第7話 SSSランクの隠しクエスト


 一緒に岩場を移りながら、さっきアクアが指さしていた方向をチラリと確認する。


「……ん? 向こう、何か光ってないか?」

「――あっ!? あの場所は、私が転移の魔方陣を発見した場所です!」

「おぉ! ってことは!」

「はい! 起動しています! 踏めば出られますよ!」

「……でも、何で急に?」

「そんなのどうでも良いじゃないですかっ! 今がチャンスです、一緒に逃げますよ!」


 アクアはそう言うと、俺の手を掴んで一緒に駆け出そうとする。


「ちょっと待って! 一緒に行くのはマズいって!」

「何でですか?」

「俺はマイナス『特性フィート』で足が遅いんだ! 邪魔になるからアクアが先に一人で出て!」

「そんなこと、出来るわけないじゃないですか! でも確かにもう少し様子を見た方が良いかもですね……」


 アクアだけなら問題なく脱出できただろうタイミングを手放し、2人で再び岩陰に潜む。

 助けに来たはずなのに、なんてザマだ。

 その間に俺は魔法陣が発動した理由を考えた。


(俺が入って来たから魔法陣が発動した……?)


 タイミングを伺っているアクアの後ろで考える。

 これってもしかして……。


「秋月さん、今がチャンスです! これだけ離れていればノロマな秋月さんでも間に合います!」

「よ、良し! 行こう! でも、走りにくいから手は繋がないで」

「絶対について来てくださいよ!」


 共倒れになることだけは避けつつ、アクアと一緒に岩陰を飛び出す。

 しかし、俺は魔法陣まで道半ばのところで、外獣に気が付かれてしまった。

 一方、間もなく魔法陣に到達するアクアは走りながら呼びかける。


「秋月さん! 急いで!」

「アクア、先に脱出してくれ! これなら俺も十分間に合う!」

「――っ! 分かりました!」


 しかし、魔方陣を踏む寸前のところでアクアが急に足を止めた。

 まるで何かを察したかのように。


「……ちょっと待ってください、もしかしてこれって1人しか――」

「ていっ!」


 俺はアクアを突き飛ばす。

 直後、魔法陣の上に突き飛ばされたアクアの転移が始まった。


「は!? ちょっと、何して――」


 アクアの怒号が飛び出す前に転移の魔法陣は発動し、アクアは姿を消す。

 そして、魔法陣は再び光を失った。

 もう転移は発動しないようだ。


(――やっぱりな)


 俺がこの[試練のダンジョン]の転移の罠の前で見た文字。


『我、強者との決闘を所望するモノなり』


「決闘って言ったらやっぱり1対1タイマンだよな。俺が現れた時に外獣お前が怒ってた理由も分かるぜ」


 決闘という条件を満たす為に、1人はこの部屋に残らないといけない。

 なので、2人目がここに飛ばされた時点で1人は出られるようになったんだ。


 外獣は残った俺を見て、再び4本の剣を構えた。


(さて、アクアが帝国に救助を要請して……奇跡が起これば1週間くらいで救助が来るか。それまで生き残らねぇと……断食なら慣れてる)


 アクアですら一晩でボロボロだった。

 だから1週間なんて無理だろうが、やるしかない。


 自分が生き残る方法を模索していると、急に俺の目の前にウィンドウが現れた。

 今まで見た事のない、真っ赤なウィンドウだ。

 そこにはこう書かれている。


"隠しクエスト、『英雄の誕生』。開始条件を満たしました"


(……隠しクエスト?)


 噂には聞いたことがある。

 その全てがクリア不可能ともいえるほどの超高難易度クエスト。

 しかし、外獣が目前に迫っているこの状況では泣きっ面に蜂みたいなもんだ。


 "クリア条件

『世界の9割が魔王の手に落ちた異世界。その平和を取り戻すこと』

 ――難易度SSS"


「難易度SSS!? ぜ、絶対に無理だ! キャンセル! てか、それどころじゃないからさっさとウィンドウ消えてくれ!」


 しかしその下に記載されている文章の一部を見て、俺はキャンセルボタンを押す寸前で止まった。


 報酬:女神のしずく×2

    特殊『特性フィート』:影の英雄

    異世界で得た能力

    ………………

    …………

    ……


(――女神のしずく!?)

 

 脳裏に浮かぶのは病室で強がった笑顔を見せる時雨の姿だった。

 その瞬間、考えるまでもなく俺は"『受諾』"のボタンを押していた。


「ヌグォォォォ!」


 外獣が4本の剣を俺に向かって振り下ろす瞬間。


 ――俺の身体は異世界へと飛ばされた。

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