第6話 英雄の条件

「え? パンをもらったから命を投げ出して助けに来たんですか? ワンちゃんか何かなんですか、貴方は?」

「…………」


 返す言葉もなかった。

 そんな話をしている間も外獣は俺たちを探して付近の岩を剣で叩き割っている。


「――幸い、貴方が来たおかげであのバケモノが怒り出してさらに身を隠す場所を増やしてくれましたから。上手く隠れればもう少しは生存できそうですね」

「そ、そうだな! その間にここから出る方法を考えないと……アクアはずっと隠れてたのか?」

「いえ、最初に飛ばされてきた時は岩も落ちてなかったんですよ。だから、死ぬ物狂いであの剣を避けてました」

「よく避けられたな……」

「あ~、これのおかげです」


 そう言って、アクアはステータス画面を呼び出し、見せてくれた。


特性フィート

 ・素早い:貴方は猫のように素早い

  (敏捷+150)

 ・獲得者;貴方は得る物が多い

  (アイテムドロップ増加)

 ・心眼:貴方は攻撃を避けるのが上手い

  (回避率アップ)

 ・生存本能:貴方はしぶとい

  (強敵に対する回避率アップ)

 ・目利き:貴方は見逃さない

  (レアドロップ増加)

 ………………

 …………

 ……


 他にも、何とも羨ましい能力が並ぶ。


「回避特化型の盗賊シーフなんですよ、私」

盗賊シーフなのに罠に気が付かなかったの?」

「……あと、クリティカルも出やすいんですよ。貴方で試してみましょうか?」

「ごめんなさい」


 触れてはいけないところだったようだ。


「貴方のも見せてくださいよ。ステータスはともかく、『特性フィート』によっては何かここから出られる助けになるかもしれませんし」

「えっと、見ない方が……」

「何言ってるんですか。恥ずかしがってる場合じゃないでしょう」


 仕方がないので俺のステータスを見せる。

 そして、マイナス『特性フィート』のみが記載された俺の画面を見てアクアは感情を失った顔をした。


「えぇ……何これ、こんなの見たことない。なんでこんな状態で探索者サーチャーを諦めなかったんですか」

「俺には目的があるから。どうしても達成したい目的が……」


 俺がそう言うと、アクアは俺の顔をじっと見つめてきた。


「……そうですか。じゃあ、ショックでしたよね。私に『探索者を諦めろ』だとか言われて」

「別に言われ慣れてるし、それに……」


 俺はあの時のアクアの様子を思い返す。


「怒って貰えたのは初めてなんだ。だから、嬉しかった」

「何でですか? 応援してもらえる方が嬉しいと思うんですけど」

「怒ってくれたのはアクアの優しさだと思う。本当に心配してくれたからこそ、俺が探索者を諦められるように自分が悪く見られることもいとわなかった。応援なんて、聞こえは良いけどただ無責任なだけだと思うし」


 俺がそう言うと、アクアは気恥ずかしそうに頬をポリポリとかく。


「ま、まぁそんな話よりそろそろ別の岩場にこっそりと移動しましょう。アイツが近づいてきましたし」


 2人で岩場を移動しながらアクアは語る。


「――私、本当に心細かったんですよ? もう絶望しかなくて、昨日からあのバケモノの攻撃から逃げて避けて、体力もギリギリで……隠れる場所もほとんど無くなって、ようやく諦める決心ができたのに……貴方みたいなへっぽこ探索者が、身の程も知らず助けに来るなんて」


 アクアは大きなため息を吐いた。


「どうしても2人で一緒に外に出て、貴方を𠮟りつけないと気が済みません。私のお説教は朝まで続きますから、覚悟してくださいよ」


 ――そして、少し楽しそうに笑った。

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