第23話 みんな、俺が負けると思ってます

「おい! シルヴィア様が闘技場で戦うらしいぞ!」

「マジか!? S級探索者の戦闘が見れるのか!」

「相手は誰だ?」

「F級探索者だ! どうやら、シルヴィア様を怒らせちまったらしい」

「あの温厚なシルヴィア様を!? い、一体どんなとんでもないことをやらかしたんだ!?」

「戦闘というよりも公開処刑だな」


 ギルドの内部に作られた大きな石畳の闘技場の周りでは、探索者たちがそんな話をして盛り上がっていた。

 そして、その闘技場の上でシルヴィアと向かい合った俺はダラダラと冷や汗をかく。


「ど、どうしてこんなことに……」


 戦闘用の装備に換装したシルヴィアは俺を前にして得意げに腕を組む。


「ふふ、驚くのも無理はないわ! まさか地味で冴えないお姉さんの正体がS級探索者シルヴィアだなんて夢にも思わなかったでしょうからね!」

「あはは……ソーデスネ」

「お兄ちゃん、頑張れー!」


 時雨は無邪気に俺を応援している。

 多分、シルヴィアが良い人だから戦いとはいえ安心しているのだろう。

 しかし、俺を前にしたシルヴィアは肌がピリピリするほどの闘気を放っている。

 本気で殺されそうだ。

 ピザにパイナップル、そんなにダメでしたか……?


「依頼を引き受けていただき、ありがとうございます」

「良いのよ、貴方が素敵なお食事を奢ってくれたんだもの。ただし、降参なんて認めませんわ! 正々堂々と勝負よ!」

「正々堂々ね……」


 俺は『鑑定』スキルを発動してシルヴィアの装備を上から見ていく。


『ラグジュアルアーマー』

 可動性と耐久を兼ね備えたA級アーマー。

『ハヤブサの小手』

 防御力と攻撃速度に+補正を加える小手。

『七星獣の宝剣』

 豪華なだけでなく、威力も高い剣。


 ――そして、自分の手元の頼れる相棒を見る。


『鉄の剣』

 闘技場で貸し出されているなんの変哲もない鉄の剣。

 やや、使い古されている。


 ……いや、まぁ持っている装備もその人の戦闘力の一部だから確かに正々堂々ではあるんだけど。

 なんか、ズルくない?


「30秒で負ける方に1万!」

「いや、10秒だ!」

「俺は5秒ももたないと思うぜ!」


 そして、場外では探索者たちが賭けを始める。

 どちらが勝つか、ではなく俺が何秒この場に立っていられるかを……だ。


「仕方がない……」


 俺は腹をくくってため息を吐いた。

 どちらにせよ、帝国ギルドに入るためにはS級探索者に認められる必要があるんだ。

 成り行きとはいえ、知らない相手ではなくシルヴィアが引き受けてくれたのはかなりマシな方だと思う。


 そして……この世界でついに俺は剣を握る。

 異世界で剣聖として戦っていた、

 日々が――

 経験が――

 剣を通じて再び俺の身体と一体になった。


「できるだけ、頑張ってみますか」


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