第11話 物語の裏側


 アクアの家まで手を引かれながら、俺は気になったことを尋ねる。


「アクアってB級探索者だよね?」

「そうですよ、F級探索者さん」

「何でわざわざこんな町に来て、ランクの低いダンジョンに潜ってたの?」


 実際、B級探索者はかなりの腕前だ。

 アクアは配信を見ない俺でも知ってるくらいの大人気アイドル配信者だし。

 チャンネルの登録者数もアイドルの中では1、2を争うくらいだったはず。

 帝国の方で探索者をやっている方が圧倒的に儲けられるはずだけど……。


「何でって……素材集めですよ?」

「でも、それくらいのことはクエストでも発注しておけば誰かに任せられるし……何か他に大切な目的があったんじゃないの?」

「べ、べべ、別に良いじゃないですかそんなことは! 私は自分の手で集めたいタイプなんです! 私の特性フィートなら効率も良いですし」


 何故か急に慌てだすアクア。

 そんな事をしている間にアクアの家に着いた。


「ここです」

「わぁ……やっぱり凄い」


 この町の外れにある、とても綺麗な家の入り口に到着する。

 きっと、この場所を知っているのはほんの一握りの人間だけだろう。


「じゃあ、少し外で待っていてください。家の中、片づけますので」

「うん、ごめんね急に」

「私が連れてきたんですから、貴方が謝る必要はないですよ」


 そしてパタンと扉を閉められた。



  ――アクア SIDE――


 扉を閉めると、私は一度深く深呼吸をした。


(ヤバイヤバイヤバイ、まさかを連れてきちゃうことになるなんて……!)


 部屋は別に散らかっていない。

 しかし、秋月さんを部屋に入れる前に隠さなければならないモノがあった。

 私は机の上にいくつか手作りして飾ってあった『秋月さん人形』を押し入れの中に押し込む。

 これは休日に私が得意の裁縫技術でチマチマと作ったぬいぐるみだ。


 そう、実は私は秋月さんの隠れファンだった。

 いや、正確にはファンだなんて程には熱心ではない……と私は思っている。

 ただ他の人の配信に映り込んだ健気に頑張っている姿の秋月さんを見ては「夢を諦めない素敵な人だな」くらいには思っていた。

 実際、凄く落ち込んだ日も秋月さんの頑張る姿を見ては心の支えにしていたくらいには……あれ、やっぱり結構なファンだな私。


 しかし、誤解はしないで欲しい。

 恋愛対象とかではない。

 どちらかと言うと、「健気で可愛いな~」「頑張れー!」と子犬や子猫でも見ているような感じだった。

 そう、私の恋愛対象からは外れているはずだった……けど。


(はぁぁ~、まさか秋月さんがこんなにカッコ良い人だったなんて。完全に想定外です)


 誰もが諦める私のピンチに命がけで駆けつけてくれた。

 探索者として頑張り続けている理由は妹さんの命を救う為だった。

 自暴自棄になってもおかしくない不利な特性フィートを数多く抱えて。

 住む場所や食事すら我慢して自分の妹さんの為に頑張っていた。

 そして、入手不可能とも言える『女神のしずく』を見事手にして妹さんを救った。

 秋月さんは可愛い子犬なんかではなく、凄く優しくて勇気のある男の子だった。


 実際、私がこの町に来た理由はもともと秋月さんに会う為だった。

 そしてあの時――


「あっ、視聴者の皆さん見てください! 秋月さんです! 秋月さんがいますよ!」


 実際に出会えた私は興奮気味に呼びかけた。

 しかし、当の本人である秋月さんは既に何者かに痛みつけられたかのようにボロボロで。

 いつもは暖かくて優しいコメント欄も――


 :でたっ! 伝説のww

 :『最弱の探索者』だ!w

 :コイツまだ初級ダンジョンすら攻略出来てねぇんだw

 :てか、ボロボロで汚ねぇ!ww

 :生きてて恥ずかしくねぇのか?www

 :雑魚過ぎww


 私を応援してくれている時とは態度が一転、彼を罵倒するモノであふれかえっていた。

 私は慌てて秋月さんをフォローする。


「ちょっとー、ダメですよ! そんなこと言ったら! 彼だって頑張ってるんですから! 私は応援します!」


 私の動画がキッカケで彼への世間の見方が変われば……

 そんな淡い希望を抱いていた。


 :アクアたん、天使すぎる……

 :こんなゴミにも優しいなんて!

 :おい、羨ましいぞこいつ!

 :今度見かけたらぶん殴る!


