異世界帰りの剣聖は、自分の実力に気がつかない ~SSSランクの隠しクエストを受けて帰ってきたらレベル1のF級探索者になったけど、異世界で鍛え上げた剣術が強すぎて王女やS級英雄たちが俺を放ってくれません

夜桜ユノ【書籍・コミック発売中!】

第1話 強くなる前の『最弱の探索者』

 

 ――ダンジョン探索。

 それは、労働の義務のようなモノだ。


 剣と魔法で探索者サーチャーたちが活躍するこの世界。


 誰もがダンジョン攻略で生計を立てている。


 しかし、俺――秋月優太あきづきゆうたは……

 その中でもとんでもない"落ちこぼれ"だった。


 いまだにFランクのモンスター、ゴブリンすら狩れずに返り討ちにあい、初級者ダンジョンの低階層で追い返される始末。


 剣を振っても躱され。


 カウンターのこん棒で袋叩きにあう。


 そして付いたあだ名が『最弱の探索者』だ。


 俺の弱さには理由がある。


「ステータス」


 草原をぴょこぴょこと跳ねているGランクモンスターのスライムを狩って、ようやくレベル3に上がったばかりの俺はステータスウィンドウを表示させた。


 スキルは学校で習った基本剣術のみ。


 覚えられた魔法は無い。


 反面、『特性フィート』の欄には賑やかな文字が並ぶ。


特性フィート

 ・落ちこぼれ:貴方は才能がない

  (全能力にマイナス補正)

 ・無能:貴方は覚えが悪い

  (獲得経験値激減)

 ・のろま:貴方の動きは亀のようだ

  (敏捷-150)

 ・敗北者:貴方は負け犬だ

  (戦闘時、能力低下)

 ・不幸体質:貴方は世界に嫌われている

  (運-100)


 『特性フィート』のいくつかは生まれながらにして決定づけられている。


 普通は自分にとって有利なモノが並ぶはずだが、俺の場合は逆だった。


 マイナス『特性フィート』なんて1つあるだけでも珍しいのに、俺の場合は5つ。


 探索者サーチャーになるなんて不可能だ。


 何度もそう言われてきた。


 だが、俺は探索者になって絶対に叶えなくてはならない"目的"があった。


      ◇◇◇


「――時雨しぐれ、今日の調子はどうだ?」

「お兄ちゃん。うん、元気――ゴホッ、ケホッ……」


 俺が住む小さな町、シルヴァリア。


 その病院の一室に8歳の俺の妹――秋月あきづき時雨しぐれは入院していた。


「大丈夫かっ!? 今、お医者さんを呼んでくるから!」

「ただ咳き込んだだけだよ? 全く、お兄ちゃんってば心配性なんだから~」


 そう言って気丈にクスクスと笑う時雨。

 しかし、その顔色は日に日に悪くなっている。


「もう少しで『女神のしずく』が見つかりそうなんだ! もう少し待っててくれ!」


 どこかのダンジョンに眠ると言われている伝説級レジェンドアイテム、『女神のしずく』。


 効果は『あらゆる病気を治す』というもの。

 時雨は不治の病だ。

 早くこれを手に入れないと間に合わなくなる。


「神域のダンジョンももう60層まで攻略しててな! もう少しでお宝にたどり着けるはずだ! 本当にあと少しで助かるんだぞ!」


 実際はまだF級ダンジョンすら攻略できてないが、時雨には人類未踏のダンジョンに挑んでいると話している。


 嘘でもなんでも良い。


 とにかく、何とか時雨を元気づける。


 寿命を一日でも伸ばしてタイムリミットを稼ぎたかった。


「……お兄ちゃん。ありがとう、嬉しいよ」


 そう言って俺の手を握る。

 時雨は俺と違って賢い子だ。

 噓も見透かされているかもしれない。

 そして、同時に優しい子でもあった。

 俺の傷だらけの手を見て、少し心配そうに笑う。


「私は十分幸せなの。だから……無理はしないで」


 俺は時雨の手を強く握り返した。


「……お兄ちゃんが、絶対に何とかしてやるからな」


 新たな決意を胸に、俺は今日もダンジョンに向かった。


       ◇◇◇


 どんなに想いが強くても、俺の戦闘能力ではダンジョン攻略は難しかった。

 足手まといになると分かりきっている俺なんかと組んでくれるパーティは居ない。


 せめて時雨の入院費を稼ぐ為に、俺は今日も薬草採集のクエストを受けてダンジョン前でせっせと薬草を摘んでいた。


「――おいおい。まだこんなところで文字通り、道草食ってんのか?」


 そんな俺の前に現れてニヤニヤとした表情で語りかけてきたのは同じ年に訓練学校を卒業した郷田ごうだだ。

 そして、仲間と思わしき男たちで俺を取り囲む。

 俺よりはるか先にD級探索者になった郷田がこんな初級ダンジョンの前になんて、用事があるはずもない。

 俺を馬鹿にしにきたんだろう。


「……食べてはないよ。納品する大事な薬草なんだ」

「そうなのか? 本当に食べてるのかと思ったぜ」

「そうだな、だってお前って貧乏だし」

「それに、本当に『草食系』って感じだもんな」


 そう言うと、仲間同士でゲラゲラと笑いだす。


「クエストの最中なんだ。悪いけど今度にしてくれ」


 薬草採集のクエストの納品期限は夕方までだ。

 ギルドまで運ぶことを考えると余裕がない。


「へぇ、そうなのか。じゃあ手伝ってやるよ」


 そう言って、俺が摘んだ薬草の入ったカバンを取り上げると郷田はひっくり返した。

 地面に散らばった薬草を、泥の付いた靴で踏みにじる。


「薬草って潰して薬の原料にするんだろ? これで手間が省けるぜ?」

「郷田優しー! じゃあ、俺らも手伝ってやろうぜ!」

「や、やめろよっ!」


 抵抗しようとしたら蹴り飛ばされて、そのままタコ殴りにされた。

 しこたま殴り終えると、彼らは俺に唾を吐きかけて笑いながらその場を去る。

 納品期限が過ぎてその場に転がっていたのは――

 ボロボロに傷ついた俺と、無残にすり潰された薬草の残骸だった。


(くそっ、これでクエスト失敗……。今日の晩飯はそこらへんの野草やキノコだな)


 グーグーと鳴りやまない自分の腹を押さえつけながら食べ物を探していると、今度は明るい女性の声が聞こえてきた。


「あっ、視聴者の皆さん見てください! 秋月さんです! 秋月さんがいますよ!」


 続いて登場したのは、女性のダンジョン配信者だった。

 綺麗なドレスと短剣を装備した有名アイドル配信者、アクア。

 そして、向こうも俺のことを知っているらしい。

 なぜなら――


 :でたっ! 伝説のww

 :『最弱の探索者』だ!w

 :コイツまだ初級ダンジョンすら攻略出来てねぇんだw

 :てか、ボロボロで汚ねぇ!ww

 :生きてて恥ずかしくねぇのか?www

 :雑魚過ぎww


 ステータスウィンドウと同じ様に宙に浮かぶ配信画面ライブウィンドウには俺を罵倒するコメントが飛び交う。


 俺は有名人だった、もちろん……悪い意味で。


 ――――――――――――――

【感謝&お願い】

読みに来てくださったみなさま、ありがとうございます!

最初は不遇パートですが、サクサクとテンポよく進めていきます!


「主人公が無双して周囲を驚かすのが楽しみ!」

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