第20話 俺は弱いんです…!(迫真)

「ちょ、ちょっと待ってください! そもそもなんでF級探索者がS級と戦わなくちゃいけないんですか!? おかしくないですか!」


 S級探索者となんて絶対に戦いたくない俺はギルドのルールにクレームをつける。

 時雨も「そうだそうだ!」と言っています。


「いえいえ、これが意外と理にかなっているんですよ……」


 レーネさんは俺のような駄々っ子にも丁寧に説明してくれた。


「帝国ギルドに加入する条件は普通C級以上の探索者になります。つまり、それより下の階級であるほど、模擬戦闘をしてより高ランクの探索者からの"承認"を受ける必要があるんです。F級をギルドに入れるとなるとS級探索者の承認でも貰わないと、ギルド側も納得しないということでして」


 アクアは頷いて質問する。


「つまり、B級の私が承認しても、せいぜいD級の探索者が入会のチャンスを得られるのが関の山ってことですか?」

「正直に言ってしまうと、そういうことになりますね。過去にたった1人だけE級で帝国ギルドに入会した天才がいますが、F級は前代未聞です。というか、無理です」


 レーネさんがここまで説得してくれているにも関わらず、アクアは俺にキラキラとした瞳を向ける。


「大丈夫です! 秋月さんはS級探索者だろうがチョチョイと倒してしまうので!」

「お兄ちゃん、そうなの!? すごーい!」

「――すみません、レーネさん。少々お待ちください、作戦タイムに入ります」


 俺はそう言うと、期待に満ちた瞳のアクアと時雨をギルドの端に召集する。

 そして、開口一番――


「いやいや、無理だって! S級探索者と戦うなんて!」

「どうしてですか! 秋月さんならいけますって!」

「アクア、期待しているところ悪いけど俺はそんなに強くないんだよ」


 俺がそう言うと、アクアは心底不思議そうに首をひねる。


「何を言っているんですか? 秋月さんは異世界を救った英雄ですよ?」

「言っただろ? 異世界は9割が侵略済みだったんだ。魔王軍も勝ち確で油断しまくってたってこと」

「つまり……?」

「魔王やその直属の強い幹部たちは全員すでにこっちの世界に来てるんだ。俺は残党を倒しただけ」

「て、ことは……?」

「俺が異世界で倒した敵よりも、こっちに来ている魔王軍の魔物パンドラの方が強い。S級探索者はすでにそいつらと戦ったりしてるんだよ」

「で、でも! 秋月さんは異世界で13年間も戦い抜いてきたわけですし」

「13年間のキャリアを持った探索者なんて別に珍しくない。ましてや俺はその時に手に入れた経験値は全て失ってレベル1だ」


 今の俺は、少し剣術の心得があるだけのF級探索者だ。

 異世界では剣聖だなんだと言われたこともあるが、今は見る影もない。

 俺が倒した外獣の四刀鬼しとうきも長年あの場所に閉じ込められて疲弊していた上に、あの洞窟の狭さや体格差など色んな条件が重なって俺が勝てただけ。

 いつだって、俺は勝利の細い糸を何とか手繰り寄せて生き残ってきた。


 自分の弱さを力説し終えると、俺は再度自分の意思を伝える。


「ということで、一旦出直そ――」

「作戦会議の途中ですみません」


 振り返ると、受付のレーネさんがいつのまにかすぐそばに来ていた。


「そもそも、S級探索者は引く手数多なのでこんなこと引き受けてくれる人が居ないだろうということだけ先にお伝えしておきたくて」

「あ~、そうですよね。A級探索者ですらクエスト依頼が通りにくいですし。1年待ちとか普通ですもんね」

「しかもこれは無報酬ですから。まず引き受けてくださる方は居ないんじゃないかと」


 レーネさんはそう言って、帝国ギルドの魔道デバイスを取り出した。

 空中にウィンドウが表示されて、記入項目が現れる。


「なので、とりあえず依頼だけ出しておいても良いと思います。その後は秋月さんのランクが上がるごとに依頼先もS→A→B級探索者と下がっていきますので」

「大丈夫ですか? いきなりS級探索者と戦うこととかになりませんよね?」

「あはは、あり得ませんよ~。S級なんてギルド内を歩いている姿すら滅多にお目にかけられませんから。それと、アクアさんには帝国に戻ってきた手続きをしていただくので少々お時間いただきますね」

「分かりました! 秋月さんたちは先にお食事してて良いですよ! ここの食堂で落ち合いましょう!」

「では、お二人はB級探索者アクアさんのご友人ということでこちらの入館証をお持ちください。これでギルド内をある程度は自由に歩けますよ」


 時雨と一緒に入館証を首にかける。

 どうやら、一般人は帝国ギルド内に入ることもできないようだ。

 しかし、B級探索者というのは地位が高いのでこうしてある程度の融通も効くらしい。

 いや、本当にアクアさんが居ないと俺は何もできませんでした。


 俺が記入をしている間にアクアはギルドの奥へと呼び出された。

 時雨も一緒に書きたがっていたが、流石にGランクは依頼すら出せないようだ。

 GランクがFランクになるのには訓練学校を卒業するか、実技を兼ねた試験をパスするしかない。

 魔力5000の時雨が試験会場でどんな結果をもたらすか……今はあまり考えたくない。


「記入、終わりました」

「はい、ではこちらで一応依頼として出しておきますね~」

「ありがとうございます。時雨、ご飯食べに行くぞ」

「うん!」


 俺は時雨と2人で帝国ギルドの食堂に向かった。


       ◇◇◇


 ――S級パーティ『無敵艦隊アルマダ』。

 Aランク以上のパーティは帝国ギルドでもさらに特別な存在だ。

 パーティ用の大きな部屋が与えられ、そこで各々が今回の探索の疲れを癒していた。


「シルヴィア、面白い依頼が来てるぞ」

「あら、アーサー。残念ながら貴方の存在よりも面白いモノなんてないわ」

「そりゃ光栄だね」


 軽口を飛ばし合いながら、たった今ギルドの受付嬢レーネによって発注された依頼をアーサーはシルヴィアに見せる。


「どうやら、F級探索者がこの帝国ギルドに入ろうとしているらしい。Eランクで入った僕よりもさらに低いランクだ」

「どうせ、目立ちたがり屋でしょ? 正気じゃないわ」

「あはは、そうかもね。でも、推薦に必要なB級探索者の信頼を勝ち取ったのは事実だ。秋月優太という子らしい。意外に大物になるかもしれないよ」

「そういう奴ほど早死にするわよ。さてと……」


 換装で着替えを終えたシルヴィアにアーサーは尋ねる。


「シルヴィア、でどこに行くつもりだい?」

「お昼だもの、決まっているでしょ?」


 バレバレの変装をしたような格好でシルヴィアは自信満々に言う。


「――ギルドの食堂よ」

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