第2話 アイドルの配信に映り込む


「ちょっとー、ダメですよ! そんなこと言ったら! 彼だって頑張ってるんですから! 私は応援します!」


 :アクアたん、天使すぎる……

 :こんなゴミにも優しいなんて!

 :おい、羨ましいぞこいつ!

 :今度見かけたらぶん殴る!


「じゃあ、ダンジョン探索の方やっていきますね! といっても、素材集めなので大した見どころは無いと思いますが」


 綺麗な髪をひるがえし、ダンジョンの入り口へと向かうアクア。

 俺はつい駆け寄って声をかける。


「ま、待って! 今からダンジョンに入るの? 夜はモンスターも凶暴化してるし止めたほうが――」


 その瞬間、ダンジョンの内部からE級モンスターのレッドウルフが飛び出してアクアのすぐ後ろに居た俺に襲いかかった。


 ――グギャー!!


「ひぃぃ!?」

「躾がなってないワンちゃんですね」


 しかし、アクアは腰から抜いた短剣で一閃、簡単にレッドウルフを真横から切り払う。

 レッドウルフの身体は消滅し、ドロップ品の毛皮や牙が周囲に散らばった。

 一方の俺はと言えば、今の奇襲に驚いて悲鳴を上げながら尻もちをついてしまっていた。


 :これはww

 :切り抜き決定w

 :【悲報】最弱探索者、やはり最弱だったw

 :秋月お前、船降りろ

 :今のでションベンちびったか?ww


 コメントはさらに俺を嘲笑する言葉で埋まった。

 俺がゴブリンにボコボコにされている所や冒険者にイジメられている所はよくSNSにアップされている。

 その度にこうして笑い者にされて、有名人になっていった。


 アクアはそんな俺の情けない姿を見て、ため息を吐く。


「……少し汚れてしまったので、ダンジョンに入る前に着替えますね! 一旦、配信切りまーす!」


 :●REC

 :俺も脱いだ

 :続きはファンボックスで!


 アホらしいコメントに苦笑いを浮かべて、アクアは配信画面ライブウィンドウを閉じる。

 助けてくれたアクアに俺は感謝しようとした。


「あの……あ、ありが――」

「近寄らないでください、雑魚が感染ります」


 先ほどまで俺を応援してくれていた時とは態度が一変。

 アクアは俺を睨みつける。


「貴方、探索者サーチャー諦めた方が良いですよ? 才能ないみたいですから」

「え? でも、さっきは応援してるって――」

「あんなの、配信中だったからに決まってるじゃないですか」


 そう言うと、アクアは自分のカバンの中からパンを取り出して俺に差し出した。


「ほら、さっきからお腹の音がうるさいです。これでも食べて大人しく町に帰ってください。素材も欲しい物ではなかったので差し上げます、それを売って少しは生活のたしにでもしてください」

「う、うん……ありが――」

「だから、お礼は要りませんって! じゃあ、もうダンジョンで会わないことを願います」


 そう言って、アクアは装備を換装するとダンジョンに向かった。

 最後に、振り返りもせずに俺に一言。


「もし、またダンジョンで会ったりしたら……怒りますから。凄く」

「は……はい」


 アクアから貰った貴重な食糧であるパンを握りしめて、俺は呆然とその背中を見送った。


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