 しかし、むしろ私のせいで彼に危害を加えようとするコメントまで出て来てしまう始末。

 分かってもらえないとすぐに理解した私は即座に秋月さんの話題から切り上げる。

 これ以上彼に迷惑をかけてしまわないように。


「じゃあ、ダンジョン探索の方やっていきますね! といっても、素材集めなので大した見どころは無いと思いますが」

「ま、待って! 今からダンジョンに入るの? 夜はモンスターも凶暴化してるし止めたほうが――」


 優しい秋月さんが私に声をかけてくれた瞬間、ダンジョンの内部からE級モンスターのレッドウルフが飛び出して彼に襲いかかった。


 ――グギャー!!


「ひぃぃ!?」

「躾がなってないワンちゃんですね」


 秋月さんがケガなんてしないように私はレッドウルフを切り捨てる。

 尻もちをついている秋月さんの姿を見て、私は背筋が凍った。

 そうだ、秋月さんはたまたま今まで生き残ってきただけで……

 今みたいな些細な襲撃でも死ぬ可能性がある。

 そして、ようやく理解した。

 「応援する」だなんて私のエゴだ。

 毎日酷い目に遭ってる彼を「一生懸命頑張っている」なんて言葉で飾ってはならない。

 本当に秋月さんのことを想うなら……すべきだ。


 ――私は配信を切ると、ワザと落胆したようなため息を吐く。


「あの……あ、ありが――」

「近寄らないでください、雑魚が感染ります」


 私はワザと酷い言葉を投げつけて、秋月さんを睨みつける。


「貴方、探索者サーチャー諦めた方が良いですよ? 才能ないみたいですから」

「え? でも、さっきは応援してるって――」

「あんなの、配信中だったからに決まってるじゃないですか」


 秋月さんが探索者を諦められるように――

 もう危険な目に会わないように――


「もし、またダンジョンで会ったりしたら……怒りますから。凄く」

「は……はい」


 脅すようなマネをしてでも、私は秋月さんに探索者を諦めさせようとした。

 それからグーグーと可愛らしいお腹の音を鳴らす彼にパンを渡して、私はダンジョンに入っていく。

 ……実はその後、こっそりと私は秋月さんがちゃんと町まで安全に帰れるように後ろからついて行って町まで送ったりしていた。

 今思えば、ちょっとしたストーカーだったかもしれない。


 それから[試練のダンジョン]に入った私はやっぱり心ここにあらずで……

 間抜けにも、転移のワナなんてモノを踏んでしまった。

 目の前に現れたのは4本の剣を構えた巨大なモンスター。

 バチが当たったんだと思った。

 今まで、私が秋月さんを自分の慰めの道具にしてきたことへの。

 何とかソイツの攻撃を躱して、躱して……

 でも限界を迎えた。

 死を覚悟した時に思い浮かんだのはやっぱり秋月さんだった。


(ダンジョンに入る私のことを心配してくれて、優しい人だったな……)


 そんな風に思って瞳を閉じると、突如けたたましいアラーム音が鳴った。

 そして、外獣の目の前に現れたのは――私が思い描いたその人だった。


 絶望に染まっていた私の頭は驚きで満ち。

 そして同時に喜びと、希望があふれてきた。

 本当に私の頭の中から飛び出してきてくれたのかと錯覚した。

 あんな態度をとった私なんて嫌われて当然なのに……


「怒ってくれたのはアクアの優しさだと思う。本当に心配してくれたからこそ、俺が探索者を諦められるように自分が悪く見られることもいとわなかった。応援なんて、聞こえは良いけどただ無責任なだけだと思うし」


 そんな風に、私の気持ちを汲み取ってくれていた。

 最初は私が秋月さんを守ってあげなきゃなんて思ったけど。

 結局、秋月さんは私をあの絶望の場所から逃がしてくれて、外獣も討伐してくれた。


 今でも思い出すだけで顔がニヤついてしまう。

 まるで絵本の中の騎士様だ。

 ――にしては少し頼りない感じもするけれど。

 むしろそんなところも愛おしく感じてしまう。


 そして、そんな秋月さんを私は今……


(い、家に連れてきちゃいました! 手も何回もつないじゃったし……しつこすぎて若干拒否されたりもしましたが、大丈夫です! だって、外になんて寝かせられませんから、仕方がなかったんです!)


 私は頭の中で言い訳を並べ立てる。

 そう、これは事故。

 決して私は厄介ファンではない。


 秋月さんを家に入れても問題ない状態にするともう一度深呼吸をする。

 覚悟を決めると私は家の扉を開いた。


 ――――――――――――――

【お詫び】

 本作は、他のキャラ視点も入れていこうと思っています!

 少し読みにくいかもしれませんが、物語を面白くする為なのですみません……

「大丈夫だよー!」

「楽しんでるよー!」

 と思って頂けましたら作品フォローや☆評価やコメントをお願いいたします!

 不安なので……お願いします!

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