第9話 異世界スキルで無双する
「グォォォォ!」
俺に剣を弾かれた外獣は大きな声を上げて後退した。
即死を免れた俺の目の前にウィンドウが現れる。
"SSSランククエスト『英雄の誕生』クリア、おめでとうございます"
"報酬をお渡し致します"
そのメッセージと共にいくつかのアイテムが俺のインベントリに収納される。
インベントリとは誰もが持っている空間収納機能だ。
『女神のしずく』は小瓶に入っているようだった。
長年求め続けた秘薬がついにこの手に。
あとはこの外獣を倒して、妹の――時雨のもとに向かうだけだ。
俺はその場で軽く身体を動かして今の状態を確かめる。
(異世界で鍛え上げた身体には遠く及ばないけど、この頃の俺の身体も悪くない)
やっぱりマイナス
そして、その厄介だった
体勢を立て直した外獣は構えを変えた。
今までは、ネズミでも追いかけてる気分だったんだろう。
しかし、俺への認識を改めて本気の手合いをするつもりらしい。
4本の腕をグルリと一回転させる。
「俺はレベル1のF級探索者だぜ? 手を抜いて欲しいな、文字通りの意味で何本か」
俺も刃こぼれした短剣を手に真っすぐ外獣に向ける。
それと同時に、俺は異世界で手に入れた能力を発動した。
(『鑑定』スキル……)
俺が異世界で飢えに耐え切れず、食べられそうな草やキノコを食いまくって身に着けたスキルだ。
このスキルで周囲の物や生物に対してある程度の情報を得ることができる。
(俺の短剣はあと一発、剣技を使ったら壊れるな)
(この外獣は
(HPは8000程度……この身体と武器で削り切れるか?)
直後、俺が異世界で手に入れたもう一つの能力が発動する。
俺が右に向かって跳ぶと、俺のいた場所に
(
俺は事前に危険が迫っている場所が分かる。
異世界で雷魔法を200発避けた時に身に着けたスキルだ。
ここまでで分かる通り、俺の異世界生活は全く余裕なんかではなく。
むしろ生きて帰って来れたのが不思議なレベルだった。
「安心しろよ、もうパリイは使わない。たしか、『強者との決闘』を望んでるんだろ? こいよ」
言葉が通じるわけもないが煽ってみせると、
俺はそのまま構えを変えずに短剣を
短剣の強度的に1発しか技は出せない。
――これで決める。
「ヌゥゥゥ!」
突進してくる
「――『スラッシュ』」
俺は4本の剣をかいくぐりながら短剣を振りぬいた。
『スラッシュ』は異世界に行く前の俺でも使えた基礎中の基礎スキル。
しかし、極めるとその威力は岩をもたやすく両断する。
――ズパァァン!
お互いに剣技を出し合い、制止する。
直後、俺の手に持った短剣は技の威力に耐え切れず、力を使い果たしたように砂となって崩れていく。
見ると、俺の攻撃を受けて満身創痍の
胸に大きな傷跡を作ったそいつを、俺は再び鑑定する。
(残り体力は122か……ミリ残しだな)
言い訳は色々とある。
廃品同然の短剣、レベル1のステータス。
技本来の威力がほとんど出ていなかった。
「グ、グハハハハ!」
俺の武器は完全に消滅した。
勝利を確信しているのだろう。
「……そこ、危ねーぜ?」
直後、
俺の『危機察知』はその場所に危険が迫っていると明確に示していた。
だから俺は
しかし、できれば自分の手で倒したかった。
だって――。
「グッバイ、経験値」
自分の手で倒さないと経験値が手に入らないから。
そのせいで、俺のレベルはまだ1のままだ。
そして、
岩をどかし、ひとまず全てをインベントリに収納して俺は転移の魔方陣を踏む。
光に包まれると、俺は外に飛ばされた。
◇◇◇
「あぁ、どうしようどうしよう! 秋月さんが! 秋月さんがあの場所に残ってしまいました!」
転移先の丘の上では綺麗な青い髪を揺らして頭を抱えている彼女がいた。
「帝国に救援要請を? ですが、どんなに早くても1カ月は……それとも、一か八か私がもう一度助けに行くとか……」
「――秋月さんが外獣を倒すのを信じて待つってのはどう?」
「あんなへっぽこ探索者に倒せる訳ないじゃないですか! あっ、でもへっぽこと言っても凄く勇気がある優しい素敵なへっぽこで――」
俺が背後から提案すると、アクアはそこまで言ってピタリと止まった。
そして、油を差していない機械人形のようにギギギと俺に方に振り向く。
「やぁ、へっぽこ探索者だ」
「あ……秋月さん!」
アクアは瞳に涙を貯めて俺に飛びついてきた。
「この馬鹿! へっぽこ! 命知らず!」
「えっと、もしかしてもうお説教始まってる?」
「うわぁ~ん!」
俺の胸元に顔を押し付けて子供のように泣きじゃくる。
13年ぶりに目にしたアクアは俺の思い出の中のアクアそのままで……
ようやく俺は、自分が元の世界に帰って来れたのだと実感することができた。
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