第22話 S級と戦うことになりました

「それにしても、ギルドの食堂ってとっても静かなのね! みなさん、お行儀が良くてびっくり!」

「あれ~、でもさっきまでみんなワイワイお喋りしてたんだよ~?」

「あ、あははっ! き、きっとみんなお昼ご飯を食べて眠いんですよ……!」


(――貴方がここにいるせいですっ!)


 自分の変装は完璧だと思い込んでいるシルヴィアさん。

 しかし、バレバレなので彼女に失礼を働いてしまわないように全員必死だ。

 シルヴィアの財力と地位があれば、探索者の1人や2人いつでも消せてしまうだろう。

 立ち上がるのも失礼だと思っているのか、全員立ち去るどころか地蔵のように動かなくなっている。

 当然、目の前で微笑みを向けられている俺はもうホットドッグの味なんて分からない。


「さて、私もお食事をさせていただきたいのだけど……どうやって注文すれば良いのかしら?」


 食堂だなんてモノには縁遠いご様子のシルヴィア様は小首をかしげる。

 恐らく、シルヴィア様ほどの大富豪なら目の前でシェフが作るのが普通だと思っているし、カルピスも原液のまま飲んでいるし、ヨーグルトのフタも舐めないのだろう。


 相手がやんごとなきお方だと分かっていない時雨は不遜にも軽々しく口を開く。


「カウンターで注文すれば良いんだよ!」

「カウンターね……ではまず攻撃を受けないと」

「――お、俺がお持ちいたします! 言っていただければ!」


 何やら天然を爆発させそうな気配を感じて俺は進言する。

 S級探索者に謎のカウンター攻撃を受けて食堂のおばちゃんが死ぬ前に。


「あら、とってもお優しい方ですのね! それではお願いいたしますわ! 何にしましょう……」


 そして、シルヴィア様がお考えお始められる。

 頼むから、キャビアとかフォアグラとか言い出さないように祈る。


「そうですね、お2人がパンを食べてるのを見て私も似たようなものを食べたくなりました……ピッツァを頂けますかしら?」

「ピザですね! 承知いたしましたぁ! すぐにお持ちいたします!」


 おい、ナポリから本場のイタリア人呼んで来い!

 なんて言うことも出来ない俺は大人しくカウンターに行ってピザを注文する。

 しかし、ピザにも種類が様々あった。


(ここは、俺がシルヴィア様に相応しい完璧なピザを選ばなければ……!)


 そして、焼きあがったピザを持って俺はテーブルに戻ってきた。

 相変わらず周囲の探索者たちは悪い魔法使いに石にでもされたかのように固まっていて、テーブルでは時雨がシルヴィア様とお話をしていた。


「えぇ~!? おウチにプールがあるの! すご~い! じゃあ、お姉さんってお金持ちなんだね!」

「うふふ、大したことはありませんわ。ちょっとした大財閥のご令嬢に過ぎませんもの」

「お嬢様なの~!? すっご~い! でも、どうしてそんなお嬢様がここにいるの~?」


 自分が地雷原にいるとも知らず、その上で楽し気に踊る時雨。

 しかし、その質問は誰しもが気になっていることだった。

 何でギルドの食堂になんて来ているんだろう?

 時雨の質問にシルヴィアは少し悲しそうに笑う。


「……あまりに立場が高くなってしまうと、対等に接してくれる人が居なくなってしまうの。特に、庶民の皆さんとの溝はドンドン大きくなってしまうわ」


 そして、時雨の顔を見ながら優しく微笑む。


「ですが、私も皆さんと同じ人間よ。こうして同じ食事を食べて楽しく語らい合えば分かり合えないことなんてないと思うの」

「そうだね! 私もお姉さんとお話できて楽しいもん!」

「――っ!」


 俺は自分を恥じた。

 シルヴィアはとても懐の深い人だ。

 施すだけでなく自分からも寄り添っている。

 そうだ、分かり合えないことなんてない。

 俺は焼きあがったピザをシルヴィアの前に置いた。


「お待たせしました。こちら、パイナップルたっぷりのハワイアンピザです!」

「――パイナップル?」


 完璧な選択だった。

 ベーコンやポテトにチーズ、そして甘いパイナップルが沢山載ったトロピカルピザ。

 この美しい黄金のゴージャスなピザなら、きっとご満足いただけるはずだ。

 貧しかった自分が、ずっと食べてみたかった一品でもある。

 しかし、ピザを目にしたシルヴィアは目を見開く。


(なんだ? 急に悪寒が……)


 そして、シルヴィアは落胆の声を発した。


「そう……貴方はピザにパイナップルを載せて食べる……そういう人間なのね。つまらない人」


 そして、シルヴィアは帝国ギルドの魔道デバイスを使い、ウィンドウを表示させる。


「秋月優太、残念ながら貴方とは分かり合えないみたい」


 そして、現れたウィンドウの『受諾』のボタンを押した。

 俺が依頼した、ギルド試験の模擬戦闘のクエストに――。


「せっかく注文して頂いた物ですもの。食べ終わりましたらに付き合ってくださる?」


 ――その笑顔は、ベヒーモスですら屈服させそうな重圧をはらんでいた。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

みなさんはピザにパイナップルはアリですか?

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