第13話 何でお前がアイドルと!?


 ――翌朝。


「ふぅ……ふぅ……」


 俺はアクアの家のリビングで筋トレをしていた。

 異世界にいた時から日課にしている。

 やはりこの身体だとまだ鍛え方が足りない。

 せめて、剣技に身体がついてこれるようにしないと……。


「48……49……50!」

「じー」

「わぁ!?」


 気が付くと、隣でアクアが腕立て伏せをする俺をしゃがみこんでじっと見つめていた。


「ごめん、起こしちゃった?」

「いえいえ、私も早起きなんですよ」

「そっか、何か手伝うこととかある?」

「大丈夫ですから、続けてください」

「そう? 分かった……」

「じー」


 腕立て伏せをもう1セット終えても、アクアは俺を凝視していた。

 思わず尋ねる。


「あの……楽しい?」

「はい、とっても!」

「そ、そっか……それは良かった」

「じー」


 ……もしかして、俺が苦しんでる所を見るのが好きとか?

 尋ねることも出来ず、結局アクアは最後まで俺が筋トレする様子を見ていた。


「珍しいですねー、身体を鍛えてるなんて。普通はモンスターを倒してレベルを上げてステータスを上昇させるのに」

「身体そのものを鍛えるのも大切なんだ。技のキレが違ってくるから」

「技? スキルのことですか?」

「あ~うん。そうとも言うかな」


 アクアが作ってくれた朝ごはんを食べながらそんな話をする。

 昨日の夕食もだけど、大人気アイドルの手料理が食べられるなんて冷静に考えると凄いことだ。


「今朝、時雨ちゃんに精密検査をするよう私から病院に連絡しておきました」

「え!? ありがとう、凄く手際が良いね」

「正午には結果が出るみたいなので。問題なければそのまま帝国に移りましょう」

「そっか……でもその、精密検査のお金は……」

「それを気にすると思ったから私が連絡したんです。お金なんか私が出すに決まっているでしょう」

「いつかちゃんと、返すから!」

「そんなの気にしなくて良いですよ」


 アクアが食べ終わったので、俺はすかさずキッチンに立ってスポンジを握る。

 せめて、お皿くらいは洗わないと。


「俺、この町から離れるの初めてだなぁ。お世話になった探索者ギルドにはお別れを言いに行かないと」

「私も後でギルドに顔を出しにいきます。心配している方も居るみたいですし」

「うん。みんなアクアの事を凄く心配してたよ」

「――と言っても、助けに来たのは貴方だけじゃないですか」


 アクアはそう言って、ジト目で俺を見る。


「み、みんな、忙しかったのかも……」

「気を使わないでください、それが普通ですよ。自分の命まで投げ出せてしまう貴方が変なんです」

「そうかな……」

「私は引っ越しの準備や手配がありますから、秋月さんは先にギルドに行ってて良いですよ」

「うん、分かった」


 皿を洗い終えると、俺はまた探索用の服に着替えてギルドへ向かった。


       ◇◇◇


 ギルドに着くと、みんな昔と同じようにギャアギャアと騒いでいた。

 見つかると絡まれることが分かっていた俺はこっそりとカウンターに行く。


「あの……マスター」

「何だよ、秋月。お前に紹介できる仕事はもうねぇぞ? テメーが自分で最後のチャンスを棒に振ったんだ」

「あっ、違うんだ。今日は仕事探しじゃなくて……町を出るからお別れを言いに来たんだ」


 そう言うと、マスターは手を叩いて大声で周囲に呼びかける。


「おい、みんな! 秋月が町を出ていくってよ!」


 その瞬間、全員の注目が俺に集まった。


「おいおい、ここより田舎の町に行くつもりか~?」

「まぁ、そっちの方が良いかもな。お前は探索者なんて無理だしよ!w」

「大人しく畑でも耕してる方が利口だぜ~?w」

「じゃーな、『最弱探索者』さん。またどっかの動画で情けない姿を見るのを楽しみにしてるぜ~ww」


 そして、ドッと大笑いする。

 う~ん、懐かしいなこの感じ。

 そんな風に思っていると、鈴が転がるような綺麗な声がギルドの入り口から聞こえた。


「こんにちは、みなさん!」


 装備を綺麗に新調したアクアがそこに居た。

 すると、ギルド内の空気は一変。

 全員一丸になってのお祝いムードになる。


「アクアちゃん、良かった! 助かったんだね!」

「凄いよ! パンドラから抜け出したんだ!」

「流石はB級探索者!」

「本当に良かった! 大好きなアイドルが居なくなるかと思ったぜ!」


 アクアは作り笑いを浮かべながら頬をポリポリとかく。


「あはは、私も今回の探索で反省しました。やっぱりソロだと限界がありますね」


 そんな話を聞き、ギルド内の実力者たちがこぞってアクアの周囲に集まった。


「おう、アクアちゃん。だったらD級探索者であるこの俺様はどうだ?」

「ちょっと待った、アクアちゃんは盗賊シーフだろ? だったら盾役タンクの俺と相性が良いぜ」

「ふん、君たちD級だろう? 黙っていたまえ。この町一番の実力者、C級である私こそがふさわしい」


 当たり前だけど、大人気だ。

 探索者としてだけでなく、アイドルとしても一級品の美少女アクア。

 みんな、あの手この手で自分をアピールをしている。

 そんな男たちの間を、一人の身なりの良い若い男が割って入った。


「こんにちはアクアさん」


 その瞬間、周囲はザワザワとどよめく。


「オイ、あの人って……」

「あぁ、B級の樫田かしださんだ」

「帝国ギルド所属の!?」

「確か、かなり優秀な新進気鋭の剣士ソードマンだって噂だが……」

「偶然、この町に来てたのか?」


 そんな周囲の紹介を満足そうに聞きながら彼はアクアに片膝をついた。


「アクア様、私なんていかがでしょう? 貴方様を守る騎士の役目を担わせていただけませんか?」


 俺もこの男には見覚えがあった。

 だって、俺がアクアを助けに行く前にギルド内で見かけたから。

 つまり、こいつはある程度の実力があったにも関わらずアクアを見捨てたわけだ。

 騎士だなんて、よく言えたもんだな。


 アクアはそんな樫田や他の探索者たちに対して元気に答える。


「すみません、もうパートナーは決まっているんです!」


 直後、アクアは満面の笑みで俺に手を振った。


「秋月さ~ん! ご挨拶は終わりましたか~? 新居も見つかりましたから、早く一緒に帝国にお引越ししましょ~!」


 若干の誤解を招くような言い方で無邪気に笑うアクア。

 周囲から、刺すような視線が俺に集まった。


 ――――――――――――――

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