第4話 無謀なる挑戦


(アクアが……ダンジョンから帰ってきてない?)


 あまり配信を見ない俺でも知っている。

 アクアは人気の配信アイドルでありながら、実力派の探索者だ。

 いつもソロだが、無理をするようなタイプじゃない。


 ギルドの探索者たちは話を続ける。


「行ったのは、[試練のダンジョン〈D〉]か」

「Dランクのダンジョンなんてアクアちゃんにとっては余裕だろう」

「あぁ、だが素材集めの配信を切った後……まだダンジョンから出てきた記録がないんだ」

「配信を切って探索している間に、恐らく何らかの問題が発生したんだろう」

「何らかの問題って……もしかして」

「『パンドラ』だろうな」


 ――『パンドラ』

 ダンジョン内で稀に隠された空間が見つかることがある。

 自分で見つけることもあれば、ダンジョン内部に仕掛けられた罠で転送されてその空間に強制的に送られる……なんてことも。

 そして、大抵はそのダンジョンに見合わない遥か高レベルのボスモンスターとエンカウントすることになる。

 一説ではだなんて噂もあるほどだ。

 そのことから、パンドラに発生するモンスターは外獣がいじゅうとも呼ばれている。


「冗談じゃねぇ! 『パンドラ』だと!?」

「そうだ、助けに行けるのは最低でもA級クラスの探索者になる」

「だが、この街にA級なんて……」

「帝国ギルドに派遣をお願いしても数日はかかるんじゃねぇか?」

「それじゃあ、もうアクアちゃんは……」

「そんなの、もうとっくに外獣にやられてるだろうさ」


 みんな、すでにアクアの生存を諦めているようだった。

 しかし、それも当然のことだ。

 『パンドラ』は探索者を食い殺す厄災。

 Sランクの探索者が挑んでそのまま帰ってこなかったり。

 あまりに強力すぎるが為に封印されたままのダンジョンも数多く存在している。


「――お。秋月じゃねぇか」


 群衆の中の一人が俺に気が付いて声をかける。


「おう、テメーの切り抜き見たぜ!w」

「今回も見事な無様っぷりだったな!w」

「てゆーか、テメェ! 薬草の納品しなかっただろ!」

「マジかよ、ついに薬草の納品までできなくなったのかよw」

「もう受けられるクエストはねーぞ!w ぎゃはは!w」


 みんな、今回の件から早く目を背けたいのだろう。

 良い話題のタネである俺を見つけると口々にあざけ笑う。


「だが、偶然良い仕事が入ってな。早い者勝ちだぜ? 町の北に住む金持ちのババアの家の草むしりだ」


 そういって、ギルドマスターは俺の肩に手を置いた。


「あの切り抜きのおかげでみんなこれからもアクアちゃんのカッコ良い姿を思い出せるからな。これはそのお礼みたいなもんさ。薬草採集の100倍は稼げるぜ? 気に入られりゃそのまま次の仕事ももらえる」


 通常なら喉から手が出そうなほどの提案。

 しかし、俺の心は全く動かなかった。


「どうした? 考えるまでもねぇだろ。てか、これ受けなきゃテメェはもうお先真っ暗だぜ?」

「俺は……」


       ◇◇◇


 ――10分後。


 F級探索者の俺――秋月優太あきづきゆうたは腰に短剣を携えて、1人で[試練のダンジョン〈D〉]の目の前に来ていた。

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