第17話 F級探索者、再び決闘を挑まれる


「着きました~!」


 魔道列車に乗って約1時間。

 俺とアクアと時雨は帝国――"ウィンターブール"に到着する。

 街はとても整備されていて、俺たちが住んでいた町"シルヴァリア"と比べると行き交う人の数も探索者の数も段違いだ。


「そして、ここが帝国ギルドです!」

「わぁ~! すっごく大きい~!」


 きらびやかな建物の前に案内されて、時雨は無邪気にはしゃぐ。

 一方の俺は……


「秋月さん、どうしたんですか? そんなにキョロキョロして」

「いや、だって帝国なんて来るの初めてだし……田舎者だと思われたらどうしようって……」

「恐らく今の挙動不審な秋月さんの様子で手遅れなので大丈夫ですよ」

「お兄ちゃん、田舎者だとバレると何かマズいの~?」


 呑気な時雨に俺は忠告する。


「いいか時雨、都会の人は怖いんだ。帝国ギルドなんて入った瞬間、『あら、田舎臭いネズミが入り込んでますね』なんて言われる覚悟はしておかないと」

「何ですか、その偏見は……そんな変な人居ませんよ。怖いなら手を繋いで入りましょうか?」

「そ、それは大丈夫っ!」

「むぅ~、じゃあ時雨ちゃん。手を繋いで入りましょう」

「えっ、良いの!? やった~!」


 流石に恥ずかしすぎるので俺は断った。

 というか、アクアはここまで歩いてくるだけでも周囲の注目が凄かったし。

 当然、隣を歩いている俺への男性諸君の殺意も凄かった。

 手なんか繋いだら俺の【危機察知】の特性フィートが全方位で反応するだろう。


「さてと、まずは受付の方にご挨拶を……」


 帝国ギルド内に入り、アクアと受付に向かおうとすると背後から甲高い声が聞こえてきた。


「あ~ら! 田舎臭いネズミが入り込んでいますわねぇ~!」


 そう言って現れたのは赤いドレスに身を包んだアクアと同じくらいの若い女性探索者だった。

 かたわらには槍を携えた男性探索者をボディーガードのようにつけている。


「……すみません、秋月さん。いましたね、"変な人"」


 基本的にあまり笑顔を絶やさないアクアが、心底ウザったそうな表情でため息を吐く。


「何よ、アクアったら。帝国から逃げたと思ったらそんなショボい探索者なんて連れて来て」

「エクレアさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「エレノアよ! 私はそんな洋菓子みたいな名前じゃないわ!」


 エレノアもアクア同様、有名なアイドル配信者だ。

 B級魔法使いウィザードのエレノアとB級盗賊シーフのアクア。

 最近はエレノアの方が他の探索者と組んで高難易度ダンジョンで活躍している。

 アクアが『都落ち』だなんて揶揄されている原因だ。


 因縁の2人の再会にギルド内の注目が集まってしまう。

 彼女――エレノアは手に持っている扇子をバシンッと手元で閉じて得意げな表情を見せた。


「アンタが休んでる間に私は彼とパーティを組んだの。知ってるでしょ? 今、最も注目されている若手B級探索者の鷹野陽介たかのようすけ! 先にA級探索者になるのは私よ!」


 エレノアに紹介されると、やれやれといった様子で鷹野は腕を組む。


「おめでとうございます。では、さような――」

「私は信じてたわ、アンタは帝国に戻ってくるって……」


 アクアの態度など意に介さずに話を続けるエレノア。


「なのに……なのに……」


 何やら怒りを堪えるかのようにプルプルと身体を震わせる。


「何よソイツは!」


 そして、俺を指さした。


「ずっとソロだったアンタが初めてパーティを組んだと思ったら、役立たずを連れて来てどうするのよっ!」

「えっ? アクアって今までパーティ組んだことないの?」

「はい、秋月さんが私の初めてですよ」

「そうだよ! だからお兄ちゃん凄いんだよ~! 大ニュースになっちゃう!」

「大丈夫? 俺ファンに殺されない?」

「あはは。では、まずは受付で登録をしましょう!」

「あはは! そうだね!」

「あははって何!? 俺、殺されないよね!?」


 和気あいあいと話をしながら、さりげなくアクアにこの場を離れるように促される。

 エレノアを無視する方向でいくのだろう。


「コラー! 無視すんなー!! その役立たずをこの帝国ギルドに入れるなって言ってるの!」


 エレノアは地団太を踏んで扇子を床に叩きつけた。

 アクアは面倒な様子を隠そうともせずにため息を吐く。


「秋月さんが役立たずだなんて、どうして分かるんですか?」

「アクアの配信を見ていたから知っているわ。ソイツ、『最弱の探索者』でしょ? レッドウルフに襲われて尻もちついてるところなんて見モノだったわ」

「あぁ、お前。あのバズッてた動画の奴か。アレは傑作だったな」


 エレノアは鷹野と一緒にケラケラと笑う。

 俺の事が笑われて、アクアは少しムッとした表情をした。


「誰だって、最初はモンスターが怖いモノです。笑ってはいけません」

「分からないのかしら? 一緒にいたら貴方も笑いものにされるのよ?」

「構いませんよ。秋月さんは貴方よりもずっと優れた人ですから」

「――あら? 言ったわね?」


 つい買い言葉を言ってしまったアクアを、エレノアは見逃さなかった。


「じゃあ試してあげましょうか? 貴方が連れてきたソイツと私、どちらの方が優れているのか」


 エレノアの身体全体から魔力がほとばしる。

 そうして、また俺のあずかり知らぬところで決闘を組まれてしまったのであった。

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