる経験値は低い」
「あら、私を馬鹿にする気? 流石にレベル20程度の探索者に遅れは取らないわ」
……シルヴィアさん、ごめんなさい。
俺は全員の前でステータスを開示した。
レベル1の……自分の貧弱なステータスを。
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